第五十五話 負けたくないけど絶対に勝てない相手
バイクを走らせ見知らぬ土地を走り回った。
後ろに本当の追手を相手に逃げ回ったせいでもう元の道には戻れないほどに色んな道を走った。
後ろの加羅忍は気にもせずに景色を楽しんでいた。
「見てください!湖ですよ!」
「悪いが今そんな余裕ないんだわ!後ろ見ろ数増えてんだよ!」
とうに法定速度は超えており現在、八十キロで観光地を走り回っている。
「待てが出来ない人ですね」
「相手はどんなだ」
「加羅忍に次ぐ大企業の息子です。歳は二十四。経営を任されてから会社はドンドン大きくなったそうです」
「それのなにが嫌なんだ」
「恋ぐらい好きにさせて欲しいんです」
「お、おう……」
案外乙女チックな理由でびっくりした。
痺れを切らしたのか数が増え、速度が上がった気がした。
「加羅忍。次の赤信号で俺のジャケットを羽織れ」
「なんでですか?」
「ちょっとばかし法に触れるからだ」
赤信号で一時停止をし加羅忍に俺のジャケットを着せた所で俺は赤信号でアクセルを入れた。
後ろからクラクションが聞こえるが気にしてられない。
俺がすることはただ一つ。強行突破と事故らないように運転するだけだ。
「赤信号ですよ!」
「知ってる。だからジャケット着せただろうが」
女子高生後ろに乗せて暴走は冗談じゃ済まないからな。
適当な所で加羅忍を生徒群に返したい。
「道案内いたします」
「頼む」
イヤホンからじいやの声が聞こえて来た。
だが現実はそこまで甘くないようだ。
「道塞がれた。相手も俺達が行こうとしてる場所わかってるぽいぞ」
「ご安心を。昔ながらの道路などあります故、全て塞ぐことは不可能です。次の角を右です」
「うおおお。もっと早めに頼む。割と速いスピードで運転してるから!」
足でバランスを取り背中にはむにゅとした感触があった。
後ろのコレは餅だ。大福だ。もしかしたら餅米で作った粘土かもしれない。米で作られた粘土を颯太にい買ったことあるしきっとそうだ。
そう思わないとハンドル操作をミスる。
街中を爆走すれば警察が出てくると思ったが一向にサイレンの音が聞こえない。
「警察組織は買収されております。期待は薄いかと」
「国家権力が簡単に買収されてんじゃねぇよ」
「もっとゆっくり出来ませんか!」
「無理。相手も手段を選ばなくなって来てるから」
後ろからはバイクが差し迫り、追い付かれれば命があるかどうか分からない。
赤信号もいくつ無視したか分からない。
「次を左に曲がってすぐに車庫がありますので隠れてください」
「分かった」
車庫に身を隠すとバイクが三台通り過ぎて行った。
俺は三台のバイク相手にチェイスしていたのか。念のためにシャッターを閉めたら真っ暗になってしまった。
「取り敢えず撒いたか」
「まだです」
加羅忍が警戒するその先。暗闇から姿を見せたのはスーツ姿の男性だった。先回しされたのか、じいやが敵側に回ったのかは分からない。ただ超絶ピンチということだけは分かった。
車庫のライトに照らされた顔はかなりのイケメン。俳優やってますと自己紹介しても誰も疑わない程度にはイケメン。
「俺達を追い回したのはお前か……イケメンなのが腹立つな。そこはキモデブであれ」
「僕の妻を拐ったのは君だろう」
「妻って……女子高生相手になに言ってんだ?」
「分からないよね。一般家庭出身の子供はさ」
言ってくれるじゃん。
「僕は会社を経営するために小学校から今日に至るまで友達と遊んだこともない。全て親が決めていたからね。でも妻にする人だけは選んでいいって言われたんだ。だから選んだ」
「でもお断りしたはずです。ちゃんと理由付きで」
「なんて断ったんだ?」
「好きじゃないので無理ですって言いました」
「君のお父様からは好きにしていいと言われているんだよ」
酷い父親だ。
一人娘なんだから大事に成人になるまでは他人に渡すなよ。
時雨の父親を見習って欲しい。
「ただの男が。なんの権限があって縁談の邪魔をしようとしてるんだい?」
「そうだな……俺も真尋の事が好きだから。って言ったらどうする?」
「恋敵になれるとでも?」
「思ってもないしなりたくもない。俺は女子が大嫌いなんだ」
「だったら邪魔する必要はないだろう?」
「好きになれないだけで、こいつは必要なんだよ」
「なら無理やり奪うだけさ」
男が手を上げると奥から屈強な男が出て来てあっという間に俺は組み敷かれた。
特に鍛えていない俺を押さえつけるのに苦労はしないだろう。
「間宮さん!」
「離せ!痛って!痛てててて!」
「動くと骨が折れるよ」
「汚ねぇ。高校生相手にすることじゃねぇだろ……あてて!」
「獅子は兎を狩る時も本気を出すという言葉を君に送ろう。行くぞ」
どうする。どうやったら勝てる?超イケメン御曹司相手に。
俺はもうどうにも動けない。助けを求めることも出来ないし俺が力で解決することも出来ない。
無力というものを思い知る。じいやに助けてくれと言われて動いてはみたが、結局最後は決まっているものなんだ。
とか感傷に浸っている暇があるなら頭を使えというもの。
なんのために麻耶から伊達メガネを借りたんだ。ネット通販で実用性のないものを買い漁るゲーマーから借りて来たのか。
「今外に出ない方がいいぞ。少なくとも顔は隠せ」
「こけおどしかい?」
「まあ、もう遅いか」
ガラガラ!という騒音と共にシャッターが開き眩しい外の光が覗き込んだ。
暗い車庫に居たせいか目が開けてられない。
だがそれは俺だけじゃない。
「どけ!」
俺を押さえ付けていた男を蹴り飛ばした。
「真尋!」
「間宮さん!」
手を振り解いた真尋の手を引き俺達は外に逃げ出した。
しかし相手は折角の獲物を逃したくはないようだった。本人は追ってこないが男達は追って来た。
走る車の間を縫い、反対側へ到着した所で真尋を前に投げた。
「痛ってててて!逃げろ!この先走れば皆と合流出来る!走れ!」
俺は叫んだ。だが真尋は動かなかった。動けなかった。
「手間焼かせるな」
「その一手間が最高のスパイスってこともありえ……痛いっての!」
じだばたと子供のように足掻いた。騒げば騒ぐほど向けられる目線というものは増える。
しかも今時見ているだけというのも珍しいだろう。
Twitter、インスタ、掲示板。送る先は多数に及び、自分に被害がないなら余計だろう。
それでいい。存分に拡散してくれ。ちゃんと切り札も用意してある。
巨大な相手に俺一人で立ち向かう必要なんてないんだ。




