第百七話 伝え方は人それぞれ
完全に時雨に上を取られ、身動きできなくなってしまった。
なんでこうも俺の周りの女子達は相手の行動を封じるのが上手いんだろうか。物理的にも精神的にも。
「時雨がどう思ってるか知らないが、時雨は結構控えめだぞ。だからこそ安心出来る」
「え?これでも結構押せ押せの姿勢だったんですよ?」
「だろうな。だからなにも言わなかった」
時雨にしては頑張った方だと思うがな。
「考えてもみろ。時雨はベタベタくっつかないだろ。十六夜に限って言えば俺といる時は基本密着しようとしてくるし、夏鈴も加羅忍も結構くっつきたがりだ。時雨の存在はとてもありがた......時雨苦しい」
時雨は時雨の腕は俺の首に巻き付き放そうとしない。
動く腕で剥がそうとすればするほど腕の力が強くなり俺の首が絞まっていく。
首が絞まるほどに時雨との密着度は上がっていく。
「私だって動ける時は動きます」
「それはただ動いてるんじゃなくて暴走の域だろ。逃げたりしないからこの腕を放して俺の上からどいてくれ」
「嫌。喋れてるからそれです」
「苦しいことに変わりはないんだよ」
俺がそういうと時雨の腕が少しだけ緩んだ。今なら引き剥がせそうだが失敗したら最後、永遠に巻き付いたままだろう。数分か永遠かの二択だったら折角だから数分を選ぶぜ!
「勉強しに来たんじゃないのか」
「今は休憩中なので」
「この状態じゃ俺が休まらないんだけど」
「大丈夫です」
なにが大丈夫なのかちゃんと説明していただきたい。
「私が休まるので」
「違うそうじゃない。乗ってていいから首を放してくれ」
「少しだけですよ」
自分の呼吸路を確保するのになぜ制限をかけられなきゃいけないのか。少しだけってどういう意味だよ。
ただ神は俺を見捨ててはいなかった。
俺の首に巻き付く時に当然時雨は少し動いた。時雨のお尻は俺の腰より少し下にある。
これなら起き上がれる。
「重い」
「そんなに体重増えてないです。体重管理はしっかりしてるので」
「そうかい」
起き上がったはいいが......近いな。
膝を立てて起き上がれば時雨の居場所は丁度腰辺りになる。
俺達二人の距離は超絶至近距離を誇っていた。
「やっぱ降りろ」
「な、なんでですか?」
「この近さでなにも思わないのか」
「思わないわけないじゃないですか」
視線を逸らしても時雨が恥ずかしがっているのが分かる。
熱気が籠った息遣いや若干震える体でハッキリと。
「今、もの凄くドキドキしてます」
「そういうの言わなくていいから」
「伝わって欲しいんです。どれだけ私が狼斗さんの事好きか」
「嫌でも伝わってくるから」
「でも深さは多分私が一番浅いです」
そうか?俺的には全員一緒だと思うが。ただ伝え方がそれぞれ違うだけのこと。
十六夜は密着で、夏鈴は献身で、加羅忍は悪戯で伝えているだけの話。
時雨は......なんだろう。
時雨から好きと言われてから半年が過ぎたが未だに時雨の伝え方が言葉に出来ない。
と言っても伝わっていないわけじゃない。
ちゃんと伝わっていると思う。流石に全部とはいかないが。
「そんなことないって。ちゃんと伝わってる。伝わってるから鳥肌が立つ」
男で鳥肌が立たないように、女子と見れなければ鳥肌は立たない。
時雨と触れて鳥肌が立つのは時雨を女子として見ているから。もっと言えば恋愛出来る証拠でもある。
トラウマがなければ俺はきっと四人の誰かの告白に答えていただろう。絶対に。
「大丈夫だ」
俺は拒絶する身体を抑えつけ時雨の頭を撫でた。
声で出せない分、態度で示そうと思ったから。でもそれは一番の悪手だったようだ。
「間宮!勉強し......」
部屋のドアをノックもなしにぶち開けた十六夜は俺達の体勢を見て急停止。
急な乱入者に俺と時雨も急停止。
「な、なにしてるの!ずるいよ時雨ちゃん!」
動き出したのは的外れなセリフからだった。
「人の家に無断で入って且つ人の部屋をノックもせずに入ってくるな。出てけ」
「なんで二人でいちゃいちゃしてるの!わたしでもそんな近距離になったことないのに!」
「時雨だとこれくらい出来るんでな」
「わたしは!?」
「お前はここまでくっつくとゴリ押しで踏み込んでくるからダメ」
「責任取ってくれるなら襲ってもいいよ」
「黙れクソビッチ」
俺と十六夜が言い合いをしていると再び時雨の腕が俺の首に巻き付いた。
「私の勝ちです」
顔は見えないが声はとても嬉しそうだった。
それはそうと。燃え盛る地獄にこれ以上ガソリンをまき散らすのは止めていただきたい。
鎮火出来る自信がないから。




