第十六話 突発イベント!防衛戦!
「あ、パパ。ママも」
「どうも。娘がお世話になっています」
「え、あ、ああ。こちらこそ」
急展開すぎてこの先の展開がまったく予想出来ない。
「でもしっかりしてそうな生徒さんでよかったー多摩川高校って昔は不良の溜まり場みたいなところだったから心配だったの」
「本気なのかね。美咲のことは」
「なんの話ですか?」
「彼氏なのだろう?美咲の」
「は?」
思わず素で返答してしまった。
彼氏?誰が?俺が?誰の?十六夜の?
この前出会ったばかりなのに?出会って一ヶ月くらいしか経ってないのに展開早すぎやしませんかね。
打ち切り漫画も真っ青の展開の早さ。
「いや俺は……」
「今は合わせて!お願い!」
「嘘なんてつくからだろ。俺はお前の彼氏とかごめんだぞ」
「そうかもしんないけど!お願い!一生のお願い!」
一生のお願いか……最初に聞くのは颯太だと思っていたがまさか同級生の女子から聞くとは。
「断る。俺にも火の粉飛んでくるだろ」
「違くて!パパとママ、明日から二人とも出張で誰か守る人がいないと心配だからって私もついて行くことになりそうだったからしかなく嘘を……私一人で留守番出来るんだったら嘘なんてつかなかったの!」
「ついていけばいいだろ」
「二ヶ月も学校来れないのは嫌だよ。せっかく友達出来たんだもん」
俺としてはいなくなってくれた方がありがったかったりするが……時雨からなに言われるか分からないしなにより怖いのが加羅忍だ。
怒った姿は想像出来ないし普通に連れ戻せとか無茶振りしてきそうだしな。
俺は頭の中でどっちが労力を使うか考えた。
嘘の彼氏としてこの場を乗り切るか加羅忍に脅されて遠い地へと迎えに行くか。
天秤にかける間も無く勝敗が決した。
「なにかあったのかね」
「いえいえ、こんな可愛らしい子と付き合えてほんと受験勉強頑張ったかいありました」
営業スマイルはカフェで学んだ。
それ以外にも大人への対応の仕方や相手がなにを求めているかの探り方も知っている。
大丈夫。貫き通せる。
「明日からわたしたち出張なの。少なくとも二ヶ月は戻って来れなくて美咲も一緒にて言ったら「守ってくれる人がいるから一人でも平気」なんて言うもんですから」
「一度この目で確かめて置きたかったんだ」
「いえいえ、自分も一度ご挨拶に行かなければと思っていた所です。紹介が遅れました。間宮狼斗です。美咲さんと同じ二年生です」
第一に敬語は忘れない。
第二に来るであろう質問の目星をつけておく。
第三に仲良し……アピー……ル。
「美咲と付き合っているとのことだがどこに好きと感じたのだね」
「明るさ……ですかね。彼女と一緒にいるとどんなに嫌なことがあってもそれが小さなことに思えてくるんです。勉強や作業で煮詰まった時、彼女の顔や声を見聞きするだけで頭がリセットされます。彼女は僕にとっての太陽的な存在なんですよ」
少し照れるように視線を一点に固定せずにたどたどしく言葉を紡ぐ。
それだけで照れる仕草は完璧。相手が女優や俳優などの演技を知っている人でなければ欺ける。
「付き合っているというこは美咲の癖についても知っているね」
「勿論です」
なによりその癖があるからクラスで孤立し俺のいる保健室に来るようになったんだ。
元はと言えばそれが全ての元凶な気がする。
もし十六夜がいなければ俺は誰のことも知らずにその場限りの会話になっていたはずだ。
女子の中でも面倒な奴と出会ってしまったものだ。
「最初は驚きましたけど誰にでも好奇心はありますから」
「緊張しているのかね」
「それはしてますよ。いきなり彼女のご両親にお会いして……」
「嘘はいい」
「え」
急に突き放されまたもや素が出てしまった。
