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第六十二話 心臓に悪いことは止めてもろて

「だからさぁ。あてぃしは知らないって」

「知らない。分かんない。次はなんだ?真島亜美」

「だぁれ?彼氏?」

「違うけど」

「登録名、彼氏になってるけど」

「……そうか」


ちょっともう本当に心臓によろしくないことはやめていただけるかしら。

冷や汗もすごいし調子狂うから。


「登録名はなんだっていい。俺が知りたいのは別のことだ」

「部外者が首を突っ込むことじゃない」

「人の会社のペンキ使っておいて部外者はないだろ。必要とあればイタズラ行為として学校に苦情入れるぞ」

「めんどくさ」


この程度で面倒だと思っていたら最後絶対脳死になるぞ。

それじゃあ。情報戦と行こう


「状況はまあ知ってる。防犯カメラを調べたら昨日の夜時点では板は完成されていた。枚数もあるし壊れると大変だからと、俺は今日の朝、車で学校に届けた。つまり壊れたのは今日の朝、俺が玄関口で先生に渡してから発覚した昼辺りの時間となる。その間、板はどこに?」

「この教室に」

「なら誰も知らないというのは不自然だろ。どう考えても」

「知らないものは知らないし」

「怖いのか。そんだけ声を張れるということは今喋った男も女も相当カーストが高いと見える。そんな奴らを相手にしたくない。精一杯の保身か」


誰しも長い物には巻かれるというが……それが社会でいきいなり出来るのはこうして学校生活を経て身につくからだ。

つまり、『長い物には巻かれる』とかいう言葉がある時点でスクールカーストは無くならない。


「さっき保健の先生から犯人探しはするなと言われましたが、それでも続けますか?」

「ああ。続けるとも。先生が言ったから止めるなんてお利口でもないだろ。生憎、こっちは材料費というものをかけている。頼んでないというのなら、料金を払え」

「そんなのぉ、いいんちょーが払えばいいじゃん?」

「馬鹿か。クラス全員が使う物を一人が責任を持つのはおかしいだろ」


それは流石に俺でも分かる。

時雨が個人的に使う物ならまだしも学校の文化祭という行事のために使ったのなら経費で落ちるはずだ。少なくとも、生徒が個人的に払う物じゃない。


「ま、犯人さえ分かれば料金はいい。なにより時雨に頼まれたことだからな」


彼氏ムーブが難しすぎて混乱しそう。

無理に彼氏になるとボロが出そうだ。

しっかし……ここまで煽っても誰もなにも言わないか。今なら教師の前でイジメも軽減は出来るだろうに。

ま、陽キャが怖いというのは俺も知っていることだから言えと強要は出来ないが。


鳴川先生がパソコンをカタカタと操作して「一旦ミュートにしろ」と言ってきた。


「なに」

「これを見ろ」

「……隠し撮り?」


そこにはボロボロの背景を運ぶ生徒の姿が。男女とも居て、スカートは赤。二年生の証拠だ。


「学校が取り付けた防犯カメラ映像だ。場所は、校舎裏の粗大ゴミ置き場。生徒は普段立ち入らない場所だ。この映像は教師のパスワードで入れば誰でも確認出来るんだ」

「それを早く言え。こんな嘘で固める必要なかっただろ。てかこれ誰だ」

「浅野さんと相羽くん」

「助かる……が俺がこの情報を言うわけにもいかないんだよな」


俺は今部外者役だ。下手に情報を出すと逆に不利になる。


「ならわたしが言おう。行ってくる」

「ああ、その前に.....のことは伏せて下さい」

「なんで」

「言わなければ犯人の悔しがる顔を見れますよ」

「よし乗った」


鳴川先生はルンルンで保健室を出ていった。


「……わたし鳴川せんせいのあんな楽しそうな顔初めて見たかも」

「人を蹴落とすことに誰よりも快感を感じる人でないしだからな」


電話の向こうでは鳴川先生が自身のパソコンを手に映っている生徒の名前を上げた。

自身の行いがバレたのに黒幕を明かすとなにされるか分からない。

