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第四十六話 同調圧力かけんのやめて

近くの銭湯で風呂に入り、俺達は布団を広げた。

ワンルームという狭い空間に。

机をたたみ端に立てかけ、それでも五つの布団を広げるスペースはない。

ならどうするか。


「くっついて寝ればよくない?」

「そうするか!」

布団を四つ敷き、三つという狭い場所で十六夜達はそこで寝るようだ。かなり狭いし冷房があるとはいえ暑いだろうが頑張って欲しい。


「間宮も混ざる?」

「混ざるわけないだろ。仮に混ざるとか言ったらどうするつもりだ」

「包み込んであげる!」

「馬鹿か」


俺が断るのは見えているだろうが、他の男なら行くぞ。

行きたくても行けない奴は掃いて捨てるほどいる。

俺だから言えることだ。


「いいから寝ろ」

「狼斗さんは寝ないんですか?」

「お前らが完全に寝たら寝る」

「イタズラする気だ!」

「逆にイタズラされないために起きてんだよ!」


俺だってバイトからの夏祭りで猛烈に眠い。

目を瞑って十分後には寝てるくらいには眠い。早く寝てくれと願うばかりだが、目の前では恋話が始まった。


「寝ろよ」

「間宮は初恋いつ?」

「それ俺にとっては大地雷だけども」

「いつ?」

「こいつ……戦車か。俺の初恋は中学の時。これ以上は言いたくない」

「どんな子?」

「……この中の全員に当てはまらない子」

「もっと気になる。具体的に教えて!」

「俺の布団からこっちに来るな。せめてもの境界線だ」


泊まりで男から境界線を提示するなんて珍しいだろう。


「入らないから教えて」

「嫌だ」

「どうして?」

「思い出したくもない」

「時雨ちゃん知ってる?」

「知ってますけど……本人からいいと言われないと……」

「絶対に言うな」


俺は塞ぎ込み布団に潜った。

しばらく四人の恋話をしていたがいつの間にか話題が戻ってきていた。


「ねね、間宮の初恋の人ってどんなの?」

「え、えぇ……」

「大丈夫間宮寝てるから」


起きてるよ。バッチリな。


「えっと……元気で明るい子……でもアンニュイでもあって……計算高い人でもありました」

「……キャラ濃いですね」

「これじゃあ好みが分からない!」

「狼斗がどこが好きかって話だよな」

「そうですね……」


背中に刺さる視線が痛い。ものすごく痛い。

呼吸を乱すな。一定のリズムで呼吸をするんだ。全集中だ。


「まあでもわたしと違っても好きにさせるだけだし」


その決意が物凄く怖い。


「物好きだなー。世の中にはもっといい男がいるだろうに」

「狼斗さん以上に優しい人はいませんよ。この足だって応急ですけど治療して貰いましたし」

「こいつの子供の扱いの上手さはこの中じゃ敵わないよな。四人一気に相手出来んだもん」


やめろ。やめてくれ。褒められ慣れてないんだ。

忘れるために颯太との楽しい思い出を頭に思い浮かべた。

その時だ、目を瞑る俺の視界が暗くなった。


「盗み聞きするとこうなるんですよ」


うっすらと目を開けると加羅忍がにこりと笑っていた。


「うわっ!」


飛び起きると十六夜と時雨からじっとりとした目線を浴びた。


「違う!盗み聞きしてたわけじゃない!」

「じゃあなんで起きてるの?」

「寝るに寝れなかったんだよ!お前らが喋ってるから!」

「え、私達のせいですか……?」

「いや、あの、……そうじゃなくてだな」

「泣かしたー。」

「泣かしましたね」

「同調圧力かけんのやめて」


いくらメンタルが弱い時雨でもこの程度で泣いたりはしない。

嘘泣きと分かっているのに……なんだこの罪悪感は。


「罪悪感があるなら一緒に寝ましょう?」

「その理屈はおかしい。絶対に寝ない」


布団に潜り込むと俺は断固不動の意志を貫いた。

そう、俺はまったくと言っていいほど動いていない。まったく動いていない。

なのになぜだろう、完全に包囲されているのは。


「逃げないならわたし達の勝ちだから」

「大丈夫。嫌がることはしませんから」

「この状況が嫌なことって早く気付いて」


暑い夜に人と触れ合って寝るなんて出来るわけがない。

しかも相手は女子。慣れたとはいえほんの少し。鳥肌と悪寒はある。

それを知ってか知らずか十六夜と時雨は俺の両腕に寄り添った。

そんな状況で寝れるほど俺のトラウマは浅くはなく、時刻は夜の三時。

両隣のお邪魔虫は既に夢の中。いっそ夢遊病でも発症してガラ空きの布団に移動して欲しい。


「うん……」


両隣のどちらかが寝返りをうつだけで俺の背筋はヒヤリと凍る。

その俺の右腕は枕にされ、左腕は抱き枕にされていた。

完全に拘束されており俺一人での脱出は絶望的。

夏鈴も加羅忍も夢の中の為助けを求めることすら出来ない。

そもそも起きていたところで助けてくれるかは不明だが。


そして最もタチが悪いのはこの凶悪なまでの可愛い寝顔だ。

右に顔を向ければ綺麗な顔があり左に顔を向ければ可愛い寝顔がある。

ドキッとするもんだと思っていたが暑いし邪魔だし寝ずらいだけで憎さしかない。

文字通り、可愛さ余って憎さ百倍だった。


「ま.....みゃ.....」

「ろう.....」


悩ましい声で寝言を言うな。

もっとハッキリ、いつもの調子で言って欲しい。

いや、それはそれで怖いからやっぱりやめて欲しい。


全てをひっくるめて。

世界よ、早く太陽を見せてくれ。

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