「君の言葉は薄っぺらい。まるで壮大なハリボテを見せられているようだ」
「嘘じゃなく貴方の本心を聞かせて欲しいわ」
「……なら最初からそう言って欲しかったです。彼女とは今協力関係にあります。女子恐怖症というものを治すために」
「では付き合っているというのは」
俺は一回深呼吸をした。
加羅忍に怒られてもいい。連れ戻す事になってもいい。だいぶ面倒だが。
あの女子達の対処をするなら情報源は必要だ。
「嘘です。彼女とは付き合っていません。なんなら出会いも一ヶ月ほど前です」
悪かったとは思っている。だから脇腹をつねらないで。痛いから。
「話は終わりにしよう。美咲は帰ったら荷物をまとめて置きなさい。明日、先生に事情を説明して明日の昼までに出発だ」
「そんな……」
横の十六夜は今にも泣きそうな顔をして俺のブレザーの裾を握りしめた。
嫌だ。一人は嫌だ。皆といたい。楽しく学校生活がしたい。助けて。そんなことは顔と小さな握り拳から伝わってくる。
「まだ話は終わっちゃいない」
「部外者の君には関係が」
「丁度明日から友人の家に泊まることになっているんですよ」
「そんな話は聞いて」
「年頃の子供がなんでもかんでも親を通すと思うな。メンバーは俺と美咲を含めた五人。俺以外は全員女。俺が過ちを犯さないように一人武術なりを習ってる奴が女子にいる」
「高校生だろう。警察でもあるまいし。ダメだ」
流石にここまで気付かないなんて笑いが止まらなくなる。
「子供が心配なら分かるよな。こいつの教室での状況」
「最近は友達も多く楽しいと言っている」
「最近ね……クラスで一人ボッチの子供がそんなに見たいか。今こいつには俺達しかいないんだよ!」
なんで分からない。なんで自分の想定の範囲内で収めようとする。
大人になったら高校生の実情なんて教師にでもならない限り分からない。
それなのに……知った口でゴチャゴチャ言いやがって……。
「いくらでさえ居場所がないのに更に居場所を奪うのか」
「美咲ならすぐに……」
「居場所を作ろうと奮闘すればするほど居場所を失うのは親であるあんたらの方が分かってるはずだ」
十六夜の癖というのはそういうものだ。
自ら足場を削って相手の足場に飛び移る。相手から突き飛ばされたら居場所がなくなる。
「一人が心配ならうってつけの預け場所がある。使用人がいて危険な道中は車移動。それで誘拐されるなら最初から諦めた方がいい」
「そんなのお嬢様でもないかぎり不可能だ」
「だから!いるって言ってんだよ。加羅忍真尋っていう名家のお嬢様が」
名家を守る家に行けば少なくとも身の安全は保証される。
しかも幸運なことに十六夜と加羅忍は友達同士。相当都合が悪くなければ断られることはない。
「パパ。ママ。嘘ついてたのはごめんなさい。でも今は学校が楽しいの。間宮もなんだかんだ言いながら相手してくれるし勉強だって教えてくれる人はいるし私の性格を知っても接してくれる人がいるの。だからお願い」
それが言えるなら最初から言えばいいだろうに。
「……いいでしょう」
なんとGOサインを出したのは母親の方だった。
「ただし問題を起こしたらすぐにこっちに来なさい」
「うん。分かった」
「間宮さん。娘をこっちに残すからにはそれなりの働きはして貰います。女子恐怖症だろうと関係ありません」
「……善処する」
父親と母親が帰り俺は疲れで机に突っ伏した。
「お前……二度とやるな。十六夜に嘘は無理だ」
「うん……ありがとう」
「別に。労力を天秤にかけた結果の行動だ。ただ感謝はしろ」
「ありがとう」
俺が女子のために動いたのは小学校以来か。
木に引っかかった帽子を取るために木登りしてそのまま落ちたっけなー。恥ずかしい思い出。
「帰るぞ。もう遅い」
時刻は夜の七時を回っていた。




