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第四十九話 1を頼んだら1億になって返ってくる

「くっそ……クソニートが」

「ふふん。負け犬の遠吠え。なにか勝てるものがあると人間生きられる」


一対一、ネット対戦をやったが全て負けた。


「リスキル狙いやがってよ」

「撃てる場所にいるのが悪い」

「リスポン地点出た瞬間に撃ち抜かれたらなにも出来ないだろうが」

「まだまだ青い。リスキルなんて当たり前じゃん」


負けるなんて別に悔しくもないが、気が紛れただけでも十分だ。

麻耶の家に来た時は恐怖とかイラつきが多かったが今となっては落ち着いた。


「少し落ち着いた?」

「ああ、ありがとうな」

「お礼はコンビニのスイーツで」

「今度買ってくる」


気が楽だ。

十六夜みたいにくっついてこないし加羅忍みたいに馬鹿みたいな策略もしてこない。

どちらかと言えば時雨や夏鈴のように気が楽だ。

くっつかれたらダメだけども。


「それで、いつまで籠る?麻耶はいつでもいいよ」


今が昼の十二時。

インクイカが二時間で、十六夜が来たのが朝の七時。三時間も俺は炎天下走ってたのか。


「そうだな。あと一戦やったらまた走る」

「分かった。疲れたらまた逃げて来ていいよ」

「暇だからか?」

「うん。前まで遊んでたのに最近遊んでくれない」


麻耶とはバイト初期からネットで繋がっているしゲームもチャットもしている。

ネット世界に関しては時雨より長いし綿密だ。

夏鈴とは別の女子力低下女子として麻耶は拒否反応が薄い女子としてありがたい存在だ。


麻耶との一戦が終わると俺は家を出た。

GPSはつけたまま最初は移動する。街の中心に出た辺りで俺は電源を切った。

これで誰も追って来れない。


折角外に出たため本屋に寄った。

ライトノベルコーナーに直行し表紙とタイトルから想像出来るストーリーを予測する。

面白そうなもの。今まで読んだことない本。今まで買った続巻。しばらく来てなかったから色んな本が出ている。


「お気に入りの本はありましたか?」


隣から聞こえたイラつくほどに聞いた声。

加羅忍なら来ると思っていたし聞きたいこともあったから丁度いい。


「お前なら来そうだった」

「ええ。間宮さんが行きそうな場所には張り込みしましたから」

「十六夜達はどうした?」

「帰ってしまいました。時雨さんに止められたんです」


だろうな。それを狙って俺は麻耶の家に転がり込んだ。

それ以外に俺の安地はなかったからな。


「なぜ逃げたんですか?」

「その前にコレの説明が先だろ?ん?」

「高性能の小型GPSです。要人の監視や海外での囚人の体に埋め込んで使います。コレひとつで半年は持つので頻繁に取り出す必要がないのが利点です」

「GPS自体の説明をしろなんて言ってない。なぜ俺の服に仕込んだか聞かせろ」

「逃げると絶対に思ったからです。海での私達との交流に加え休日まで潰そうとしたんですから。でもなぜ逃げたんですか?」

「お前が今理由を口にしたぞ」

「え?」


無意識とかこのお嬢様怖すぎる。


「金輪際つけるな。予め連絡を貰えれば付き合う」

「数ヶ月前まで「絶対に関わらない」とか言ってたのに変わりましたね」

「努力をするだけの話だ。『女子恐怖症』を治す努力をな」

「なら協力しますね?」

「俺が言った時だけ頼む」


この加減を知らないお嬢様に頼んだら一が一億になって返ってくる。冗談抜きで。

そんなのは俺の体が持たない。


「遠慮は入りませんよ?間宮さんが本気になれば私達を好きに出来るんですよ?並の男性ならイチコロだと思いますけど」

「悪かったな。並の男性じゃなくて。俺はそこまで単純じゃないだよ」

「単純ですよ。こうして私が近くとその分離れようとしてますよね?」

「分かってるなら近寄って来るな」

「そんな寂しいこと言わないでください。同じ部屋で寝た仲じゃないですか」

「その言葉は色々語弊がある」


無理やり押しかけた挙句、朝まで喚き散らすという脅迫までして寝た奴が何を言う。

お陰でその時は寝不足だった。

それに、同じ部屋と言ってもワンルームしかないので家に入ればそこはもう部屋と言って差し支えない場所だ。

決して、広い家の同じ部屋ではない。


「なにかオススメはありますか?」

「全部」

「……真面目に答えてますか?」

「至って真面目だ。ここに並ぶ本全ては俺が一年頭を悩ませても出てこないような物語が詰まってる。人が考えた作品に同じものはない。つまり、ここにある一冊一冊がその人の個性だ。そう思うと面白くないか?」

「面白い見方ですね。本一冊なのに」

「本一冊は約十万字ほどある。個性が出ないわけない」


個性のみならず性癖を垂れ流したり、好みの女性をヒロインにするなんてざら。

ラブコメに至っては作者の恋愛観までわかるというもの。

面白くない訳がないのだ。


「個性が好きなのですね」

「ああ。見てて飽きないだろ」


まあ、ライトノベルはそういうものが新人賞などで残り書籍化していくのだが。

作家なんて難しい職業、俺には絶対に向かない。

そして横の化け狐。なぜこの暑苦しい日に手を繋ごうとして来る?嫌がらせか。


「これも一個性ということで」

「その言葉はそこまで便利じゃないからな」


手を繋ぐ個性があってたまるか。

冷や汗と痺れが止まらない。


「今この場で泣き崩れて十六夜さん達を呼びましょうか?」

「脅すな。あと前の文と後の文一致しないからな」


泣き崩れたら十六夜達が来るってそれもうなんて地獄?


「少しデートしましょう?」

「誰かに追い回されたせいで疲れてるんだが」

「少しデートしましょう?」


加羅忍が『デートしましょうbot』になってしまった。

そんな出会いに飢えたbotおら嫌だ。


加羅忍に手を引かれ、俺は炎天下また歩いた。

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