前門の虎、後門の狼とはこのことか。

相羽、男なら女を守れよ。まあ、俺だったら守らないけど。


「防犯の観点から映像を見せることは出来ないから否定してくれても構わない」

「違う……」


おや?相羽の様子が……。


「オレはやってない……真島に!捨ててこいって言われたんだ!」


頑張ったな。だが相羽の成長を許さなかったのが真島本人。

怒涛のBボタン連打だ。


「はぁ?あてぃしが指示したって言うのぉ?」

「そ、そうだよ」


電話越しでも分かる震え。

頑張れ、俺は相羽を全力で応援する。ただクラス連中は完全防御態勢。

誰も相羽の意見には賛同しない。


「ねぇ。あてぃしそんなこと言ってないよねぇ?」


出た広範囲殲滅攻撃。

相羽が棍棒で一生懸命削っているのに相手は大砲並の威力で攻撃してくる。

大砲を曲げられるのは先生か、部外者役の俺だけだ。


「えっと。今勇気を振り絞って喋った。男子生徒。それは本当か?」

「だから違うって……」

「なんだなんだ。しゃしゃり出てくるな。俺は今さっき喋った男子生徒と話してんだよ」

「本当です。折角天月達が仕上げてくれた物を真島が……壊して捨ててこいって言われました」

「それはいつ頃だ」

「朝、学校来てすぐです」


受け渡しの直後ということか。

まあ、朝なら人も少なかったりするし行動に移すには丁度いい時間だ。

そうか、足で割ったのか……馬鹿め


「それならぁ、あてぃしがやったっていう証拠を頂戴?」

「しょ、証拠……は」

「あるだろ。足で割ったなら靴跡が。裏ならくっきりと表ならペンキが今履いてる靴についてるだろうよ」

「真島。靴を貸してもらえるか」

「えぇ?どうしてぇ?」

「身の潔白を証明したいだろ?」

「そんなの証拠にぃならなくないですか?」

「そうか。なら、浅野、相羽、真島は停学処分だな」

「!どうして!」

「疑わしきは罰せよという言葉通りだ。学校だけに迷惑をかけるならまだしも外部に迷惑をかけた。十分な罰則対象だ」


それじゃあ意味がない。

俺が求めるのは悪のみの罰則。浅野と相羽は注意だけでいい。


「時雨。破られた板は側にあるか?」

「はい。あります」

「靴跡がないか調べてくれ。あったらそれを俺に」


時雨のカメラが起動しうっすらと映る靴跡が見えた。


「出来れば比較出来るものがあるといいんだが」

「それならこれを使え、ルービックキューブだ」

「助かる」


大体の大きさが分かれば目視でサイズを割り出すことも可能だ。

もっとも、工事現場などいちいち細かく計ってられない人が身につける能力だが。

かっこいいからと必要もないのに練習した甲斐があった。


「サイズは二百三十ってところか」

「よし、二十三センチ以上の生徒は前に出ろー」


二十三センチの靴なんて男子高校生は入らない。入るとしたら女子だが……浅野の靴は二十三.五正確に測ってないから対象だ。

そして問題の真島……二十三の靴を履いていた。

だが幸いなことにサイズが合うのはこの二人だけだった。

あともう一つ決めてがあれば俺の目標は達成される。だがその一つがかなり面倒だ。


こじつけや推理だけならどちらかを犯人にすることは実に簡単だ。

考えろ。なにかないか。なにか決定的な証拠……破られた板、真島と時雨の関係。犯行に及んだ以上、なにかしらの情報はあるはずだ。

真島はスニーカー。浅野はローファー。見た感じ靴跡は薄くて正確な形までは分からない。

時雨達は目の前で破られたと言ったが俺はその光景を見ていない。


「なんでぇ、あてぃしが疑われてるのぉ?他にも生徒はいるのにぃ」

「製作者本人の訴えだからな。天月が言うには目の前で破られたっていうし」

「そんなことぉ、してないよ?ね?」

「されました」


怖い目だ。

時雨だって成長するんだよ。首を縦に振るだけの学級委員長じゃないってことだ。

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