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第四十四話 光が消えた紫紺の瞳はもはやブラックホール

花火の特等席として用意したのは俺の下宿先。

海に近く、エアコンもある空間。五人も入るとなるほやはり狭いが外で蒸し暑いなか見るよりははるかにいい。


「場所として自分の部屋を差し出すなんて変わりましたね。保健室の時は帰れとか授業に戻れとか言ってたのに」

「至極同然の反応だと思うが。あそこは俺の教室であり生徒が休む場所だ。お茶会だのサボりに来る場所じゃない」

「花火始まったよ!」


暗い夜空に満開の花が咲いていく。

すぐに消えてもすぐに咲く。色も形も光る時間すらバラバラなのにお互いを邪魔することなく次に咲く花を際立たせる。

アレを計算して出来る花火師はやはりすごいと思う。


「なんかわたし達みたいだね!」

「なに言ってんだ?」

「色とりどりで個性がありお互いに邪魔しませんもんね」

「待って。百歩譲って個性があるのはいいがお互いに邪魔しない所は解釈違いだ」

「私達が、邪魔......ですか?」

「ああ。邪魔。俺の平凡な保健室を返せ」

「照れ隠しが下手だなー」

「照れてもないし隠してもないからな」

「間宮仲良くしてくれるって言ったもん」「私とは友達契約してますからね」

「わ、私は!去年からずっとアルバイトを共にして接触する許可を貰っていますから!」


なにを張り合っているのか時雨が俺のそばに寄ってきた。

だが爆弾を投下したのは獅子だった。


「おれ、お姫様だっこされたことあるぜ!」


俺からすれば布団があるのに布団で寝ない困った獅子を運んだだけで特別な思いがあったわけじゃない。

あるとすれば純度百パーセントの善意だ。

それなのに十六夜は光を失った紫紺の瞳でこちらを見て来た。

光がない紫紺の瞳はまさにブラックホール。


「別に特別な思いがあったわけじゃない!夏鈴が風邪ひくだろうと思ったから!」

「いつ?なんで夏鈴ちゃんが間宮の側で寝ることになるの?え。家に行ったの?」

「時期は体育祭当日。偶然公園で間宮と会ったんだよ。んで、そのまま昼飯食って寝た」

「お前はそうだろうな。俺も寝たけど」

「添い寝ということですか?」

「火にガソリンを注ぐな。添い寝はしてない。離れて寝た」


どこに女子の家に上がり込んで合って間もない女子の隣に寝る男がいるんだ。

俺にそんな度胸があったらこんなトラウマは持ってなかっただろうよ。


「今日わたしここで寝るね?もし追い出そうとしたら騒ぐから外で朝までずっと」

「夏鈴。こいつ連れて帰ってくれ」

「無茶言うなよ。足怪我してんだぞこっちは」

「ならなぜマウント取ったよ」

「なんかよくわかんねーけど......負けた気がしたから」

「よく分からんとかいう理由で居場所を奪われる俺の気持ちにもなれ」

「これも克服の一環ということで」

「無理な後付け設定はいらない。明日も仕事なんだよ。お前らだってそうだろ」

「そうですね。わざわざ自身の時間を犠牲に従業員を確保したわけですから。しっかりこなさないとダメですよね」

「ここで寝たらやる気です」

「小学生か。布団は1つしかないんだ。加羅忍、お前はどこに電話をかけている」

「今布団を持ってくるように指示しました」


ほんとお嬢様ってなんでも急に出来るから苦手だ。

断然こっちが有利でも武器を使い果たしたら意味なんてなくなる。

その上、あっちは無限の武器庫に弱体無効とかいう調整ミスを疑う初期設定。


「これが加羅忍家に生まれたものの特権です」

「好き勝手やると海外に連れてかれるぞ」

「大丈夫です。余程のことがない限り私は海外には行きません。それこそ家が燃えたりこの国で居場所がなくなるようなことでなければ」


全国の放火魔を集めて加羅忍宅に火を放って欲しい。

ガソリンとか燃えやすいものはこちらで用意するから。


「ずるい。私も泊まりたい」

「時雨。お前は我がまま言うこの兎を引きずり出す役だろ。そんな恐ろしいこと言わないで」

「可能ですよ。天月さん?」

「え」

「布団は全部で四つ来ますから。全員泊まれますよ?」

「おいおい、あんな高層ホテルのスイートルームに泊って置いて贅沢すぎやしないか」

「どのみち料金はかかってませんから。やろうと思えば朝食をここに持ってこさせることも可能です」

「他の人の迷惑になるから止めてくれ」


この宿に泊まっているのは俺だけじゃない。

相園さんもいるし他にも宿泊者はいる。騒げないし大人数でいることは不可能だ。


「ならこーしようぜ。絶対に騒がない。周りに迷惑をかけない。ちゃんと寝る。これでどうだ!」

「......絶対に静かにしろよ」

「では間宮さんは一旦外に出て貰えますか?」

「なんで?ここ俺がとった宿なんだど」

「着替えるんだよ。それとも下着姿みたい?間宮のえっちー」

「それを早く言え。終わったら呼べ」


太陽はないものの蒸しっとした暑さが肌にまとわりつく。

俺は立ち上がると海風に乗って香ってくる火薬の匂いと辿って海に向かった。

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