第三十三話 Q「夏休みはなにしてる?」A「補習とバイト」
颯太の登校が実質終了し俺はいつもの……いつもの日常へと戻ってしまった。
「ねーねー。写メ撮ろ?」
「撮らない」
「ねーねー。勉強しよ?」
「勝手にしてろ」
「ねーねー。くっついていい?」
「やめろ」
懐かしいねーねー連呼が続き、要求が前より過激になった。
そしてダメと言っても騒音兎は静かに俺の隣に座った。
「間宮は夏休みどうするの?」
「補習とバイト」
「補習も毎日ではないですよ?」
「それ以外バイトのつもりか?」
「ああ。それ以外することがない」
夏休み一緒に遊ぶような友達もいないし去年は麻耶とネットで遊ぶかバイトの日々だった。
「去年はほぼ毎日シフト入れてましたよね」
「夏休みとかお盆とか人手がいる時期だからな。そのお陰でかなり稼がせてもらった」
その後特に使う当てもなく口座に眠っている。
「じゃあ海行こ!」
「海か……海の家の相場ってどれくらいなんだろ」
「そこで働くこと考えるあたり狼斗だな。こんだけ女が居るんだから遊ぶこと考えろよ」
「なにして?そもそも虚弱体質の加羅忍が夏の炎天下にいて大丈夫だとは思わないが?」
「大丈夫です。それなりのケアはしますしご要望とあれば海すぐの宿を予約することも容易いですよ?」
「そういう時は使うのな」
「加羅忍の名で友達を作りたくないというだけで友達と楽しむだけなら惜しみませんよ?」
「まあいいけど。俺はどの道行けないから」
「どうして?」
「バイト」
この言葉本当に強い。
俺の事情だけでは変えられず且つ拘束時間が生まれる口実。
ただ問題は……。
「まだシフトは決まってませんよね?時間は開けられるのでは?」
「チョット無理カナー」
「時雨ちゃん。まだシフト決まってないんだよね?」
「はい。少なくとも私に連絡は来てません」
「時雨……お前」
「私だって遊びたいんですよ。去年は一度も遊んでませんよね?麻耶とは遊んだのに」
「時雨ゲームやらないだろ。無理強いはしたくなかったんだ」
「……報復です」
俺が一体なにをしたっていうんだ。
ただネ友とゲームをしていただけなのに後ろから刺されるという理不尽。
「んじゃ全員暇ってことか。ハハ!いいね!楽しい夏になりそうだ!」
「勝手に楽しんでくれ。その楽しみに俺を混ぜるな」
「一緒に楽しんだ方がいいに決まってんだろ。そんなのチビ達でも知ってんぞ」
保育園児が知っていても現実はそこまで簡単じゃない。
今でも胸を押し付ける兎を見ると無条件で鳥肌が立つ。そんな状況で楽しめるわけがない。
「大丈夫ですよ。夏休みまでに間宮さんをその気にさせればいいんです」
「よっしゃ!」
「よーし!」
「頑張りましょう」
一つのことを皆でやろうと一致団結することの素晴らしさよ。
更に目的が男をその気にさせるという恋愛を謳歌する女子高生らしいもの。
なんと素晴らしい。そのまま俺のことなど忘れてイケメン主人公にでもアタックしに行ったらいい。
「加羅忍貴様」
「楽しい夏になりそうですね」
加羅忍はふわりと笑うだけで俺の殺意などお構いなし。
こうなったらこっちも策がある。
放課後、俺はバイト先に直行した。
「どうしたんだい。そんなに急いで」
「マスター……夏休み。正確には七月二十四日から俺毎日働きます。お願いします働かせてください」
「なにか理由があるようだね」
「女子に夏に絡まれそうです」
「……それが理由かい?」
「はい。俺の命に関わる問題です」
「あーまあ、理由を聞いたあとでなんなんだけど……実は君を夏休みに大量にシフトを入れることは出来ないんだよ」
うわーすっごい嫌な予感。
こんな人の仕事形態をいじれるのは一人しかいない。
「な、なんでですか?」
「豆とか食材を卸している大元から電話がかかってきてね。ま、悪いようにはしないから」
「仕事出来ないこと自体が悪いことなんですけど……因みに大元って?」
「加羅忍グループだよ。大企業で手をつけていない事業はないと言われるているよ」
「あはは……よーく知ってますよ」
なんせ俺にバイト先ダッシュをさせた女ですから。
俺が絶望で机に突っ伏しているとスマホが着信を告げた。
「もしもーし。今どこにいますか?」
「お前……ぶっ殺す」
「あら怖い。でも先手を打っただけのこと。殺意を向けられる筋合いはないですよ」
「なにが目的だ。なぜ俺にこだわる。男なんて掃いて捨てるほどいるはずだ」
「間宮さんは契約者ですから。契約した責務は真っ当すべきなのでは?」
……確かにそうだ。味方とはいかなくとも敵対しないために結んだ契約が俺の首を絞めているというのか。
「悪いようにはしませんよ。それに、もっと効率のいいアルバイトを紹介しましょう」
「マスターの店もかなり好待遇だぞ。それ以上なんてない」
「時給千五百以上。休憩ありの賄いあり。集客によってはボーナスも付きます」
「人身売買とか臓器売買はやらないぞ」
「違います列記とした事業です。しかも夏限定」
たしかにそんな好待遇すぎるバイトは期間限定だろう。
そうでなければ応募者が多くて処理しきれないだろう。
そこに俺を入れてくれるという。しかもバイト時間という拘束時間が出来て十六夜達の邪魔も入らない。
これは乗る他ない。
「今は乗ってやる」
「決まりですね」
「だが!その後の条件によっては断るからな」
「構いません。こんな好条件のアルバイトを蹴ることが出来ればの話ですが」
たしかに好条件だが俺にも出来ることと出来ないことくらいある。
例えば、同学年女子との協力とかな。




