第四十二話 獅子の足跡
祭りで賑わう人ごみの中を歩いた。
人間、不思議なもので客観的に見てぶつかりそうな集団でもその中でぶつかるのは一人、二人位だ。
俺は獅子が残した足跡を辿っていた。
「見つけた」
俺が見たのは獅子が狩りをする瞬間だった。
「っしゃ!落ちた!」
「上手いねー。スナイパーみたいだ」
「だろ!妹達の土産にすんだ!」
ニカっと笑う夏鈴は実年齢より少しだけ幼く見える。
浴衣も少しはだけて……ん?
夏鈴の帯が緩かったのか自分で緩めたのかは分からないが夏鈴の小さくない胸がチラチラと見えている。
「夏鈴!お前!」
「お!狼斗!見ろこれ!」
夏鈴が動く度に帯から浴衣が出てきて胸を押さえつけることなく揺らした。
「お前、浴衣!」
「ん?ああ、別にいいよ。減るもんじゃねぇし」
「良くない。女なら隠せ」
「震えてんぞ」
「必死に抵抗してるから黙れ」
普段男勝りな言動が多い夏鈴だが、体つきは女だ。
見た目でなるのは把握済みだが……性格が女子の場合、どうなるのか。少し気になった。
世の中には男の娘という性別もあるくらいだ。だが、周りにそんな奴はいない。
「あんがと」
「あくまで応急処置だ。戻って結び直すなり着替えるぞ」
「待て待て。もう少し遊んでこうぜ」
「少なくとも皆と合流しないといけないだろ」
「いいんちょーなら大丈夫だって」
「そうじゃなくて、浴衣の夏鈴だって危ないだろ。加羅忍だって見つかってないし」
「んー。じゃあ射的で勝ったら素直に戻る」
「……それどの道お前が得するだけだろ」
「いいから」
コルク弾が詰まった銃を渡され八重歯を見せて笑う夏鈴。
もし夏鈴と付き合ったらこんななんだろうなと思う。
ただ夏鈴も女で二人同様に俺が『女子恐怖症』を治さない限り夢物語だろうが。
「いいだろう。FPS経験者の俺に敵うと思うな」
銃を構え片目を瞑る。
射的のコツは至近距離で撃つことではない。
重点を捉えてそこに当てることだ。勿論至近距離で撃てば重点を狙えるが、撃つコルク弾にも勢いというものがある。
詳しくは俺も知らないから割愛するが、少し離れて撃つ方が威力があったりする。
夏鈴を見ると自由奔放な撃ち方なのにも関わらず重点を捉えている。
それは才能に近く、普通の人は真似できない。
「よっし!三個ゲッツ!狼斗、早くしろよな」
「急かすな。俺は天才じゃないんだ」
狙いを澄まし引き金を引く。
コルク弾が飛んでいきお菓子の箱を後ろに飛ばした。
「おお!うめぇじゃん!」
「よく狙ってアレだ。これ以上はない」
よく狙うというのもかなりの集中力が持ってかれる。
夏の気温に周りの騒音。そしてなにより目を輝かせる獅子が集中力を奪う。
周りのせいにするなと言うなら、横から胸丸見えの状態の女が居たら男はどうだ。
集中なんて出来やしないだろう。
その結果……。
「アハハ!一個だけかよ!」
「これが欲しかったからいいんだよ」
「だっせー!」
腹を抱えて笑う獅子。
悪意のない笑いだから怒れず憎めない。
女を捨てているような態度ではあるが笑ったりするとちゃんと女子高生している。
本当に女って怖い。
「ほら、戻るぞ」
景品をサンタもびっくりの袋に詰め込んで肩に背負った。
浴衣にデカ袋を背負う姿はなんともミスマッチ。
「よし、行くか!」
「重そうだな」
「そこまで重くねーよ。それに柔じゃない!」
「さようで」
俺の後ろを歩くデカ袋。
当然人目を引くし道も開く。通りやすくていいが、注目されて居心地が凄い悪い。
「待てよー。歩くの早いって」
「そんな量取るからだろうが」
「ちげーって。足の皮剥けてんだよ」
「あん?」
夏鈴の足元に目線を移せば、足の皮が剥け、鼻緒に血が滲んでいた。
時雨より深刻で慣れない履物で無理した形跡だった。
「まったく......なんで無茶ばっかりするんだよ」
「楽しくて忘れてたんだよ」
「ほら、手貸すから絶対にその袋の中身ぶちまけるなよ」
「さんきゅー」
夏鈴の手を取りゆっくりと歩いて行く。
さっきよりも視線が集まり俺の頬にも熱がこもる。
「お前、また震えてんぞ」
「ただの拒否反応だ」
「なら手、放せばいいだろ」
「足怪我してる奴がなに言ってんだよ。荷物さえなけりゃおぶってた」
「優しいな。狼斗は。女がダメなくせに」
「夏祭りは俺が誘ったからな。誘った責任は取るつもりだ」
と言っても高校生の俺が取れる責任なんてほんの少しだ。
例えば、怪我している奴の先導だったりな。
「そっか。なら先導頼むぞ!」
「分かったから腕を振るな」
ぶんぶんと腕を振る夏鈴の手を引き俺は時雨と十六夜の元へと戻った。
あと残るは加羅忍だけだ。
だが加羅忍の居場所は大方検討がついている。
それにはまず時雨達の元へと戻らないといけない。




