第五十九話 報酬はこれで
暇だという俊介先輩と麻耶を召集し作業場に集まった。
「なんか……臭い」
「塗料の臭いだ。あんまり吸うと気分悪くするぞ」
その言葉に十六夜は手で鼻と口を塞いだ。
作業に支障がなければ永遠にそうしていて欲しいくらいだ。
「で、オレはなんで呼ばれたの?」
「現場監督的な。塗装初心者が三人も居るんで。その対処です」
受験生なのに本当に申し訳ない。
ただ呼ばなければ俺の体力は絶対に持たない。
棚から下塗り剤を取り出し作業開始。
「二年はなにやるんだ?」
「演劇とカフェらしいです。俺はどっちにも出ませんけど」
「今年くらい出たらどうだ?その調子じゃ来年も出ないだろ」
そうだ。おそらく……いや、絶対に俺が学校行事に参加することはないだろう。
「俺は俺で楽しく過ごしてるんで」
「そりゃそうだろ!そんな美少女侍らせて「青春を捨てた」とかほざいたら脳みそぶちまけてやる所だからな!」
「いつになく声がデカいですね。そんなに欠陥だらけの女共が羨ましいですか」
「その欠陥が可愛かったりするんだよ!」
え。地雷ガン無視戦車と初対面無言女とただの悪女と純情ヤンキーのなにが可愛いのか。
せいぜい夏鈴の家庭的な一面が可愛いと言える程度だ。
その他はどの面から見てもマイナスしか浮かばないし可愛げの欠けらもない。
「下塗り剤は塗り終わったが……今日はこの辺でおしまいでいいか?」
「いいえ。出来るだけ早く納品したいので続けましょう」
「そんなに急ぐか?この人数でやればもうあと二日もあれば終わると思うが」
「見返したくて」
「さいですか」
時雨は学級委員として仕事をしていてそれなりに人望もある。
怒る事はなにもないと思うが……仲間思いなんだろう。
「麻耶はなんで呼ばれたの?」
「塗料を運ぶためだ」
「麻耶、か弱いからこんな重いの持てな〜い」
「社長。こいつ使えないんで首にしていいですよ」
「ちょっと待って!首にされたらニートになっちゃう!」
「大して変わらないだろうが」
「はぁ!ぶっ飛ばすぞ!働いてるか、ないかで大分世間の風当たり違うんだぞ!分かってのか!」
「知るか。週一あるかないかじゃ変わらないだろ」
「は、働いてるのは事実だし。ニートじゃないし」
ぎゃあぎゃあとうるさいナマケモノと倉庫に移動し塗料を運んだ。
一つがバケツ満杯ほどあり確かに少し重い。だが人よりは軽い。
「おっも……二度と持ちたくない」
「デスクトップPCどうやって運んだんだよ」
「あれ魔法がかかっててさ。可愛いおんにゃのこが運ぶと重さゼロになるんだ♡」
「え……?どうやって運んだの?」
「その喧嘩買おう。ゲーム内でな」
横で竹書房のクソアニメみたいな顔しているニートを放置して作業手順の確認だ。
「手順確認の前に着替えたほうがいいぞ」
「私は着替えありますけど……」
「おれ達持ってないぞ」
「予備ってありましたっけ?」
「ああ。でも男用だからでかいと思うぞ」
一応来てもらったら案の定ぶかぶかだった。
「捲ればなんとかなるよ?」
「ならそれで我慢してくれ。制服をペンキだらけにするよりはいいだろう」
「では波から塗りましょうか。細かい部分は私と天月さんが。大胆に塗る所は十六夜さんと十塚さんにお願いしましょう」
分担を終え作業開始。
ちなみに俺と啓介先輩は細かい色調整や修正をやっている。麻耶は監視というなのサボり。
「間宮!この色で奥行き出る?」
「出てると思うぞ?波の表面的な所は濃い色。波の筋は水色。白波は白と影を薄い水色にすれば波に見えるだろう。あとは、時雨が描いた下書きを信じるしかない」
「自信はありませんが……」
確かに絵画の巨匠達の波と比べると躍動感やらハイボテ感はあるものの文化祭なんてそんなもんだ。
完成度を高めたいならちゃんと金払って専門の絵画師に描いてもらうのが一番だ。
文化祭程度なら逆に手作り感があった方がいい。
まあ、思い出に残したいのならだが。
俺は思い出に残す気はないからそう思うだけなのかもしれないが。
「あっついな……」
九月も半ばというのにまだまだ暑さが残る。
夏ほどではないが人数集まって部屋で作業していると嫌でも気温が上がる。
「あつい」
「おい。おい。おい脱ぐな」
「大丈夫だよ。下着の上に来てるし」
「違うそうじゃない」
あくまで制服から着替えただけだ。私服など持って来ていない。
つまり、今十六夜が作業の前を開けると……俺は鳥肌と震えが止まらなくなる。
黒い薄着が十六夜の体型に合わせて柔軟に形を変えた。
そして少し汗をかいたのか頬は赤くなり薄着もぴったりとくっついている。
ブラジャーの形もくびれもヘソも鮮明に映し出されていた。
「先輩。麻耶、報酬はこれで」
『了解した』




