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第百九話 絶対に負けられない戦い

十六夜と時雨が帰ってすぐ、スマホが着信を告げた。

通知名は『諸悪の根源』。明るい音楽のはずなのに死神の足音に聞こえるのはなぜだろう。

スマホを持つ手が震え、全身が出るなと告げている。


グズグズしているうちに電話は自動で切れた。

ほんの数ミリ申し訳ないと思いつつ安堵が九割九分九厘を占めた。


ベットへと寝っ転がるのと同時にスマホが喋った。


「なぜ無視するんです?傍にいますよね?起きてますよね?今加羅忍真尋の声が聞こえて困惑してますよね」

「なにこれ。キショ」

「キショとはひどいですね。疑うならスマホカバーを開いてみればいいのではないですか?」


藪の中の蛇を確認するように俺は恐る恐るスマホのカバーを開いた。

するとどうだろう。加羅忍が笑顔で手を振っていた。


「なぜ閉じるんです?なにか危ないものでも映っていましたか?私は普通に服を着ているので素肌はおろか下着も見えてないはずなんですけどね」

「呪いの顔が映ってた」

「今から乗り込みますね」

「悪かった。ちゃんと話すからこれ以上体力を削るな」

「十六夜さんと天月さんの相手ご苦労様です」

「知ってんのか」

「はい。先ほど二人が出てきたと報告がありました」


特に機密情報らしい情報も持ってない普通の男子高校生の自宅を見張るように言われるなんて使用人たちは思ってみなかっただろうに。

どこにいるのか分からないけどご苦労様です。俺は今日も元気に体力を削っています。


「んで、加羅忍の要件はなんだ。勉強ならもうしないぞ」

「そうですね。少なくとも三時間はやってましたね。途中二人が暴走しなければ四時間程になっていたと。私の要件は簡単です。一週間後の学年末。私は本気を出します」

「どうぞご自由に」


テストで本気を出すなんて良い子すぎる。

これで普段の行いが良かったら文句なしの清純派お嬢様だったのに。勿体ないことに、既に前科があるため、清純派の皮を被った顔面ぶん殴りたい系お嬢様にしか進化が不可となってしまったのだ。


「本当にいいんですか?」

「いいとも。テストを頑張るなんて学生の鑑じゃないか」

「違います。私がもし一番になったら両親に本気で連絡してもらいます。あの後、また連絡が行くかもしれないと言ってあるので」

「なんでそれで毎回許可するんだろうな。お前の父親は」

「父は後継者が出来ればそれでいいみたいなので。間宮さんでも葉山さんでもどちらでもいいんです」


なら御曹司の方がちゃんと勉強して経営も出来て現在社長の自分と対等に酒を飲めるようになるんじゃないか。俺は少なくとも会社を運営できるようになるまでに数十年かかるぞ。それでも上手くいけばの話だ。


「もしどちらでもいいとお父様が仰るなら私はこの一年一緒に居て楽しかった間宮さんにします」

「御曹司と一年一緒にいたら案外楽しいかもしれないぞ。価値観も違わないだろうし少し束縛する癖はあるだろうが俺より安全な未来は約束するだろうよ」


安定を求めるなら迷う必要なんてないほどだ。むしろ俺の方を選ぶ利点というのは全くない。


「それじゃ面白くないじゃないですか~」



加羅忍は心底楽しそうに言った。

大博打という意味合いでは俺を選ぶ可能性というのは爆上がりする。それと同時に共倒れという即死マスが急増するが。


「その面白さ求めるな。間宮狼斗という一人の男の人生がかかってんだ。博打なら他でやれ」

「だから共倒れしませんかという誘いです」

「断る」

「断れるのは私が他三人に負けた時、または間宮さんに負けた時です。間宮さんが私より合計点数が高かった場合、なんでも命じてください」

「ほう、大きく出たな。俺がお前の処女をむごったらしく散らすかもしれないぞ?それよか反抗する意思を奪ったうえで身柄を売るかもしれないぞ」


加羅忍を屈服させることなんて出来そうにないが。


「間宮さんの人生をくださいとこちらはお願いしているので構いません。処女だろうと内蔵だろうとお好きに。ただし負ける気も手を緩める気もありません。今日そちらの勉強会に参加しなかった及び手を出せなかったのはそのためです」

「そうかい。真面目なことで」


お互いに対等なものを賭けた。

俺は人生を。加羅忍は自身の価値全てを。

一見俺の方が重いように見えるが。『加羅忍』という名前だけで莫大な利益を生む。俺の人生を賭けても手に入らないようなものが目の前にあるんだ。当然取りに行く。例え手に入ったとしてもどうしようって感じだけども。


「そうだ。確認しときたいことがあるんだ」

「なんですか?」

「加羅忍は俺のどこに惹かれて好きなんて言えたんだ」

「自身で聞いて恥ずかしくないですか?」

「正直勢いで聞いてる」


加羅忍はため息をついた後にゆっくりと答えた。


「面白いからですよ」

「どこが。普通の男子高校生だぞ」

「トラウマを持ちながら克服のために顔を引きつらせながら私と接した時。そして慣れて様々な顔を見せるようになりましたね。それだけで面白く次はどんな顔が出てくるのかと気になったんです」

「そうかよ。加羅忍から見て俺は手品師だと」


表情がコロコロ変わるのは十六夜の影響というのと加羅忍達女子たちが騒ぎ立てるから呆れているだけなんだが。


「ま。聞きたいことは聞けた」

「お互いに大事なモノを守るために」


ただの学年末試験が決戦の場へと変わった瞬間だな。

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