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第十七話 お茶会劇物事件

トイレから戻り保健室のドアを開けると不思議といつもの薬品の臭いがしなかった。

その代わりにケーキの甘い匂いと紅茶の香ばしい匂いが保健室に充満していた。


「ここはいつからお茶会場になったんだ?」


目の前の机の上には一口サイズのカップケーキとティーポットと紅茶が入ったカップが置かれている。

机の上だけみればお茶会のような光景。


「いいではありませんか。勉学に糖分は会った方がいいんですよ?」

「教室でやればいいだろ。保健室でやるな」


気分が悪い生徒が来たらどうするつもりなんだ。

気分が悪いのに更に追い打ちをかけるド畜生。


「大丈夫です。紅茶の成分には不安を和らげる効果があるとかないとか」

「確証はないんだな」


ふふっとにこやかに笑っているがやっていることはド畜生。

加羅忍は中々にドSなのかもしれない。


「間宮も来なよ」

「そんな気分じゃない」

「どんな気分ですか?」

「静かに一人で飯を食いたい気分だ」

「却下だろんなもん」

「夏鈴、お前もそっち側か」

「だって教室にいたって居場所ないし。狼斗なら分かんだろ?」

「夏鈴と俺と加羅忍は兎も角として二人は作れるだろ」


十六夜と時雨は頑張れば作れるはずだ。


「無理。皆変な子って見てくるから嫌!」

「私も知らない人との接触は極力避けたいです」

「嫌とか避けたいとかいう理由で保健室に溜まるな。そこんとこどうなんですかね養護教諭」

「ケーキ食べられるし許す。聞け間宮。このケーキは都心に本店を構える超有名店のケーキだ。しかも一つが千円を優に超える。それが食べられるとしたらどうだ?」

「別に。甘い物は嫌いじゃないけど興味ないんで」


高価だろうと安価だろうとプロが作ったなら俺の舌には美味く感じる。

俗に言う貧乏舌だ。

質より量が食生活におけるモットーだ。


「間宮さんも一口どうぞ?」


加羅忍にケーキが刺さったフォークを差し出された。この場であーんをしろと言うのか。

冗談じゃない。それなら熱々の紅茶を一気飲みしろと言われた方がマシだ。


「自分で食えるからいいって」

「ダメです。吐き出してしまうかもしれないので」

「え、何食わせようとしてんの?」

「間宮さんのために用意した激辛激苦激すっぱ激甘ケーキです」

「捨てろ。今すぐだ」


今すぐ危険物として廃棄するべきだ。

作ってくれた人には申し訳ないが廃棄する他ない。

俺はギャンブラーでは無いのだから。


「お近づきの印です。食べてください」

「食べさたが最後、離れていく可能性を考えろ」

「間宮さんならきっと大丈夫かと」

「根拠は?ないだろ」

「一人ボッチの私に手を差し伸べてくれましたから」


目を細め本当に嬉しかったと目で告げる加羅忍。


「.....別にあれは」

「今でもとっても嬉しいですよ?私を加羅忍真尋として見てくれているんですから」

「そういう特別扱いとかよく分からないだけだ」


媚へつらえばいいのか、加羅忍家の者として持ち上げればいいのか俺には分からないし出来そうにない。相手が女子なら尚更に。


「実はこのケーキ、私が作ったんですよ?」

「普段から作ってんだろ。じゃなきゃ見た目をそのまま味だけ変えるなんて出来やしない」

「お菓子作りなら多少.....という感じですね」

「女子がお菓子作りをしたところで別に珍しくないし女子が作った物を俺が食べると思うか?」

「はい。間宮さんならきっと食べていただけると思いお作りしました」


そんな笑顔で言わないでください。

俺だって人間で一生懸命作ったケーキを捨てろというのは心苦しい。

だがその心苦しさを超越するほどの大ハズレケーキなため心が変わらない。


「俺は普通のケーキなら食べた」

「ならこちらを。こちらは普通のケーキです」

「そのギャンブルケーキはどうするつもりだ?」

「使用人にでも食べさせます」


可哀そうな使用人。

お嬢様に振り回され味覚破壊ケーキを食べさせられる。さすがに女であっても同情する。


「紅茶もどうぞ」

「ありがとう」


俺はカップケーキのビニールを取り口に放り込んだ。


「ぐふ......」

「どうしましたか?間宮さん」

「図ったな......」

「なんのことでしょう」


襲われたのは痛みと苦みと酸味と甘み。

特に強いのは痛み。

俺が食べたのは使用人に食べさせると言っていた劇物ケーキだった。


「ゴホッ!げほっ!舌が喉が口の中が......」

「紅茶をお飲みください」


俺はすぐには口に付けづしばらく匂いを嗅いだ。

カップケーキは中が劇物であり外から匂いを嗅ぐことは不可能だし加羅忍にも失礼に当たると思いやらなかった。

だが前科がたった今できたのなら話は別だ。しっかりと確認させてもらう。


「大丈夫ですよ。それは私達も飲んでいるものですし怪しいものは入ってません」

「その紅茶めっちゃ美味いぜ!」

「これまた高級な茶葉を......」

「本当にらいろぶなんだろうな」

「ベロが回っていませんよ?」

「誰のせいだと思ってるボケが」


俺は悪態をつきながら紅茶を一口。

柔らかな甘さとすっと鼻に抜ける香りが苦みや酸味を洗い流してくれる。

美味しい。


「どうやってすり替えた」

「すり替えてなどいませんよ?私は最初っから普通のケーキを差し出していたんです。間宮さんが勝手に勘違いしただけですよ」

「同じようなカップケーキならんで差し出した直後にいったらそうなるだろうが。口に入れてからにしろ」

「それでは面白くないじゃないですか。学校生活が楽しくなるようにエンタメ性を求めてみました」

「楽しいのはお前らだけで俺は殺意しかわかなかったがな!」


時雨並みの常識人だと思ったのに、変人だったとは。

兎で手一杯なのに狐までいるとは.......ここは保健室ではなく動物園だったのか。

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