第五十六話 もしかしてひよった?
スマホのカメラが俺達を見つめている。
加羅忍も涼しい顔をして待っている。あとはあの男がこの場に出てくればいいだけの話だ。
だが十分経っても出てこない。
流石に怖気付いたかと思ったがどうやら違ったようだ。
「数台のパトカーが近づいておりますお気をつけて」
「パトカー?」
加羅忍が小さな声で言った。
「アイツが呼んだんだろうな。国家権力すら手に入れられる力だ」
警察がパトカーから降りて俺の前まで来た。
「君。ちょっと話聞かせてくれるかな」
「この状況で良ければなんでも聞いてください」
「女子高生が誘拐されたって通報があってね。なにか知らないかな」
「知りませんねー。俺は友達とバイクで観光しただけなので」
俺と加羅忍は同じ学校。面識も嫌というほどある。
誘拐で俺を連れて行こうっていう算段か。ならこっちも足掻けるだけ足掻こう。
「彼と私は同じ学校に通う高校生です。誘拐ではありません。彼には予め観光に付き合って欲しいとお願いしてあります」
「でも通報が入ってるし庇ってるという可能性もあるからね」
「なぜ庇う必要があるんですか?」
「一応だよ一応」
守りに徹するだけじゃ崩れないか。なら攻撃に転ずるまで。
「警察も大変だな。自分の意思関係なく上からの指示で悪事を見ないフリしなきゃいけないんだから」
「なに言ってんの。今その悪事探してるから」
「だったらおかしいだろうがよ!俺は今高校生と紹介されたばかりだ!なら!なぜ高校生が大の大人に押さえ付けられてんだよ!そこに疑問を持てよ!」
俺はわざと大声で言った。
撮られている動画にちゃんと入るように。
「そんな叫ばなくても聞こえてるから。君が彼女を誘拐したんだね。あとは戻ってから聞くから」
「されてません!彼はなにもしていません。令状がないなら任意のはずです。任意の人を無理矢理連れて行くことは法律で禁止されています」
「なにもしてないなら来れるだろう?」
「怪しいから行きたくない。そうだ!この場でやろう!」
別に場所を移す必要はない。
この場で済むならその方がいいはずだしわざわざ任意の人を無理矢理連れて行くということもしなくていい。
いい事だらけで拒否する必要なんてない。
「個人情報がね」
「私も構いません。話を聞きたいのは私達なんでしたらいいですよね?」
「……ダメダメ。話は向こうで」
「なら行かないだけなので。彼を解放してあげてください。不当に拘束することは許されませんよ?それとも、刑法220条に反したとしてこの人を逮捕しますか?現行犯なのでその手錠があればすぐですよ?」
楽しそうだなー加羅忍。
相手を追い込む時はぐいぐい行くじゃん。俺法律分からない。なに言ってるのかワカラナイ。
ただ加羅忍が楽しんでいるということだけは分かった。
加羅忍がおど……脅すと俺の拘束はすぐに解かれた。
「ただの一人言だけどさ。誘拐ってことにして加羅忍を保護しよう、俺から引き剥がそうとするのは無理だぞ。俺達友達だから」
「ひよりました?」「黙れ。事実だろうが」
この女は誰になにを言わせようとしているのだろうか。
俺と加羅忍は見知らぬ土地をバイク一つで観光した友達だ。それ以下はあってもそれ以上はない。
指示を待っているのかしばらく考えた風に警官は棒立ちになった。すると見透かしたように無線機が鳴った。
「もう少し調べるから。住所と電話番号教えて」
「えっと……」
生徒証を取り出そうと財布を取り出すがそれよりも先に加羅忍が名刺を取り出した。
「加羅忍ホールディングス、代表取締役代理を務めております、加羅忍真尋と申します。なにかあればここに」
世界を股にかける加羅忍家を恐れたのか警官はすぐに踵を返した。
権力は怖いものだからな。
「戻るぞー」
車庫にバイクを取りに行こうとするが入り口で黒スーツに止められてしまった。
「真尋。随分と仲のいい友達を作ったようだね」
「はい。お陰様で」
「君も随分と頭が回るようだ」
「賭けだったがな。あんたならもっと手回して俺をどうにかして引き剥がすと思ったが。案外優しい所もあるんだな〜」
「僕は別に真尋に嫌われたいわけじゃない。それだけさ」
男は迎えに来た車に乗り込む直前にこちらに振り返った。
「名前を名乗っていなかったね。僕は葉山岳斗。君は?」
「間宮狼斗。同年代の女子が嫌いな男子高校生だ」
「覚えておくよ。恋敵としてね」
岳斗は不敵に笑うと走り去っていった。
「あー。疲れた……」
「すいません。私の問題に巻き込んでしまって……」
「本気で謝る気があるならもう保健室には来るな」
「……むー」
「膨れても可愛くないからな」
両頬を膨らませた可愛い顔から目を逸らした瞬間、横から暖かい感触に包み込まれた。
「今日は本当にありがとうございました」
耳元で囁かれ、俺の頬には柔らかくしっとりとした感触のものが押しつけられた。
「おまっ!」
「報酬です」
次に加羅忍を見た時はいつもの悪魔的笑顔がそこにはあった。




