第三十四話 変わらない夏休み
定期テストが問題なく終わり気分はもう夏休み。
テストの結果が帰ってきて保健室は大いに騒がしかった。
「間宮何点?」
「ほとんで平均だな」
「うわ。普通に授業出てれば八十点は取れるじゃん!」
「それで補習いるのか?いらなくね?」
「単純に単位の問題だ。いくらテストで百点でも授業に出てなかったら単位が認められないんだ」
「それは私達にも言えることですけどね」
「一番の問題はお前だ十六夜。俺より点数悪いだろ」
十六夜の点数は本当に赤点ギリギリ。
授業にも出ておらずテストでも点が悪いとなると留年の可能性が一気に上がる。
保健室でパンツ晒しながらサボるからだ。
「じゃあ次の定期テスト前には皆で勉強会しよ」
「……はぁ〜」
「今言わなきゃ良かったとか思いましたね」
「思ってるならやらないよな」
「やります」
クソが。
俺は馬鹿か。あの騒音の兎のことならすぐに「皆で」ってなるのは目に見えていたはずなのになぜ「単位が危ない」とか言い出した。
それさえなければ回避出来ただろうに。
「もう夏休みまで棒読みですね」
「っしゃー!休める!」
「夏鈴は一ヶ月しか登校してないだろ」
「ああ、だから補習確定だ。ま、狼斗がいるなら文句ないけどな!」
「補習のことですが、今年は教室の工事が夏休み中にある関係で応接室だそうです」
「入りきるのか?俺達だけじゃないだろ?」
「いえ、私達だけですよ?」
ということは今この空間となにも変わらないわけだ。
場所が保健室ではなく応接室になるだけ。
そしてやって来てしまった夏休み。
俺が応接室の前に行くと鳴川先生から鍵を渡された。
「今から会議だ。補習組は保健室でやれ」
「……はーい」
保健室の鍵を開けて数十分としないうちに全員揃った。
「なんかすごい既視感。本当に夏休み入ったよな?」
「入ったよー」
「やってること変わらなすぎてびっくりした」
俺はいつも通り、机に向かって渡されたプリントを埋めていった。そう。いつも通りにだ。
「ねーねー」
「さっさと終わらせて帰りたいから邪魔するな」
「なんで?」
「今日バイトなんだよ」
恨みを込めた目で加羅忍を見てもニコリと微笑むだけで知らん顔。
全部お前のせいだ!お前がバイト先に圧さえかけなければ!夏休みを有意義に過ごせたのに!
「そういえば間宮さん。海の家で働きませんか?」
「急になんの話だ」
「この前お話した効率のいいアルバイトです」
「ああー。なぜ海の家?」
「夏休みですから」
「ちょっと意味が分からないしここから海遠いだろ」
「住み込みらしいです。なんでも、シフトがない日は海の街を楽しんでほしいとか」
「そうか。いつからだ」
「三十一日からだそうです」
「補習が終わる日なら心配ないな。やろう。というか履歴書とかは必要ないのか?」
「便宜上必要ですから持っていけば間違いないかと」
夏休みという稼ぎ時にバイトが出来ないと悔やんでいたが中々いいバイトを紹介してもらった。
お嬢様の血筋は伊達じゃないってことか。ありがたい限りだ。
「じゃあ皆んなで海行こう!」
「来てもいいが相手は出来ないぞ?仕事中だし時間ギリギリまでやるつもりだし」
「そんなこと可能なんですか?」
「可能だとも。海の家だけでやろうとすると労働基準法だとかに引っかかるが、海の家と掛け持ちすればその限りじゃない。俺が週に何十時間働こうが働く先を変えれば関係ない」
法律はそこまで介入はして来ない。
それに、十六夜達が海の家に来ようが客として対応出来るし邪魔も出来ない。
「邪魔しようたって無駄だぞ加羅忍。既に俺は向こうに履歴書を送ってる。夏は稼ぎ時だからな」
「早いですね。侮っていました」
俺は別に金が欲しいわけじゃない。
十六夜達と触れ合わない拘束時間が欲しい。
夏の海での『仕事』は無数にあるが『やること』は然程ない。
ただイチャつくカップルに向かって『お幸せに』と応援するだけだ。
「それなら邪魔出来ないじゃん」
「するなって話をしてんだよ」
「因みになんのアルバイトをするんですか?」
「海の家とライフセーバーの仕事だな」
「それって資格いらなかったか?」
「持ってるに決まってるだろ。色々種類はあるが俺が取れたのはベーシックだけだった」
アドバンスやらなんやら色々あるがタイム制限があるため、本格的に水泳をやっていないと取れない。
「なら皆さんで邪魔しましょうか」
「おうこら。仕事の邪魔しちゃいけませんで親に教わらなかったのか」
「いえいえ、お仕事の邪魔はしません。間宮さんの作戦の邪魔をするだけです」
「それはイコールなのでは?」
「違います」
言い切ったな。
随分と俺を出し抜く覚悟があるようだ。
「まあ、なんでもいい俺の作戦に穴はない。来るなら来い。返り討ちにしてやる」




