第四十三話 夏祭りの背に潜む悪女
夏鈴を連れて時雨達の元へと戻るとまたしても男達に囲まれていた。
だがガチムチの警ら隊ではなく、私服姿の青年に見えた。
「ねね。二人?ならオレ達と回らない?こっちも二人なんだわ!」
「丁度いいよな!なぁ!」
時雨はいきなりの声かけに声が出ずにキョロキョロとするだけ。
十六夜は不思議そうな顔で首を傾げるだけだった。
「なんでわたし達に声かけたの?」
「え、だって可愛いし。二人なのかなーって思ったし」
「折角の夏だし楽しまなきゃじゃん?」
「そっか。でも友達待ってるから」
「あーじゃあ。友達も一緒にさ」
「男の子だから」
「なら抜け出さね?楽しませる自信はあるけど」
しつこい応答に十六夜は嫌な顔一つせず逆に目を輝かせていた。
「今日何回目?」
「え?何回目って初めて声をかけるけど?」
「噓だ」
「嘘じゃ......」
逃げるなら今だぞ。男ども。
あの紫紺の瞳に見つめられたら身体が動かなくなるぞ。
「声がうわずってるし視線が少し動いた。なんで?どうして噓つくの?」
「お前に関係......」
「因みになんて言われて振られたの?その時になって言ったの?」
「は?だから初めてだって」
「思い出したくもないほどに酷いこと言われたの?」
「なんなんだよ。人の傷抉って楽しいかよ!」
「傷だったの?傷を負ってまでなんで声かけるの?」
「いい加減に!」
男が手を振り上げると同時に俺の手が振りほどかれ、後ろから獅子が飛び出した。
男の振り上げた手を引き、脚をかけ倒した。
慣れた事でも慣れない履物での激しい動きはキツイようだった。
「テメェ!ふざけんなよ!」
咄嗟に対応しようとした夏鈴だが足の痛みで一瞬遅れてしまった。
しかも浴衣といういくらでさえ動きにくい恰好で二人相手するのは無理があったらしい。
去年ならざまあみろとただ傍観するだけだったと思う。
だが時雨からも一応十六夜からも、夏鈴からも加羅忍からも個々の良さというのを教わった。
女子というのは怖くないと。
「ふざけんなはこっちの台詞だ!」
俺は夏鈴に殴りかかる男の腰に蹴りを入れると夏鈴たちの前に立った。
本当なら不安なはずなのに怖いはずなのにタネが分かれば平然と出来る。
「女を食うのは好きにしろ。だがこいつらはダメだ」
「......仕方ない。他を当たるよ」
「っち!」
腰と腕を庇い男達は人混みに消えてしまった。
「お前、すげぇな」
「凄くない。どんなコケ脅しでもタネさえわかれば怖くない」
「どういうことですか?」
「間宮はなにか知ってるの?」
「お前らの方がよく知ってるだろ。なぁ、加羅忍真尋」
奥の雑木林に声をかけると藤の浴衣が雑木林から姿を現した。
「いつから気づいていましたか?」
「十六夜が口を滑らし、夏鈴で確信した」
「え、わたしなんか言った?」
「あ。あんときか......」
夏鈴は気づいたか。
「十六夜。お前、なんで俺が時雨と一緒にいるって分かった?」
「え?」
「お前は「時雨ちゃんの所に行こう」って言ったぞ。加羅忍と一緒にいたかもしれない。夏鈴と一緒だったかもしれない。分かるはずだよな。全員が手、組んでバラバラに動いてんだからよ」
流石の行動力に頭が下がる。
もし十六夜と夏鈴が口を滑らさなかったら分からなかったし死に物狂いで加羅忍を探す。
「でもあの人達知らない!」
「あいつらは加羅忍の使用人かなにかだ」
「なんでそう言い切れるんだよ」
「十六夜は知ってると思うがこの祭りには警邏隊がいる。下手にナンパして捕まりでもしたらそれこそ赤っ恥。夏鈴が飛び出しても警邏隊は一人も来ない。全て仕組んであったんだよ。さっきの男達も含めてな」
警邏隊は本物だとしても口裏を合わせてあるだろう。
だが俺のはあくまで仮説であり音声や証人などの証拠があるわけじゃない。
否定され続ければこれ以上は追求できない。
「まさか見破られてしまうとは思いませんでした」
「時雨を俺と最初に居させた理由はなんだ」
「天月さんと一人にするのはあまりに可哀そうだと思ったからです。それと、本人から頼まれたからです」
「えあ......」
時雨から弱々しい声が漏れ、顔を真っ赤に染め手をもじもじ。
時々上目遣いで俺を見て目が合えばすぐに逸らした。
まるで照れているようだ。
「必要とあらば裏切るのな」
「はい。必要とあらばの話です。誰彼構わず裏切ったりはしませんよ?」
やってることはかなりの悪女だ。
ただ理由が明白なだけに俺からは強く言えない。強く言えるのは時雨本人だが本人が赤べこじゃどうしようもない。
「どこまでが仕込みだ。言え」
「散開して個々がアクションを起こしある程度集まったら使用人たちに出てきてもらう所です。わらしべ長者やサンタクロースは想定外です」
流石の加羅忍も十六夜の強運も夏鈴の天才的な狙撃は想定外だったらしい。
そこまで計算に入れられてたら俺は多分見抜けない。
今回は敵がまぬけだっただけの話。
「なんでもいいが、使用人を使ったコケ脅しは二度とやるな。疲れる」
「違うでしょ。『今度あった時に十六夜達を守れるか分からない』でしょ」
「図々しいこと言いやがる。自業自得だろ。なにが目的か知らんがな!」
「それは勿論思い出作りです。『皆で』ではなく間宮さんとの個々の思い出です」
「で、作れたのか?」
『足りない』
「そうか。残念だったな」
こんな杜撰な計画に参加してやることもない。
夏祭りを楽しむ。そして、花火を見る。それだけでいい。
恋だの愛だのは来世で頑張ることにしよう。
「花火が始まる。見える場所移動するぞ」
「今から?場所一杯じゃない?」
「良い場所がある。俺達の貸し切りで涼しい場所だ」
首を傾げる十六夜達についてくるように言うと俺は今回の花火の特等場所へと移動した。




