第五話 「畜生があああ!一度でも信じた俺が馬鹿だった!あの時!隙を突いて殺しておけばよかった!」
まだ春先だというのに体温が上がる。
暑い。
今は2限目の時間帯。
気温が上がるには早すぎる時間だし季節的にももう少し先のはずだ。
「ねーねー。ライン交換しよ」
「ロックかかってないから勝手にどうぞ」
「ねーねー。消しゴム貸して」
「勝手にどうぞ」
「ねーねー」
「うるさい、近い、離れろ、ソーシャルディスタンスを守れ馬鹿」
十六夜の癖を知ってからこいつはちょいちょい保健室に遊びに来るようになった。
保健室は特別教室であり遊び場ではないんだが。
さらに、授業中だというのに保健室のベットでゴロゴロとパンツをちらつかせながら寝る始末。
ありがたけしからん。
「勉強しろよ」
「大丈夫。委員長に聞きに行くから」
「委員長ってと......学級委員?」
「そう。天月時雨さん。次期生徒会長との噂もある人で、カリスマ性を持ち合わせる人だよ。女の人なのに身長高いのがカッコイイんだよ」
「時雨が?学級委員長?次期生徒会長?ん?」
別人の話をしているのだろうか。
俺のバイト仲間にも天月時雨という同学年の女子がいる。
だが俺の知っている時雨はカリスマもくそもない極度の人見知りだ。
人の上に立つなんて百年後でも怪しいほどの状況で人との接触に関しては時雨の方が危ないという人。
「知ってるの?」
「いや多分別人」
あの時雨が学級委員長なんてつとまるわけがない。
確かにメリハリは得意で目上の人には敬語は使える。
普段はふにゃふにゃしてるが時と場合によってはビシッとすることが出来る奴だ。
「前から言いたかったんだけど」
「告白は早くない?」
「......今すぐ離れろ精神衛生上よろしくない」
女子との交流が少ない俺でも出会った翌日に告白するほど勘違い野郎じゃない。
「慣れる練習!」
「それでも抱き着く必要はないだろ!」
「あるの!間宮は女子恐怖症を直せる、私は落ち着く。win‐winじゃん!」
「どちらかが我慢してならその関係の限りじゃないんだわ!」
十六夜の拘束から逃れると十六夜はベットへと逆戻り。
カーテンを閉め完全に殻にこもってしまった。
ま、勉強に集中できるからいいか。
後ろからたっぷりと視線を注がれるが初対面の時のような緊迫感は不思議と感じない。
いじけてくれたおかげで2時限目の授業のノートは取り終えることが出来た。
「おーおー仲良くやってるようで良かった。片方は恨めしいような目で見ているが」
「気にしないでください。勉強の邪魔だったんでベットに行ってもらっただけです」
「なるほどな。十六夜。友達が出来て嬉しいのは分かるが限度ってもんがあるぞ、間宮はまだ「自分のトラウマのせいだ」と考えるが友達を増やしたいのなら堪える場面は重要だ」
「でも不安で......」
「心配しなくても間宮は十六夜から離れてったりしないから大丈夫だ」
「ちょっと?人の行動を勝手に決めないでくれますか?」
「じゃあなんだ。間宮はこんな美少女を放ってどこに行くっていうんだ」
「まあ、美少女なのは否定しないんですけどね......」
紫紺の瞳に金髪ゆるふわというのは黙ってれば2度見は必至。黙ってればな。
だが、いくら顔がよくでも重度の情報厨に加え寂しがり屋という面倒な性格が合わさったら踏みとどまる男も多いだろう。
それでもいいとノンストップで進んでくる奴はただ体が目当てのクソ野郎だ。
「限度ってもんがありますかね」
「だとさ。休み時間の間とか放課後とか休日とかゆっくり仲を発展させていくのも悪くはないだろう。特に十六夜達は高校二年生という受験には早くかと言って初高校生というわけでもない中途半端な年ごろだ。非行に走るよりはそういう方面に専念してくれた方が教師から反感を買う事はない」
珍しく教師らしい発言だ。
......なら一つ質問を投げよう。
「休日だろうとなんだろうと不純異性交遊は止めるべきなのでは?」
「ん?ああ。イインジャナイカ?」
「脳死で喋るな」
途中から勢い任せに喋ったなこの教師。
「十六夜。今は謝って置け。謝るということは関係の修復を望んでいる証でもある。優良な友達関係を築く上で重要なことだ」
「また脳死で」
「脳死なものか。お前たちが問題を起こしたら面倒ごとが回ってくるわたしの身にもなれ」
自分の仕事を減らすことには必死な姿はいっそ清々しさを感じる。
そのまま行けば間違いなく、反面教師になれる。
「ごめんね。邪魔して」
くっそ可愛いな......。
「ああ。俺も強く言いすぎた」
「時間考えればくっついてもいい?」
「無理」
謝られても怖いものは怖いし心臓が持たない。
十六夜の胸はそう簡単に押し付けていい大きさではない。
「よし、十六夜。もっとくっつけ」
「ちょ!ふざけ!」
「嫌なら自宅で勉強すればいいんじゃないか?出席扱いには出来ないがな!」
「外道が!」
俺がいくら吠えようと空にいる鷹には届かない。
空に向かって吠えていると足元には兎が擦り寄って来た。
「これからよろしくね?」
「畜生があああ!一度でも信じた俺が馬鹿だった!あの時!隙を突いて殺しておけばよかった!」
こんなセリフを現実世界で言うことになるとはこの時になるまでは思ってもみなかった。
「甘いな小童。目線に気をつけろでなければわたしにその牙を届かんぞ!」




