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第十九話 加羅忍家での女子恐怖症克服合宿(仮)

荷物を部屋に置き辺りを見渡した。

簡素なベットに机と椅子。

俺の部屋より少し寂しい部屋がしばらく俺の部屋となる場所だった。


「本当に客人用のお部屋ではなくて平気ですか?」

「あんな広い部屋、落ち着かない」

「広いと言っても私の部屋より狭いですよ?」

「知ってる」


今日から『加羅忍家での女子恐怖症克服合宿(仮)』が始まる。

期間は未定。メンバーは間宮、十六夜、天月、加羅忍、十塚の五名。

男一人でハーレムだろって?馬鹿言うな。まだオカマと一つ屋根の下の方がマシレベルだ。


「俺は基本部屋から出ない」

「構いませんよ?元々そう言う約束ですから。ですが夕飯などの時間は守ってくださいね?」

「はいはい」

「今十塚さんが作っていますので直ぐに下に降りてきてください」

「はいよ」


いくら女子が嫌いと言っても家主が決めたもとい全員で決めたルールには従う。

俺の意見ガン無視だから不服しかないが。


階段を降りるといい匂いが香ってきた。


「カレーか」

「おお。正解。人数いるし量作れた方がいいしカレーって結構いろんな料理に変身出来んだよ。あー例えばカレーうどんとか、グラタンとかな」

「夏鈴さんって料理出来るんですね。意外です」

「そういう学級委員長はどうなんだよ」

「私はお菓子作りなら」

「へー。似合うな」

「話題作りのために練習していたら作れるようになっただけです」

「わたしも料理出来るようになりたいなー」

「練習すれば直ぐだって」

「初心者にオススメな料理ってありますか?」

「うーん。野菜炒めとか肉じゃががやっぱりオススメだな。火力の加減とか調味料の量とか覚えるのに丁度いいんだよ」

「今度教えてよ」

「おう。いいぜ!」


俺が居なきゃ仲が云々言ってた割にはそこまでよそよそしくないじゃないか。

むしろ俺がいない方が百合百合しくていい。今ここで壁になれたらどれだけ最高か。


「間宮さっきいから黙ってるけどどうしたの?また怒ってる?」

「またってなんだ。別に怒ってない。会話に入る必要性を感じなかった」

「本音は?」

「私服が女子っぽくて焦ってる」


特別ふわふわな服装ではないものの制服とは違った一面が出ているため反応してしまう。

十六夜はゆったりTシャツに短パン。風呂上りに見たらパンツ履いてないようで虫唾が走る。

時雨は半袖半ズボンに長い外套のようなものを着ている。時雨の場合は見たことあるからそこまで反応しない。

加羅忍は襟などがしっかりついたパジャマ。完全なる部屋着。

夏鈴は相変わらずタンクトップに短パンより短いズボン。

全員が全員心臓に悪く近づかれるだけで鳥肌が立つ。


「ん?なになに?」

「お前わかってやってるだろ」

「わたしはただ疑問に思ってるだけ」

「なら近づくな」

「じゃあ逃げないでよ」


ゆったりとしたTシャツの裾がひらひらと暴れる。


「夏鈴!カレーまだか!」

「そんな急かすなって。もう直ぐだ」

「なら十六夜は座って待て」

「うん。間宮の隣座るから早く座って」

「俺の両隣は時雨と夏鈴で既に埋まってんだよ」

「私でいいんですか?」

「ああ、時雨の部屋着は見慣れたから大丈夫だ」

「じゃ、おれは?」

「女みゼロだから大丈夫だ」

「アハハ!こいつはひでぇ!ほら、出来たぞー!」


夏鈴がカレーの鍋を丸机に運んだ。

スパイスの匂いが鼻腔を突き抜け腹の虫が泣いた。

いつまでも机で鬼ごっこしていても仕方がない。せっかく夏鈴が作ってくれたんだから感謝して食べよう。

俺が椅子に座ると当然のごとく兎が隣に座ってきた。


「それでは皆さん。いただきます」

『いただきます』


白米を持った皿にカレーを入れたら魅惑の匂いとスパイスの辛味が一気に解き放たれる。

スプーンでよそって口に運べば匂いは確かな味へと変換され舌へとダイレクトにその味を伝える。

辛味もさることながら苦味というか鼻に残る匂いに少しだけ違和感はあるもののいつも食べるカレーより美味しく感じる。


「美味」

「おいしー」

「これいつも食べるカレーより本格的というか香ばしい感じがしますがなにか入れましたか?」

「ああ、隠し味にインスタントコーヒーをな少し入れた」


違和感の正体はこれか。

どうりで少し苦いと思った。


「また凄いものを入れましたね」

「丁度試してみたかったんだけどおれの家はチビ達いるから試せなくて」

「確かにこの辛さというか味は小さな子供には向かないよな」


颯太がいるから俺にも分かる。大抵甘口で作って大人は各々トッピングをしたり副菜として用意したりして甘さを誤魔化しているが。

ふと、目の前の加羅忍に目がいった。

いつものふわりとした笑い方ではなくなにか思い耽っているような笑い。


「どうした?甘口派だったか?」

「いえ、どの辛さでもいけますよ?」

「顔、変だぞ」

「女性に言う言葉ではないですね」

「俺に配慮を期待するな。んで、嫌なことがあるなら初日のうちに言っといた方がいいぞ。あとあと爆発するから」


慣れない集団生活。

しかも加羅忍は俺たちに無償で宿と食べ物を提供している。

親が大金持ちで家に一人と言っても許せないことの一つや二つあるはずだ。

そういうのを野放しにしておくと問題の引き金になる。それで関係が悪くなるなんて俺は望んじゃいない。


「不満などはありませんよ。ただ、楽しいのですよ」

「そうか。うるさくないか?」

「このうるささは人居てこそのものです。私にとっては新鮮です」

「ならもっと騒がなきゃ!」

「そこ使命感を感じなくていいぞ。もう十分うるさいから」

「そんなこと!ないし!間宮も!騒ご!」

「加羅忍。ガムテープか布をくれ。こいつの口を塞いでやる」

「そんなことして体弄る気でしょ!エッチ!」

「その言葉そっくりそのまま返す」


エッチなのはお前の頭だ馬鹿野郎。

そもそもそんな女子に触れられるんだったら保健室登校なんて青春を棄権しない。


「楽しいですね。大人数での食事というのは」

「まだまだ始まったばかりだぜ?せいぜい楽しめよ」

「お手伝いなら……しますから……」

「ありがとうございます」


そう。まだ『加羅忍家での女子恐怖症克服合宿(仮)』は始まったばかり。

地獄が……始まったばかり……。

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