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第五十七話 兎をバイクの後ろに乗せたら負けが確定した

加羅忍をこっそりと十六夜達の元へと戻した俺はこれまたこっそりと集団から離れた。


「申し訳ございません。岳斗様に読まれてしまいました」

「大丈夫だ。俺も加羅忍も無事だったから」


金持ち御曹司にターゲティングされた訳だが、俺と加羅忍が恋人同士になるなんてことは不可能だからまあ、問題ないはずだ。


「そっちもお疲れ様。正直、ナビゲートなかったら捕まってた自信はある」

「ありがとうございます。これからもお嬢様をよろしくお願いします」

「ああ。俺が出来る範囲でな」


電話を切るとすぐに着信が入った。


「なんだ。麻耶」

「ネットで大反響の間宮狼斗さん?いかがお過ごしですか~?」


掛かって来たのは麻耶だった。


「随分と早いな。今日の夜あたりだと思った」

「ネットの反応についてどう思う?」

「反応は見てないから分からない。例え批判だらけだとしてももう過ぎたことだ。どうにも出来ない」


タイムマシンでもあれば過去に戻って助言してくるさ。


「役に立ったでしょ。防犯カメラ付きの眼鏡」

「ああ。装着者の顔を写さず自然に隠し撮り出来るのは強い。データはそっちにいってるだろ?」

「来てるよ。でもこれじゃあ武器とか防御に使うには弱い。顔も不鮮明だし声しか分からないから」

「ふーむ。ま、ネットでそんだけ騒がれてるんだから使う必要はなさそうだが」

「去年の今頃は麻耶とゲームしてたのにさ。ネットを騒がせる人になるなんて。二度も」

「どっちも一時的だ」

「勿体ない」


女子高生というブランドを捨てた麻耶ほどじゃないと言ってやる。


「伝言。柳城で待つって」

「誰から」

「それは言うなって言われてる」

「そうかよ」


あの悲惨な歴史を持つ城になんの用があるんだろうか。

俺を知っている人間は限られる。

四人の誰かだろうが......予め聞かされていたルートとは外れるし勝手に移動出来るものなのか?

てか麻耶を知っているのは時雨だけのはずなんだがな......。


「分かった。さんきゅ」

「お礼は、今度また麻耶にボコされて♡」

「リアルファイトなら考える」


なんでもありならネットで無駄なものを買い漁る麻耶の方が強いだろうが、拳だけなら俺の方が絶対に強い。多分。おそらく。


俺はまたバイクを借りて柳城へと向かった。

城への入り口である橋の前まで来たが誰の姿もなかった。


「いない......中か?」


バイクを降りようとした瞬間にバイクが少し揺れた。

後ろを振り返ると十六夜が満面の笑みで座っていた。


「降りろ」

「なんで?」

「お前とドライブする気はない。このバイクも返さなきゃいけないし」

「少しだけ。真尋ちゃんとはドライブしたでしょ?」

「なんのことだか」

「情報を集めてないとでも?」


十六夜のスマホ画面には俺と加羅忍が騒ぎを起こしている動画があった。

動画内で加羅忍は自分の身分を明かしており、服装や声から俺と一緒にいるというのはすぐに分かっただろう。


「ルートから外れてるだろ」

「だからあまり時間がないんだ。早く行こう?」

「......ヘルメットをしろ。一言もしゃべるな。あとこの上着を腰に巻け」

「なんで?真尋ちゃんにはしなかったよね?」

「加羅忍の制服はお前達の制服とは違う。特注品だからスカートの裾の重さも違う。元の制服だとスカートめくれるぞ」

「優しいね」

「後ろに痴女は乗っけたくないからな」


バイクを走らせるとすぐに湖が見えて来た。

柳城のすぐ横には湖がありその透明度は人が泳げるほど。

夏の暑い時期はプールとして冬になるとスケートリンクとして営業していると後ろの兎が教えてくれた。


「聞こえないんだよ」

「ただ走ってるだけじゃつまらなくない?」

「こっちは集中してんだよ」

「後ろに乗せるの初めてじゃないのに?」

「違う。そっちの集中じゃない」


必至に背中と腹上の感触を誤魔化すのに必死なんだよ。

加羅忍より凶悪な二つのナニカは俺の背中にむにゅりと形を変え、前に回った腕は簡単には放さない。

だから十六夜とバイクに乗るのは嫌だったんだ。


「おい。くっつくな。そんなにくっつかなくても落ちないから」

「こうしたいの。修学旅行中も間宮に会えるって思ったら楽しみで仕方なかったんだよ!」

「もの凄い鳥肌立って来た」


俺に会えるとかいう理由で修学旅行を楽しみにしてたとか精神病んでるレベルじゃない。

きっと粉々に砕け散って再生するときに異物が五割以上占めたからおかしくなったんだ。少なくとも正常ではない。


「おかしくないよ」

「それ以上喋るな。もしその先言ったらバイク転がすからな」


いやそれは無理だ。これ人のだし。

なにか。この兎を黙らせる手段はないのか。なにか他の興味を示すようなものはないか。

俺はバイクを走らせながら必死に考えた。


「だって。わたしは間宮のこと好きだから」

「はぁ?なに言ってんのか聞こえないんだけど」


だが遅かった。

こうなったらゴリ押しじゃい。幸いバイクは走行中で俺の耳にはエンジン音だとか空気が通り過ぎる音とかいろんなものが聞こえている。

聞こえない可能性は十分にある。これは流石に勝った。


「聞こえないならこうしてあげる」


十六夜は身体を完全に俺に密着させた。

華奢な肩からその肩とは不釣り合いな胸。十六夜の体温がそのまま俺に移ってくるのが分かる。


誰だ音が聞こえにくいから勝ったとか慢心してる奴。

感情の表現方法は言葉だけじゃないって義務教育で習っただろ。

きっとそいつはこれからろくでもない人生を歩むだろうよ。くそが。

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