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第十五話 これが今の距離

放課後、十六夜の指定通り俺は保健室で待っていた。

時雨や加羅忍は既に帰ってしまい話し相手もいなかった。

ま、女子がいないとやっぱり気楽でいい。

度々動向に怯える必要がないのだから。


「お待たせ〜!」

「遅い。なにしてやがった」

「ごめんごめん。ちょっと用意を」

「お前……水かけんぞ」

「なんで!?化粧しただけじゃん!しかもナチュラル!」

「俺の前で女を出すな。一緒に歩けなくなる」

「くっついたら?」

「眼球抉りとる」

「うわグロ!」


そんな彼氏マウントをとりたいのか。

女子というのは恐ろしい。


「それじゃあ!出発!」


俺の手首を掴んだかと思うと大股で俺を引っ張るように保健室から出て行った。

そしてやってきた歓楽街。

五月のこの時期は学校生活に慣れてきた一年生の夜遊びが増える季節故にいつもよりスーツ姿の大人が多い印象。


「なんの映画いるんだよ」

「うーん。ラブコメ?ラブストーリー?」

「恋愛路線は変わらないんだな」

「そりゃ私がずっと見たかったやつだもん。でも映画を一人で行く勇気はなかったから丁度よかったよー。間宮は最後に見た映画ってなに?」

「アンパンマン」

「あ、颯太君?」

「ああ。母親達が仕事で一緒に行けないからって俺が一緒にな」

「ふーん。ちゃんとお兄ちゃんしてんじゃん」

「実際兄だからな」


俺意外に誰が務まるというのか。

まあ、颯太は静かな方だから面倒は誰でも見れると思うが。


映画館の前にはデカデカと広告ポスターが載っていた。

テレビでよく見るイケメン俳優に美人女優というよく見る組み合わせなのはいいとして、問題はその関係。

イケメン俳優はなぜか犬ようの首輪をつけられそれに繋がるリードは女優の手にある。


「これ内容どんなのだ」

「ヤンキーで言うこと聞かない男が最終的にヒロインだけには忠実な犬になること」

「帰る」

「なんで!付き合ってくれるって言ったじゃん!今更嘘つくの!?」

「往来でなに言ってんだ。俺はただこの映画の内容が気に食わないから見たくないって言った。そもそもラブコメでもラブストーリーでもないだろ」

「じゃあなに?」

「性癖暴露映画」


別にそれが悪というつもりは毛頭ないが、人を選ぶのは確か。

そして俺は選ばれなかった側の人間だ。


「大丈夫!原作読んでるけどめっちゃ面白かったから!」

「なら外で待ってるから見てこい!」

「絶対嘘じゃん!帰るじゃん!」

「なんで分かった」

「むー!ほーらー!」


この場で説得出来ないか考えたが無理のようだ。

外での喧嘩はイチャイチャカップルより目を引くようで笑いを堪えた表情の野次馬が数人いる。


「……今日は大人しく見る。だが感想は求めるな。寝る自身しかない」

「それでヨシ!さあ!行こう!」

「ああ、それと」

「ん?」

「次から絶対に行かないからな」


十六夜はにぱっと歯を見せて笑うとなにも言わずに俺の肘辺りを引っ張った。


「これが今の距離」

「は?」


意味不明なことを言われ首を傾げるが十六夜から返答が来ることはなかった。

映画を見た率直な感想を言うと、大変面白かった。

前おきや前提をすっ飛ばした『今日から私の犬になってください』というパワーワードと共に首輪を渡す眼鏡地味系ヒロインに対し主人公は眉を寄せた後に無言でつけるという突っ込みどころ満載の出だしに加え自発性のない主人公を動かすための事件や理由も違和感なく作られていた。

たしかに最終的に主人公はヒロインの犬と化したわけだが完全なる主従ではなく、主人公ヒロイン共に甘える相手が出来たということだった。


中々にライトな内容で原作を読んでいない俺でも楽しかった。


「どうだった?面白かったでしょ」

「まあ、思ったよりは」

「素直じゃないなー。途中笑ってたじゃん」

「スクリーン見とけよ」

「ちゃんと見てたよ。でもチラッと顔が気になって見た」

「そうかい」

「可愛い笑い顔だったよ」

「だろう?お前よかよっぽど可愛い自信はある」

「うわ、自意識過剰」

「情報吸い付くそうとする奴よかマシだろ」

「好奇心故に止められないのです」


およよと胸に手を当て顔を伏せるがまったく可愛くない。

むしろ憎たらしい。


「たしかに今迄は人のことが知りたくて知りたくて仕方なかった。だから無理やりでも聞いちゃったんだよね。でも今はその必要はないんだ」

「どうだか」

「間宮からはまだまだ情報が取れそうだからさ。他の人から取る必要が今なくなってるんだ」

「需要が満たされてるなら結構」

「間宮って存在がほら、情報の塊みたいなところあるじゃん?」

「は?意味が分からん」

「女子恐怖症で女子に対してだけ口が悪くなって弟思いのお兄ちゃん……ね?」


「ね?」と言われても俺自身のことだからあまり情報が多いとは思えない。


「そもそも女性恐怖症って時点で情報量多いのに!さらに保健室登校に加えてその保健室を自分のハーレムにするなんてね!」

「やめろ寒気がする」


なぜ恐怖の対象である女子の中に入らないといけないのか理解に苦しむ。


「世の男子から見たら嬉しいと思うよ?同級生の女子が自分のところに集まってくるんだから」

「皮肉がききすぎてる。俺は望んじゃないぞ」


恋人が欲しい世の男子生徒の元には集まらず女子と関わりたくないという男の元には集まってくる。

世の中世知辛すぎる。もっと個々の人間を見て欲しいものだ。

全ての男子が女子とイチャコラしたいと思っているわけではないということを知って欲しい。


「でもさ、今こうやって二人でカフェに来てるわけだけどさ」


映画終わりに下のカフェに行くと好きな飲み物がもらえるサービスがある。

余韻を楽しむための空間だそうだ。


「おん」

「多分私達カップルに見えるんだろうね」

「……」

「うわ、嫌そうな顔。カップルだよ?リア充だよ?もっと喜ぼうよ」

「相手がお前じゃなかったら多少なりとも喜んだかもしれない」

「どういう意味!?」

「そのまま受け取ってもらって大丈夫だ」

「嫌だよ。返す」

「残念だな。遠回しじゃ伝わりづらいと思って直球ストレートを投げたつもりだったが」

「諸デッドボールだったが!?ねぇ!?」

「今度はちゃんと頭に当てられるように気をつける」

「そこじゃないじゃん!ちゃんと会話のキャチボールして!」

「いつかな」


やらない奴の常套句。「いつかな」


「そろそろ出るぞ」

「ちょっと待って。もうすぐで来るから」

「誰が?」

「パパとママ」

「なぜ?」

「本当の相談はここからだから」


「美咲」


マスターと同じくらいの年齢の声。

振り返るとスーツ姿の男性と女性が立っていた。

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