第六十四話 男の俺よりカッコイイのに言動が可愛いという最強の矛盾
文化祭当日は当然の如く自宅待機。
時雨達は行きたくないと駄々をコねたが「折角作り直した背景を使っている所を見ないと勿体ない」と説得。俺と休みが合ったらなにを要求されるか分からない。
俺は今日一人で頭と身体を休めるんだ。
颯太は今日は保育園。親は二人とも仕事。
家には俺しかいない。よって俺の休日を邪魔する者はいない。
だが神はそんな充実した休日は許さないようだ。
「お前いまどこ?」
「家だけど」
「そうか、いくわ」
「なんで」
「暇だから。じゃな」
夏鈴からの電話。
まあ、夏鈴ならイベントに参加しなくても怪しまれないし誰も文句は言わないだろうがなぜ俺の家に来るのか。
ゲームはあるが夏鈴はゲームするような柄じゃないし十六夜みたいに喋り倒すという柄でもない。
「狼斗!あけろー!」
「朝から騒ぐなよ......んで、なんの用だ」
「ピクニックしようぜ!」
天真爛漫の笑顔の下にはバケットが持たれていた。
クラスの連中の前でも少し少女チックな部分を見せればファンも増えるだろうに。
「なんでわざわざ」
「弁当作ったから。サンドイッチだけど」
おそらくバケットの中身がサンドイッチなんだろう。既に作られてしまっており夏鈴一人では処理に困るだろう。弟たちにあげればいいのに。
「着替えるから中で待ってろ」
着替えて玄関に行くと彼女と遊びにいくみたいでなぜかワクワクした。
相手が夏鈴ということで気を許している部分は少なからずあるしベタベタしてくる十六夜達と比べると大分楽だ。
「弁当持ってどこ行くんだよ」
俺の住む地域は土地開発とかで自然が破壊され尽くした地域。
自然というと街路樹か小さな公園しかない。
「あるだろ。一つだけ」
「中央公園のことか?」
「そ!あそこなら家族連れもいるし人も多い。ピクニックには丁度いいだろ!」
名案とでもいうように目を輝かせる夏鈴は実年齢より幼く見える。
服装は男の俺よりカッコイイのに言動が可愛いという最強の矛盾。
こいつに勝てる人間は今この地球上には存在しないだろう。
中央公園に着くと予想通り家族連れや老夫婦や大学の友達などで賑わっていた。
少し傾斜になっている坂の下には池が広がり人が泳げるほどの綺麗さはないものの鯉などもいて坂上には大きな遊具があるため子供は大いに楽しめるだろう。
例え大学生ほどになろうとも広場は相当な面積があり野球やサッカーなどの競技も出来たりする。
勿論専用のピッチやグランドじゃないし傾斜なためボールが池ポチャするなんてこともしばしば。
「ここに広げようぜ」
夏鈴が持ってきたレジャーシートを広げ座った。
細いくせにしっかりとした体形を持つ夏鈴はこの光景だけで写真集が作れそうだった。
「今頃文化祭の真っ最中か」
「だろうな。行けばいいのに」
「おれが行ったら誰も楽しめないだろ」
「分からないぞ?今みたいに乙女チックな部分を見せればあいつ等だって心開くだろ」
「向こうの弱点知らないままこっちの弱点教えんのはやだ」
「俺はいいのかよ」
「狼斗は教えて貰ったからおけ」
教えたんじゃなくて暴露されたという方が適切だがな。
「同じだって。ほら、食え!」
「よくこの量作る気になったな」
「なんか昼飯作ってたらこんな量になってた」
「で、俺に食わせると」
「美味いだろ?」
「めっちゃうまい」
挟んであるレタスやトマトは今取って来たかのように瑞々しい。しつこい味付けはなく軽く塩と胡椒が振ってあるだけだった。瑞々しさを失わずかつ味変出来るのは才能だと思う。
どの食材とどの食材が相性がいいのか分かっている人の料理だ。
コンビニに並んでいても違和感ないくらいだ。
「喜んでもらえたなら作った甲斐あったぜ」
どういう育て方をしたらこんな矛盾だらけなのにカッコイイというチートに育つのだろうか。
女子でありながら俺の対象には引っかからず、それでいて考え方や行動はその辺の女子より女子している。
これをチートと言わずしてなんという。
「ねみ」
「なら家で寝てろよ」
「今眠くなったんだよ......」
「ならもう帰るか?」
「いやだ。もっといる」
「眠いんだろ?」
「膝貸せ」
威圧的過ぎるお願いに俺は大人しく膝を差し出した。
夏鈴は俺の太ももに頭を乗っけると尖った八重歯を見せて笑った。
「三十分後に起こしてくれ......」
「分かったよ。サンドイッチの分な」
「おう」
秋も中盤に差し掛かる頃、ひと月前の暑さが噓のように風が冷えた空気を運んでくる。
まだ薄手の上着で事足りるが膝の獅子は寒そうに身を縮めた。
「もっと温かい恰好して来いよ」
俺は上着を夏鈴にかけ、スマホゲームを起動した。




