第二十八話 3歳児に負ける17歳
「にいに!」
久しぶりに家に帰ると颯太が元気一杯に出迎えてくれた。
「ただいま颯太」
玄関まで出迎えに来た颯太を抱きかかえリビングまで向かった。
「どうだった?女の子だらけの外泊は?大人の階段上った?ん?」
「あるわけないだろ。俺だぞ?」
「息子ながら情けない。一人や二人食べてくればよかったのに」
「颯太もこの年齢で叔父にはなりたくないだろうよ」
俺の母親はいつもこうだ。
女子恐怖症なんてまったく気にせず猛アタックしろという。
攻撃力に極振りした結果知能が足りないという親として心配になるレベル。
「折角協力的な子が時雨ちゃん以外に出て来たんだったら利用するに越したことはないでしょう?」
「利用してるつもりだ。あとそんな簡単に言うな。相手は人間。ロボットじゃない。傷つくかもしれないし。その辺はしっかり考えてるよ」
「狼斗、柔らかくなった?」
「なにが?」
「前なら『女なんて俺に使われて当然の生物なんだよ』とかい言いそうなのに」
「自分の息子をそんな暴虐の王みたいに思ってたのか」
「少なくとも傷つくなんて考えなかったでしょ」
「そりゃあまあ」
俺だって人間で罪悪感とか申し訳なさというのは持ち合わせている。
持っていないのは恋愛という未知のものだけ。
「別にいいだろ。もし変わったと思うならそれが成長だ」
「おー。くっさ」
「うるさい」
リビングに背を向け自室へと行こうとすると呼び止められた。
「あーそうだ!大事なこと忘れてた」
「明日、颯太保育園が休園でお母さんたちもいないから昼間よろしく」
「いや俺も学校なんだけど。単位ギリギリだから休むわけにもいかないし」
「どうせずっと保健室でしょ?鳴川先生は?」
「出張行ってる。今日から帰るのは明日の夕方」
「そっか。先生いないんじゃ心配だ」
「いや時雨達を使う」
「その手があった。颯太のこと任せたよ」
翌日。
俺は颯太と手を繋ぎ登校した。
「狼斗!今日は子連れか!」
「弟です」
「分かってるって。颯太、大きくなったな!」
「おじ!」
「おじさんポジは啓介先輩のものっすねー」
「おじさんかー。まあ、いいんじゃないか?ダンディーで」
「先輩がいいなら」
保健室まで啓介先輩と喋り保健室の椅子に颯太を座らせた。
「颯太。ここは危ない場所だからなにかあれば俺に言え。流石におもちゃや絵本はないが相手は大量にしてやれる」
颯太に保健室は危険な場所だと知らせる。
即死するような薬品はないものの目に入ったり直接皮膚につけられないようなものが置いてあるからだ。
俺にかかるならまだいいが颯太にかかったら怪我では済まない。
「おはよー!」
廊下が騒がしいと思ったらドタバタという足音と共にドアが勢いよく開け放たれた。
「間宮おはよ......子供!」
「弟だ」
「颯太くんだよね!初めまして、十六夜美咲。みーって呼んでもらっていいよ」
「!???」
「颯太が怖がってるだろ」
「時雨ちゃーん。嫌われた」
「小さい子には冷静に。自己紹介ですよ。颯太。久しぶり」
「ねね!ねね!ねね!」
颯太は腕を伸ばして抱っこアピール。
時雨が颯太を抱きかかえると颯太は満足そうに目を細めた。
「颯太くん?みーだよ?」
「みー」
「そう!みー!」
なんで十六夜はさっきから『私』を連呼してんだ?普通に美咲でも颯太は理解出来るぞ。「みあち」になるが。
「初めまして颯太君。加羅忍真尋です。まー。と呼んでください」
「あー!」
「はい。あーです」
「順応早いな」
「今はこれでいいです。その内真尋と呼んでもらえれば」
「名前で呼ばれたい願望でもあるのか」
「あります。特に男の子から。今すぐに真尋と呼んでくれてもいいんですよ?」
「断る」
「よっし颯太。秋の姉だ」
「ともあち!」
「そうそう。ともあちな!」
この短時間で女子達と仲良く出来るということは颯太は俺よりコミュ力があるのかもしれない。
三歳児に負ける今年十七歳。
情けなさすぎる。
「なんで颯太がここに?保育園はどうしたんですか?」
「今日は休みだそうだ」
「そうそう。だからおれんちにもいるぜ。親が面倒みてるけどよ」
「俺の所はいないから連れて来た。保健室から出ないし時雨がいれば大丈夫だと思ったから」
これこそ保健室登校の強み。
先生がいないから他の生徒の邪魔も入らない。
俺は保健室から出る必要はない。手助けしてくれる人が四人もいる。
充分すぎるコンディション。
「今日一日、颯太をよろしく頼む」




