第五十一話 折角のアピールチャンス
夏休みも終盤になったというのに俺はまた炎天下塩素が蒸発するプールサイドの高椅子に座っていた。
「へーい!バイトしてるかーい……」
「テンション維持出来ないなら無理するなよ」
「暑い……溶ける」
目の前で解けられると仕事が増えるから溶けるなら外に行ってからにしてくれ。
「狼斗!精が出るな!」
「啓介先輩。ガタイいいっすね」
「まあ、夏休み利用して別バイトしてるからな!」
今回集まったメンバーは塗装屋のバイトメンバー。
他にもいるにはいるが全員成人済みため予定が合わなかったらしい。
「引き篭もりのゲーマー様がよくこの暑い中外に出る気になったな」
「麻耶は外に出る気なかった」
「ならなんで」
「一度も外に出ないなんて不健康すぎます。私が連れ出しました」
「あとはオレが食いもんで釣った」
「Uberすればいいのに」
「違う。夏の暑い中食べるからいいの」
まだそういう人間らしい所が残ってて安心した。
全て部屋で済ますようになったら麻耶を鳴川先生と共にナマケモノの新種として動物園に寄贈する所だった。
「どう?この水着」
「俺に感想求める?」
「先輩にはもう求めたし」
「ん……ナニがとは言わないが足りない」」
「キレそう。時雨みたいにもっと胸寄越せってか!?悪かったなちっぱいで!これでも需要あるんだぞ!」
「迷惑だからボリューム下げて」
麻耶の水着は胸や腰回りにフリルがついた水着で自分の大きさを隠そうとしているとしか思えなかった。
時雨の横に立つと幼児体型がさらに際立つ。
だが、俺はまだバイト時間でそのバイトに向かって『胸寄越せ』とか『ちっぱい』などを大声で言わないで欲しい。
ちゃんと雇われているはずなのに挙動不審な奴よりよっぽど不審者だ。
「あとどのくらいで終わりますか?」
「昼には終わる。それがどうかしたか?」
「い、いえ」
「狼斗も遊ぼうぜ!」
「この日焼けを見てもらえれば分かる通り、かなり遊んできました」
「本当は?」
「バイト三昧でほとんど遊んでません」
俺の代わりに時雨が答えた。
一日遊べば十分だろ。
そもそも俺は海にバイトしに行ったのであって遊びに言ったわけじゃない。
時雨達と水鉄砲で遊べたのもバイトの先輩の協力あってこそ。じゃなきゃ俺に遊ぶ時間なんてなかった。
「時雨今日のために水着新調したんだよ?」
その瞬間、太陽の光にも負けないほどに時雨の顔が真っ赤になった。
「なんで言うんですか!?秘密にしといてとあれほど言いましたよね!?」
「だって言わなきゃこいつ一生気付かないよ。にぶちんだから」
「いや気付いてたぞ?」
海に行ってきたのは数週間前のことだが特別な衣装が変われば分かる。
少なくとも、髪を二十センチ切ったという分かりにくい変わり方よりは一目見れば分かる。
海の時は黒髪に合う白い水着だったが今は黒い水着をつけている。海の時につけていたラッシュガードも来ておらず決して小さくはない胸が強調される。
目のやりどころに困る格好だ。
「なぜ言わない。そして褒めない」
「日本人に日本語上手いねって言うか?」
「言いませんね」
「煽ってる?」
通じないか。
麻耶に至ってはネット世界での話だろうが。
完全にネット脳。
「今のは褒め言葉だろ。「わざわざ褒めない」っていう」
「先輩も解説しないでください」
解説されると恥ずかしさが倍増。
今すぐにで仕事を放棄して逃げ出したくなる。
「か、か、可愛い……ですか?」
「ちゃんと声に出せってさ」
「可愛いい」
声に出せば時雨はさっきより真っ赤に顔を染めた。
恥ずかしいことが分かっているのになぜ言わせるのか。
まあ、それが分かっているからこそ口に出すけど。十六夜相手の場合には調子に乗らせるだけだから絶対に言わない。
「んじゃ麻耶達は適当に遊んでるからバイト終わったら来て」
「分かったよ」
「来なかったら悪評振り撒くだけ振り撒くから」
俺の悪評なんて誰も興味ないだろうに。
「そこは面白そうに誇張なり削るなりするから」
「その労力をもっと他の場所に使って」
時雨達が去ると太陽の光と熱が異様に強く感じた。
近くにあったペットボトルから水分を摂ると俺は眩しくて光、プールへと視線を向けた。
海と違って中学生や高校生くらいの友達らしき集団が多い中、時雨の周囲には不自然に人がいなかった。
理由はなんとなく想像出来るが時雨本人はとても居心地が悪そう。
ラッシュガードを着ていれば胸は隠せるが本性の表に立つ美貌はどう足掻いても隠せない。
「あ、あの。恥ずかしいので側にいてもいいですか」
「無理しなきゃいいのに」
「無理では……ない。折角のアピールチャンス」
「……」
なんのアピールなのか理解したくはないが、仕事の邪魔はしないだろうから別にいいか。
ただ恥ずかしいのは分かったからもじもじするのをやめて欲しい。
真正面から見たらそうでもないと思うが上から見ると胸が特に強調される。
心臓にも股間にも悪い。
「間宮。交代だ。おつかれ」
「分かりました。ありがとうございます」
先輩に高椅子と状況報告をして引継ぎは完了。
俺の仕事は終わりだ。
「あ、来た。もう終わり?」
「一応な」
「よしじゃあ!狼斗も加わったことだし遊ぼうぜ!」
そう言って啓介先輩は俺をプールへと突き飛ばした。




