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第百十一話 人の喜ばせ方

不揃いで不格好なハンバーグが焼き上がり、机に運ぶと同時に颯太たちにおもちゃを片付けるように言った。


「ほら、食べるぞ」

「あい!」


俺たち二人が加わっただけのはずなのにかなり狭く感じる。

それほど机が小さいのだ。そのため自然と俺と夏鈴との距離は近くなる。


「それじゃあ。いただきます」


弟たちは小さな手で握りしめたフォークをハンバーグに突き刺すと自分の取り皿へと持っていく。

食べきる大きさで作ってはいるが、それでも二個は食べられないだろうという大きさだ。


「あんまり急ぐなよ。よく噛んで食べるんだ」

『はーい』

「おら、お前も食べるんだよ」

「食ってるだろ」

「足りねー」


そういって夏鈴は俺の皿にハンバーグを追加した。


「肉少ないんだからもっと付けろ」

「そうでもないだろ。確かに去年よか痩せたがな」

「ほらみろ」

「痩せたのはどっかの誰かさん方が俺を外に連れまわし動かしたからだ。去年と同じ生活を続けてたら順調に肉はついただろうよ」

「なら動いた分以上の量を食えばいいんだよ」

「俺はフードファイターじゃねぇ」


毎食、腹八分目にしているとは言え人の家で満腹になるわけにはいかない。

帰るのが辛くなるし颯太もいるからな。


「そういう夏鈴は結構食べるな」

「なんだよ。小食な女が好みか?」

「別に。おいしそうに食べてればどちらでも」


食べるように強要したり、抑えるように強要したりはしない。

更に言えば、体型なんてどうでもいい。痩せていようが太っていようが本人がそれでいいなら他が口出しすることじゃない。


「ふーん」

「なんだよ」

「巨乳派か。貧乳派か」

「別にどちらでも」

「静かな方とうるさい方」

「どちらでも」


これ回答を全部どちらでもにしたら強いのでは。


「おれか美咲か」

「ノーコメント」


そうでもなかった。

質問の意図は分からないが脳死で答えてはいけないことはハッキリと分かった。ここ数ヶ月で『美咲』という名前の恐怖するようになった。


「なんだよつまんねー。男ならスパッと決めちゃえよ」

「まずなにをと聞きたいし仮に夏鈴か十六夜のどちらが好き?という問いなら答えられるわけないだろ。答えられるならこんなサドンデスにはならないだろ」

「優柔不断だな。......逃げるならおれを選べよ」

「は?」


なにを言ってるのか。逃げなんて夏鈴が一番嫌う手段のはずなのに。


「ああ。正直気に食わない。けど、あん中で勝つ道があるとしたら......狼斗の逃げ道になるしかないって思ってる」


夏鈴の顔は一切変わらないが声だけは悲しみの真ん中にいた。


「負けるって思ってのか」

「家事とか勉強なら負けるつもりはない。けど、可愛い服とか持ってないし男が堕ちるような仕草も知らない。今は家事面で勝ってるって思ってるけどもしあの三人に家事を覚えられたらおれは無力だ。ただのヤンキーになりさがる」


夏鈴の声は今にも泣き出しそうだった。

不安だったんだろう。猛烈アタック兎に一年前から一緒の時雨。あの手この手で自分にスポットライトを当てる加羅忍。しかし夏鈴はこれといってアタックはしてこなかった。

ただ俺に気を使っていると思っていたがそうではないらしい。


あれは、夏鈴の自信のなさから来るもののようだ。


「逃げ道ねー。俺はそれでもいいが。扱いは酷いぞ」

「一緒に居てさえくれればおれはいい」

「随分と要求が少ないな。十六夜も夏鈴を見習ってほしい」

「高望みはしない。それか段階を踏む」

「どんな?」

「一緒にいて狼斗が心開いてくれたらその先も......」


悲しみは抑え込めるのに喜びは抑え込めないのか、顔が赤い。

俺の名前を出して顔を赤くしないで欲しい。こっちまで恥ずかしくなる。


「ならこうしよう。今まで我儘を言わなかった分のなんていうか......不足分とでも言おう」

「なんだよ」


加羅忍とした賭け。加羅忍としたのなら地頭じゃ負けない夏鈴とするのも悪くない。

なにより面白そうだ。


「夏鈴が今回の学年末で一位を取ったら今後俺は夏鈴の意見に反対しないと誓おう。ただ常識の範囲内でな」

「それ、前にもやったろ」

「前のは『一回』今回のは『永久』だ。意味は分かるな?」

「じ、じゃあ。おれが「付き合え」って言ったらどうすんだよ」

「反対しない。晴れて恋人同士だ」


今までほぼ無表情だった夏鈴の顔に笑顔が見えてきた。


「ほ、本当だな!あとで嘘とか言ったらぶん殴るからな」

「言わない。これは公平な賭けだ」

「公平ってならお前はどうすんだよ」

「俺は、来年一年間弁当を作って貰おうか」

「そんなんでいいのか?正直ついでになるぞ」

「それでいい。上手い昼があるなら多少は学校に行く気になる」


少なくとも、今日も一日疲れるのかと起きるたびに絶望せずに済む。


「よっしゃ!今回のテスト、絶対に負けないからな」


喜んでもらえたなら結構。

それにしても身についたな......人の喜ばせ方。

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