第三十八話 時には無理することも大切なんだよ
その日の夜。
まだヒリヒリと赤い肌のせいで風呂も入るのがしんどかった。
宿に風呂がないため近くの銭湯まで来たが極楽だ。
湯船では足を伸ばせるし近くに旅館が出来たとかで利用者は少なかった。
一人で考え事をするには丁度いい。
「どうすりゃいいんだよ……」
二人からの女子から好意を寄せられ一人は好意とも気付いていない。
そのせいかあの後もくっついてくる。
時雨の方は元々密着するというよりは側にいるという意味合いが強いためあまり変わっていないように見えるがよそよそしくなったのは確かだ。
俺が動こうにも女子とまともに接してこなかった俺には初めてのことだらけでもう既に詰み状態。
あとは四人が動いてその隙間を埋める程度。
その埋める作業が大変なんだが。
このまま忘れてくれた方が全て丸く収まるが自然と湧いた感情がそこまで簡単じゃないことは俺が人一倍分かっている。
「そろそろ上がるか」
風呂から上がり髪を拭いていると女風呂の方から相園さんが出て来た。
「新人君も入ってたかー」
「店長とは同じ宿ですしここが風呂最寄りじゃないですか」
「そうなんだけどねー運命を感じたのさ」
「そうですか」
そんなことで運命を感じられるなら人生楽しいだろうよ。
「なんだ高校生が悩んでますみたいな顔して」
「現に悩んでるんですよ」
「あの四人の中に好きな子でもいる感じ〜?」
「それだったらどれだけ楽か」
四分の一を選ぶだけならまだ簡単なんだ。自分の気持ちを優先すればいいだけの話だから。
だが現実は二つの道に茨が群生している状態。
「ふむふむ。女の子から好意を寄せられたのはいいがトラウマがあって答えられないと」
「そうなんです。今彼女達は俺からの応答を待ってる状態で、なんと返したらいいか分からないんです」
「青春の現場って複雑だね〜。おばさんからのお節介と思って聞いてもらえれば幸いだけどさ」
相園さんはそう前おきを入れるとアドバイス?をくれた。
「男ならハーレム目指そうよ」
「ん?話聞いてました?トラウマがあるのに?」
「トラウマなんていつか治る。自分も、男が怖かったけどそれはもう中学の話。女子高行ったら女の方が怖いって分かったから。毎回無理をする必要はないけど、無理する時は増えると思う。候補が四人もいればね」
「他二人はそんなんじゃ……」
「そう言い切れる?二人が気持ちを伝えてないだけじゃないの?」
そうは言っても男の方から「俺のこと好き?」と聞けるのは少女漫画の男達だ。
俺がそんなこと出来るなら全てが解決する。
「恋なんてものは面倒よ。私は、画面の中だけでお腹いっぱい」
「俺もこのあたりに選択肢出て来てほしいですもん」
「あとセーブとロードがあれば完璧。それなら人生イージーだ!」
「いやぁ、出てくる選択肢で迷いそうですけど」
「セーブがあるなら大丈夫でしょ。多分」
自身の記憶には残ってるだろうから恥ずかしいと思うけど。
「私からは悩みぬけ、無理をしろということを伝えたい」
「無理ね……具体的なものが思い浮かびませんけど」
「なんでもいいよ。デートしてみたり近所で夏祭りがあるから行ってみてもいいし、そのあとの花火を見るもヨシ。折角の夏だ。動いてもらうばかりじゃなく、新人君からも動かないと悩みは解決出来ないぞ」
背中をぽんと押され少しだけ出口が見えて気がした。
だが新たに出て来た巨大な迷路。
俺は今まで迷路を進まず止まっていただけだった。
だがそろそろ俺も動く必要があるかもしれない。
「手始めに祭りに誘ってみるのはどう?事前に言っておけば浴衣が見れるかもしれないよ?」
「多分俺から誘ったら浴衣見る余裕なんて無くなりますわ」
「そこは無理する所だよ。どんなに怖くても相手が人間で知り合いなら「きっと大丈夫」って自分に言い聞かせるんだよ。彼女達が安全と思えば大丈夫」
そう思ったのに裏切られたから信頼できなくなんたんだけど。
宿に到着した。
アパートのように二階建てのワンルーム。
近くに立つ加羅忍ホールディングスが建てた旅館やホテルなどが所せましと並ぶこの一帯ではかなりこじんまりとしている。
ま、学生の俺が取れる宿なんてたかが知れている。海の家が機能する間だけの宿ならここでも別にいい。
明日も仕事だし寝ようとした瞬間、ドアがコンコンとノックされた。
相園さんかと思ったらどうやらちがようだ。
「やっほー。来ちゃった」
「帰れ」
「折角来たんですから話くらいしましょう?」
「おじゃまー!」
狭いワンルームに高校生が五人もいるスペースはない。
「狭いな!」
「当たり前だろ」
「言って貰えたら間宮さんの分の宿も取りましたよ?」
「流石に遠慮した。いくらでさえ、バイトを優先的に入れて貰ったんだ」
「謙虚ですね」
「普通だろ」
すいません相園さん……俺、無理は出来なさそうです。
夏だからか、暑いからか、風呂上りだからか、十六夜達が色っぽく見える。
半袖にスカートか短パンなのに夏と海のそばというだけで俺は幻覚を見ている。
それがなぜか悔しかった。
「ねーねー」
「夏祭りって行く予定あるか?」
俺がそう言った途端に全員が黙った。
「なんだ」
「間宮狼斗……さん。だよね?」
「ああ。そうだが?」
「酔ってますか?」
「未成年だぞ」
「テンション上がってんのか?」
「ない」
俺が動いたらこの反応。
当たり前か……。
「俺からも動こうと思ってな。直さなきゃいけないもんだし、動いてもらってばっかじゃ悪いからな」
「その初めの一歩として夏祭りに行こうということですね?」
「その通り。用事があるなら無理しなくてもいい」
「そんなことない!行く!絶対!」
「ありがとな」
さーて。こっからどうするかな。
全く考えてないや。




