第六十三話 フレンドリーファイアまでがルーティーン
「加羅忍。隠しカメラとかないのか」
「そんな物騒なものはありません」
「人に小型GPSつけたくせによく言うぜ」
となると俺から出せる手は無くなってしまう。
捨てる瞬間を捉えれていて浅野という女子生徒に疑いの目が行ったことが俺としては想定外。
あとは時雨達に突破口を開いて貰ってそこから俺が隙を探り出すしかないが……手がないのは時雨達も同じようだった。
「あのさぁ。部外者じゃないっていうのは分かったけどぉ。犯人探しするなら証拠を集めてからにしてぇ?その板だって粗大ゴミ置き場からわざわざ持ってきてさぁ」
かかった。
相手が馬鹿で助かった。
「ん。真島ぁ。なんでこの板が粗大ゴミ置き場にあると知ってたんだ?」
「はぁ?鳴川先生がぁ、そう言ったんですよぉ?」
「いやいや、わたしは『ゴミ捨て場』としか言ってない。映像も見てないのになぜこの
板の所在を知っている?実際に捨てに行った浅野と相羽は兎も角」
「そんな板が置ける場所って粗大ゴミ置き場しかなくないですかぁ?」
「佐藤。粗大ゴミ置き場の存在は知っていたか?」
「いや……知らなかったですけど」
「それはそうだろ。生徒は基本的に表のゴミ置き場しか使わないからな。裏は基本的に事務の人か美術の先生しか使わないからな。危険なものあるし裏だし危険だからな」
普段通行止めにされているわけじゃないが本当に裏なため行く生徒はかなり少ない。
『かなり少ない』というのは俺みたいに友達ゼロのボッチが時々たまーに行くのを見かけるから。
逆に言えば、それ以外の生徒は立ち寄らない場所だ。
「その点についてなにか反論はあるか?」
「ただ家での癖でぇ……」
「家で粗大ゴミが出ても粗大ゴミ置き場は流石にないだろ」
言い訳が苦しすぎる。バイト先の癖とでも言えばいいのに今の真島にはその余裕すらないらしい。
「違くてぇ……」
脳みそが溶けるような甘い声も勢いが無くなってきた。
すると、どうだろ。女の武器を出してきた。
「違くてぇ、あれは間違えて踏んじゃってぇ……ごめんなさい」
真島の声しか聞こえないがおそらくは泣いているのだろう。
声が震えているし小さい。
ここまで反省しているならこれ以上の追撃は止めよう……なんて優しい心は持ち合わせていない。
「嘘泣きはすぐに分かるからな?何年養護教諭してると思ってんだ」
他に騙されても鳴川先生は騙せない。一年丸々一緒に居て未だに弱点が分からないんだから騙すのは至難の業。
ただ言い逃れのためだけにつく噓なんてすぐに見破られてしまう。
「でも反省は」
「反省しているということは認めたということか。香川先生、真島の処遇をあとでもいいので決めましょう」
「なんでぇ......」
「最初に言ったはずだ。外の人に迷惑をかけたからだ」
電話の向こうではすすり泣く声が聞こえ始めた。
今度のは本当の涙だろうが、もう遅い。板が壊されたと発覚した時に自供していれば情状酌量の余地はあったのに。
そしてさぞ鳴川先生の顔は生徒に見せられる顔じゃないだろう。人の不幸は密の味と豪語する教師だ。反面教師めが。
フレンドリーファイアまでがルーティーンなこの人はしっかり撃ち殺しに来た。
「いやー彼氏さん!どうもありがとうございました!お忙しい中!ね!彼氏さん!」
「自分の彼女が泣かされたら守りたくなるのは当然だろ。時雨、またな」
「はい。また.....」
これ以上撃たれたら死んでまう。
俺は電話を切ると机に突っ伏した。作戦通りに人を誘導するのに頭を使った挙句登録名が『彼氏』という非常事態まで上乗せされた俺の脳内スペックは余裕でオーバーヒートした。
「ねーねー。時雨ちゃんの彼氏になったの?いつから?わたしを弄んでたの?」
そして追い打ちをかけるようにブラックホールが爆誕。
光を失った紫紺の瞳がすぐ横まで迫って来た。
「俺に聞くな。時雨の登録名なんだから」
「間宮さんの登録名はなんと?」
「普通に『時雨』だが?」
「わたしは!?」
「ん」
俺はスマホの画面を十六夜に見せた。
「『爆音注意』......なにこれ」
「俺自身が発する警告だ。お前からかかってきた時にはイヤホンを抜き耳から遠ざけて応答するようにというな」
それでも毎回耳を傷める。
「おれは?」
「『夏鈴』」
「普通だな」
「不満そうだな」
「もっとこう一発でおれって分かるもんにしてくれよ」
名前がそれの代表では?
俺の電話帳に『夏鈴』という名前は一人しかいないから充分だと思うが。
「『か』の所に私がいませんね」
「加羅忍は『し』にいるぞ」
加羅忍の登録名は『諸悪の根源』という加羅忍以外には似合わないものにしてある。
「なら名前に見合う働きをしないといけないですね」
「ごめん。直すから止めて」
そんな肩書じゃないから。ただの登録名だから。
名に恥じぬとかそんな重いもんじゃないから。ダメだ。ひと昔前のニコニコなら『諸 悪 の 根 源 が ア ッ プ を 始 め ま し た』というコメントが流れそうな程に諸悪の根源が張り切ってらっしゃる。
保健室のドアが開くと満足顔の鳴川先生と顔を真っ赤にしてドアの所で顔だけ覗かせる時雨の姿があった。恥ずかしいならやらなきゃいいのに。まあ、そのおかげで俺の正体は隠せたわけだが。そう、隠れられるとこっちまで意識してしまう。
「時雨。俺の名前を今すぐ直せ。少なくともバイト仲間とでもしておけ」
時雨は何も言わずに首を横に振った。嫌だと。
「いつかなる未来ですから。わざわざ変える必要はないと......思います」
「永遠に来ない未来だぞ」
生涯独身を貫くつもりなんだが。許してはくれないだろうな。こいつらは。




