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第二十二話 怠惰の権化と騒音兎がいるこの場はおそらく魔境

「それでは私達は車で行きますね」

「ああ」

「間宮も乗ればいいのに。広いよ?」

「あのな。男と女が一緒の車で移動したら不自然だろうが。いいからはよ行け」

「またあとでなー」


十六夜達は加羅忍家の車で登校して行った。

加羅忍家から学校まで徒歩で一時間とかからない。ならば歩いて行こうじゃないか。


「狼斗!うおお!」

「啓介先輩。おはようございます」


後ろを振り向けば啓介先輩がペダルを勢いよく漕ぎ俺の横で急停車した。


「なんかやつれてないか?」

「そう見えますか?」

「ああ。てか、お前ここ通ったっけ?」

「まあ、色々事情がありまして」

「大変そうだな」

「ええ、地獄と形容して差し支えないかと」


先輩。そんな惨めな者を見る目で見ないでください。

折角誤魔化してやってんのに自覚してしまう。


「最近、保健室が騒がしいって三年の間じゃ話題になってるぞ」

「すいません。ここのところ疲れて変なテンションになることがあるんですよねー」

「女子生徒が出入りしてるのを友達が見てる」

「はは……どうしてこうなったんでしょうね。今まであの口の悪さから誰も近寄ってこなかったのに……それで良かったのに」

「女子と触れ合ってここまで落ち込むか」

「毎回なに考えてるか分からないし、距離感近いしで心臓に悪いし毎回背筋がゾワっとするんですよ」

「贅沢な悩みだな」


贅沢なものか。

その贅沢が悩みの種なんだから。


保健室に行くと当然のごとく四人がいた。


「遅かったね」

「啓介先輩と話しながら来たからな」

「今日から夏鈴さんも教室復帰ですから狼斗さんは一人で待機ということになりますね」

「よっし!」

「なんかイラつくな」

「わずか五十分という短い時間ならが一人の時間が出来るのはいい事だ。喜ばないでどうする」


そうこうしているうちに予鈴がなった。


「それじゃあ行ってくるね!寂しいとは思うけど我慢してね?」

「二度と来なくていいぞー」


十六夜達を見送り俺はいつもの椅子に座った。

一ヶ月前まではこの保健室は俺一人だったのに。一ヶ月のうちに色物の溜まり場となってしまった。


「スラムの掃き溜めだな」

「そのトップに座るわけですが言ってて悲しくなりません?」

「お前達は個性が強すぎるんだ。教室一度でも覗いてみろ。全員同じような顔して彫刻みたいだぞ」

「そこまで無個性ではないだろ」

「無個性だとも。スクールカーストという見えない格付けに怯え、波風立てない学校生活を送る」

「それで楽しいならいいんじゃないか」

「校則は平気で破るくせにスクールカーストだけは守る臆病者どもめ」


スクールカーストは仕方のないものだ。

逆らえば文字通り居場所なんてなくなる。いや、奪われるが正しいか。

奪われても学校に来れる奴は人の心を持っていないかメンタル超合金のどちらかだ。


「ま、お前みたいなヘタレには関係のない話だったな!ははは!」


これ俺はキレていいと思う。


「もしあの四人の中の誰かが攻撃された時には助けるんだぞー」

「なんで俺が」

「お前にしか出来ないからだ」


そんなことない。四人の内一人が攻撃されたら他の三人が助けるはずだ。

俺がいなくてもどうにかなるはずだ。


「馬鹿め。スクールカーストの上にいないのは間宮、お前一人だ。天月や加羅忍が声を大にして助けたとしても彼女達に居場所はない」

「それなら元々居場所がない俺が犠牲になれと」

「ああそういうことだ」


なんと非情な。

これが教師に言うことか。……もう教師ではないのかもしれない。


「その時までに俺の好感度が一定に達していたら動きますよ」

「面倒な男だ」

「ギャルゲーは基本こんなでしょ」


全てのルートクリアするのに選択肢毎にセーブして分岐点からやり直す。

それが現実で出来たのならどれだけの命が助けられるのだろうか。


「頑張れヒーロー。ヒロインを助けられるのはヒーローだけと相場は決まっている」

「イケメンスーパーマンが助ければいいんじゃないですかね。そのままバットエンドでも俺は一向に構わん」

「ま、それはヒロイン側次第だな。ほら来た」


え?

時計を見てもまだ授業が始まって二十分と経っていない。


「間宮!一緒に勉強しよー!」

「な?」

「な?じゃねぇ追い返せ。完全なるサボりだろ」

「十六夜。サボりはダメだぞ」

「サボりじゃないもーん。保健室で勉強します」

「ならヨシ!」

「怠惰の権化が」


十六夜は俺の隣へと椅子も持ってくるとスカートをヒラヒラとさせて座った。


「間宮はなにしてたの?」

「関係ないだろ」

「テスト範囲あるけど見る?」

「お前……」

「なにしてたの?」

「現文の三十二ページ」

「テスト範囲は二十から三十ページだって」


屈託ない笑顔でにへらと笑われたら追い返す気も失せる。

そもそもここの管理者がアレではおそらく無理だろう。


「一つだけ言う。静かにしろ。以上」

「なんで?イチャイチャするのがそんなに恥ずかしいのー。もー恥ずかしがり屋」


誰か。誰でもいい。この騒音兎を防音のケージの中に入れてくれ。

俺の鼓膜がないなる前に!

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