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第二十六話 熱出すと何言い出すか分からない

朝、俺は温かな感触に目が覚めたかけた。

湯たんぽのような温かさなのに無機質さは感じないしおまけに抱き心地は抜群。

これからずっと抱きしめたいと思ってギュッと抱きしめた時に音が鳴った。


「あう......」


......到底湯たんぽから出る音ではないしなにより俺は湯たんぽなんて抱いて寝ていない。


「っ!」


俺がベットの上で飛び退くとサラリとした黒髪がベットに広がった。


「時雨......?」


てっきり十六夜だと思っていた俺は困惑を隠せないでいた。

トイレは女子達がいる客人用のあるため使用人用のトイレまで来る必要はない。

トイレの帰りに間違えたというのはない。

そもそも俺の部屋の方向には俺に用がない限りは来る必要はない。

リビングもキッチンも客人用の部屋の方が近い。

なのになぜ朝、俺のベットで時雨が寝ているのか。


「おはようございましゅ......」

「時雨。ここは俺のベットのはずだ。なぜここにいる」

「昨日寒くて......」

「寒くない。仮に寒かったとしてなぜ俺の部屋に来た。十六夜でも加羅忍でも十塚の部屋に行けばいいだろ」

「おい加羅忍のどうにかしろ」


俺が加羅忍の名前を呼んだ瞬間、時雨は飛び起きていつものキリっとした目に戻った。


「噓つきましたね」

「時雨を起こすにはこれが早い。んで、理由を聞こうか」

「本当に寒かったんですよ。他の皆さんは鍵がかかってて起こすのも悪いなーと思ったので鍵を持ってた狼斗さんの部屋に来ました」


時雨らしい配慮の末の決断だが俺が一番避けるべき相手ということを忘れてはいないだろうか。

俺だって男で隣で女子が無防備に寝ていたらリビングのソファに寝る羽目になる。


「起きたならリビングに向かうぞ。朝食の時間だ」


未だにふるふると震える時雨。

今は六月に入ろうとしている時期。寒い日があったとしても半袖で事足りるはずだ。


「お前......」

「な、なんでもないです。近づかないでください」

「さっきまで密着してたのどこの誰だ。手放せ」

「ほら、女子恐怖症が出ちゃいますから」

「今更なにを。時雨は慣れたから平気だ」


額を触ろうとする俺の手をがっちりと掴み放さない時雨。

ここまで嫌がるということは......熱があるな。


「時雨、無茶したろ」

「してません」

「いくらでさえ猫被って余計な労力使ってんのに夜中まで慣れないゲームしてたからだろ。普段からの疲れもあるだろうけど」

「大丈夫です。寒いだけなので温かくしてれば良くなります」

「ここで強情になる意味はないだろ」


メンタル弱いくせに強がりがやがって。


「今日は寝てろ。夏鈴に伝えてくる」

「待ってください!皆さんに心配かけるのは!」

「楽しみを奪うとか言わないよな?」

「......その通りですけど」

「一人が体調崩してんだよ。あの三人も分かるだろうよ」


時雨の手を振り払うと俺はそのままリビングへと向かった。


「遅いですよ。それと、時雨さん知りませんか?」

「俺の部屋にいる。疲れが出て熱がある。風邪ではないと思う」

「なんで時雨ちゃんが間宮の部屋にいるの?え?なんで?」

「至極当然の疑問だが俺にも分からん。寒かったから俺の部屋に来たそうだ」

「いいんちょー食欲はあるのか?」

「聞いてないから分からないが消化にイイものを頼む。作れるか」

「よゆー。今作るから待ってろ」

「他に出来ることありますか?」

「そうだな......安静にさせるために静かにすることだな」


俺の部屋に行こうとしていた十六夜に釘を刺し一旦部屋に戻った。

加羅忍には用があったら連絡すると言っておく。俺一人じゃ出来ることが限られるからな。


「すいません」

「いいから横になってろ。楽になったら自分の部屋に戻れ」

「......はい」

「しっかし有能学級委員長様が体調を崩すなんてな。いつから調子悪かった」

「調子悪かったのは木曜日から」

「一昨日からじゃねぇか。なんで言わなかった」

「迷惑になりたくなかったんです」

「なにが迷惑だ。俺には平気で近づくくせに」

「それは......察してください」

「なにを」


聞き返した所で時雨はクソでか溜息をついた。


「最大の勘違いをしてください。なぜ私が狼斗さんと一緒に居ると思いますか?」

「バイト仲間で猫を被る必要がない男だから」

「違います。最大の勘違いをしてください。なんで私が料理を練習しようと思ったと思いますか?」


徐々に俺の心の中で答えが見えかかっている。

時雨が料理を練習したのはただお菓子以外にも作りたいからだと思ったがその答えはハズレだと教えて貰った。

では他に理由があるのか。それと気になるのが「最大の勘違いをしてください」という意味不明な言葉。


「意味が分からない」

「狼斗さんなら出せます。いや、狼斗さんだから出ないかもしれません」

「どっちだよ」

「もっと簡単に言います。自意識過剰になってください」

「......」


勘違いってのはそういうことか。

自意識過剰になれ、そして料理を始めた時雨。誰のために?自分のため?いやそれは不正解。なら誰か。

料理を練習していた時に夏鈴は俺になにか言おうとしていた。そう俺にだ。

全ての答えには『間宮狼斗』が入る。

そうすれば料理の件も最大の勘違いの謎も解ける。


「お前......それほとんど」

「言わないでください。今逃げ出したい羞恥で一杯いっぱいなので」

「ならなんでこのタイミングで」

「真尋さんから聞きました」


なにをと聞くだけ無駄だろう。

文脈から大体の情報は読み取れる。


「なんて聞いた」

「十六夜さんから告白されたそうですね」

「本人は無自覚だろうけどな」

「私も負けてられないなって思ったんです」

「理解不能だ。そこで対抗心を燃やす必要はないだろ。相手は俺だぞ。どっちも断る可能性の方が高いのになんで」


俺は自己評価が高い方じゃない。

ただ俺より有能な男がいるのは確実で上位互換なんで何億といるはずだ。

その中で俺を選ぶ理由が見つからないんだ。

自分が理解できない自分の事というのは不気味なものだ。


「よく言うでしょう?好きになった方が負けと。それと同じで多少の欠点なんてどうでもよくなるんです」

「ますます分からん。なぜ俺なんだ」

「狼斗さんは自身が思っているより優しいです。そこに惹かれる女の子は多いと思います」

「こんな性格で?女というものは本当に分からん」

「人を好きになったら分かりますよ」


どうりで分からないわけだ。

俺は人を好きになったことなんて一度たりともない。

好きを学ぶ前にトラウマを植え付けられたからな。


「おーい狼斗。いいんちょーの飯持ってきたぞー」

「助かる」

「間宮さんの朝食も持ってきましたよ」

「更に助かる。最悪抜きでいいかと思ってたとこ」

「食え食え!おれ様が作った飯だ」

「いただくよ」


お盆を二つ受け取り一つを時雨の前のテーブルに置いた。


「ありがとうございます。狼斗さん」

「お互い様だ」

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