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第五十三話 作戦始動!

長く疲れた夏休みが終わり俺は地方にいた。

学校から新幹線で一時間半揺られて来た。理由は修学旅行……ではなく旅行だ。

普段の授業すら出ていない俺が修学旅行だけ行くのはおかしいしそんなことをする勇気もない。

クラスメイトの顔すら知らないのに。


なぜ俺が旅行に来ているのかというと……一週間前に母親が会社から貰って来たらしい。

おそらく旅行券の指紋を調べたら加羅忍の指紋が見つかると思う。


「この度はお誘いに乗っていただきありがとうございます」


加羅忍の執事長、じいやが恭しく腰を折った。


「いえいえ、こちらこそお誘いいただきありがとうございます」

「こんな豪華なホテルに泊まれるなんてありがたい限りです」


俺の両親は腰を低くしているがタネを知っている俺からすれば全て加羅忍真尋が企んだものだ。

そして俺とじいやはそれを利用した。


荷物を部屋に置き、俺はじいやと合流をした。


「お待ちしておりました」

「で、ここからどうすればいい?正直、俺が出る幕ではないような気がするが」

「お嬢様方は中心街を廻り、宿にお戻りになられます。狙われそうなポイントには人員を配置していますが万が一を考えて人通りが多いこの場所をお願いしたいのです」

「人が多くていいのか?」

「はい。少ないところはむしろ安全で人混みに紛れてというのはとても危険なのです」


木を隠すなら森の中ってことか。

確かに大通りのこの道なら人混みに紛れて加羅忍を拐うなんて簡単だろう。


「分かった」

「よろしくお願いいたします」


十六夜達は修学旅行としてここに来ている。そのため派手には動けないし、助ける事も出来ない。

自由に動けるのは完全私用で来た俺だけ。

まさか制服を着ていない俺が動くとは向こうも思わないだろう。


大通りに面した店に配置された土産屋はかなりお年を召した老夫婦が営んでいる昔ながらの老舗という奴だ。

じいやが予め説明したらしく大通りが見える奥の座席で待たせて貰う事になった。


「協力感謝します」

「いやいや、こちらこそじゃよ。加羅忍さんにはお世話になってますけんね」

「それに比べたらワシらは小さなことさね」


なんとも心が広い人だ。

この店自体は改装して新しいが中央にある柱だけは俺の蹴りでも折れそうなほど古そうに見えた。

もしかしたらそういう加工なのかもしれないが。


俺と同じ制服を来た生徒がちらほらと見えるが初対面も同然なためクラスどころか名前も知らない。

楽しそうにイチャイチャしていてもなにも感じない。

俺は今こうしているのが楽しいしうるさいのは十六夜だけで十分だ。


数組の生徒が通り過ぎるとようやく来た。

加羅忍達は当然の如く四人で固まっていた。他の班は男女であるのに対し、加羅忍達は女子だけだった。

普段から保健室に入り浸っていたからそうだろうなとは思ったけど。


「木刀あんじゃん!買いたい!」

「先生に没収されますよ。それに準凶器所持になります。丸出しでは即逮捕ものです」

「かてぇなー折角の修学旅行なんだから楽しもうぜ!な、美咲!」

「うん……」

「どうかしましたか?先ほどから元気がないようですけど?」

「間宮がいいたらもっと楽しいのかなって」

「仕方ないですよ。狼斗さんは普段から来てませんでしたし修学旅行には行かないって言ってましたし」

「そうだけど……」


十六夜はいつもより格段にテンションが低かった。

あの弾むような声も情報を集めようとする意欲もなかった。まるで『一応単位だから居る』というような印象が受けられた。

そんなに俺が欲しいかね。


「大事だと思いますよ」

「じいや……どこから盗み聞きしてんだよ」

「それは企業秘密でございます」


耳元のワイヤレスイヤホンから声が聞こえる。


「今年に入ってからですかね。お嬢様が学校の話をするようになったのは」

「たまたまだろ」

「はい。たまたま、良きご学友と知り合えたということでしょう。それは勿論、間宮様でございます」


この人もこの人で退路を塞ぐ天才すぎる。

ま、加羅忍を育てた人だからそらそうか。大元はこの人だ。


「一年生の頃は、ただ学校と自宅を行き帰りし縁談相手との会食もただ笑っておられるだけでしたが、今年からは学校のお話を聞くようになりました。縁談相手には笑顔で『好きな人がいる』と伝えております」

「加羅忍なら喜んでやりそうだな」


ま、加羅忍に近づく男はきっと体か財産しか見てないだろうから当然だと思うが。

加羅忍達の様子をチラ見してみても特に変わった様子は見受けられない。

ただ騒音兎が普通の兎になっているくらいだ。


「十六夜さん。実は、間宮さんはこっちに来ていますよ?どこにいるかは知りませんが」

「本当!探せる範囲?」

「どうでしょう。私達と違って彼は自由に動けますから。案外近くにいるかもしれませんね」


人の心を揺さぶる天才か。

あれだけテンション低かった兎が騒音兎へと逆戻り。


十六夜を上機嫌にすると加羅忍は店を出て行った。

出てすぐの所で誰かと話始めた。


「じいや。前で誰かと話しているが誰だ」


この周囲には俺しか配置されておらず、他の人も配置場所を無言で離れるとは考えにくい。

だとしたら……。


「いえ.....見覚えのない人です。もしかしたら部下かも知れません」

「想像してた通りだ。本人は後ろで高みの見物か。変装して尾行する」

「くれぐれも無茶はなさらないように」


俺はマスクをして麻耶から借りた伊達メガネをつけ尾行を開始した。


「これ、持っていきんしゃい」

「ありがとございます」

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