第十四話 くじけぬこころ!
いつもの保健室。
薬品の匂いは既に慣れて不快には感じなくなった。
不快に感じるとすれば保健室に響くキンキン声。
「間宮!」
「なんだようるせぇな」
「話聞かないからでしょ!」
「ノート写してからにしろ。そしたら聞いてやる」
「本当?」
「嘘」
「だー!もーう!」
本気でうるさい。
なぜ毎度毎度うるさいのか。
「小さな声で話すなら聞く」
「あのさ。明日の放課後付き合って欲しいんだけど」
「断る」
「早いってば!まだ全部話きれてない!」
「聞くまでもない。俺が女子とどこかに出掛けるとでも思ってんのか?」
「思ってないけど〜。でも〜ううー!」
「話だけでも聞いてあげてはいかがですか?」
「どうせろくな話じゃない」
「もしかしたら利益になるかもしれませんよ?」
利益?十六夜が俺に利益をもたらした事が今まであったか?
……夏鈴の時にあったな。
「話だけでも聞くきになりましたか?」
「聞くだけ聞く」
「なんか偉そうー」
「不満があるなら一も聞かないが」
「嘘嘘。で、話っていうのは映画に行きたいんだ」
「行ってこいよ」
まさか恋愛でカップルじゃないと恥ずかしいとかいう理由か。
「恋愛映画を一人で見に行くって結構恥ずかしいんだよ!」
「知ったことか。加羅忍でも夏鈴でも時雨でも誘えばいいだろ」
「それでもいいんだけど……やっぱりドヤりたいじゃん?」
「十六夜のドヤ顔より泣く顔が見たいから一人で行け」
「鬼!外道!最低!」
「十六夜さん。頼む時のコツというものがありますよ」
「教えて!これで間宮悩殺するから」
え、なんで俺悩殺されんの?
大きい意味では大いに悩むって意味だから合ってるかもだけどさ。
「人に物を頼む時は自分の武器をフルに使います。出し惜しみはしません。十六夜さんなら胸を使うと成功率が上がるかもしれません」
「分かった!」
十六夜は勢いよく俺の前に滑り込むとわざと胸を強調するポーズをとった。
だが先日横乳ほぼ見えのタンクトップ姿を見た俺には刺激が弱すぎる。
「邪魔。気が散る」
俺の言葉を聞いて口をキュッと結ぶと拳を握りしめて加羅忍のもとへと帰っていった。
「武器が通じなかった〜!」
「武器が通じない相手にはこちらも妥協するしかありません。相手に利益があることをアピールするのです」
「分かった!」
あれ?もしかしてタイムリープした?
光景がさっきと全く一緒なんだが。
「私と映画に行けば!映画が見られる!」
「トンチかなにかか?そりゃ行けば見られるだろ。行って見られないなら俺は絶対に行かないし」
「そうじゃなくて……!そうだ!女子恐怖症の解決になる!どう!」
自身満々にドヤ顔をかます十六夜だが一番気にする箇所を気にしていない。
「俺は確かに女子が嫌いだ。なんなら今の昼休みも一人で過ごしたい程度には」
「それは知ってる」
「そこで十六夜。なぜ俺が映画に行きたくないか知ってるか?」
「え、だから女子が嫌いだからでしょ?」
「確かにそれもある。だがそれだけじゃない」
「ん?んー?なんだろう……さっぱり分からない」
俺はノートにシャーペンを置くと十六夜に向かって言った。
「十六夜が問題起こしそうでシワ寄せが俺の方に来そうだから嫌だ」
俺が一番にしている所だ。
女子克服のためには確かにデート紛いのことはいつか必要だろうし知らない女子とやるよりは断然いいはずだ。
だが十六夜美咲という人物には悪癖がある。
「なんで問題起こす前提なの!?分かんないじゃん!」
「そこはないって言っとけばいいのに。勿体無い」
「あくまで可能性の話をしてるだけだ。証拠もなけえればそうなった経験もない」
「だったら!」
「問題を起こさないって誓えるか?」
「誓える!」
「勢いだけじゃなかろうな」
「誓う!誓う誓う誓う!」
「分かったから連呼するな」
嘘さが増してくる。
「じゃあ放課後保健室で待ってて!」
五時間目開始のチャイムと共に十六夜は勢いよく保健室を飛び出して行った。
「お前がデートねー。大丈夫なのか?」
「デートじゃないから平気だ。ただ映画に行ったら十六夜がいたってことに自分の中で決めればいい」
「古典的な自己暗示だな」
「こうでもしないと怖くて隣も歩けない」
「なさけねー。ビビりながら歩く彼氏とか腹パンもんだぜ」
「その彼氏に弱点があってその弱点が原因だったらどうするつもりだ」
「付き合う前だったら寄り添うし付き合った後だったら関係を考え直す。十六夜はあんなだけど悪意はないだろ?」
「まあ、単純な好奇心だな」
「だったら快く付き合ってやればいいだろ」
「絶対映画の内容覚えられねぇ」
「それでもいい。一緒にいることが目的なら寝てもいいんだ」
「……それもそうか。そう考えると少し気が楽になってきたな」
「あの猪的な好奇心が十六夜の持ち味だから否定したら可哀想だぜ」
「夏鈴に正論を言われるとは」
「結構早かったろ!」
確かに。個性を否定するのはよくないのはよく分かる。
だが頭では理解出来ても体がついていかないパターンだ。
そんなに難しいことじゃないんだけどな。




