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第百四話 得手不得手は誰にでもあるもの

放課後、加羅忍の家に集まり勉強会をすることになったのはいい。

今回ばかりは十六夜達も本気らしく、到着早々に夏鈴からノートを借りていた。


「美咲は随分と気合入ってんな」

「え、好きな人の好みに近づこうとするのは普通じゃない?」

「だそうですよ。間宮さん?」

「ん?なんか言った?イヤホンしてて聞こえなかったわ」

「ジャック、繋がってないですよ?」

「時雨。そこは見て見ぬふりをするところだ」


そんな純粋すぎて恥ずかしいこと内容を俺に振るな。

それならまだ下ネタを振られた方がまだ「きしょ」の一言で片付くからマシだ。


「そういう夏鈴は勉強しないのか?」

「あーうん。勉強なんて板書してプリント解いてれば理解できるだろ」

「羨ましいな。俺は一回も授業に出たことないからなんとも言えないが、中学の単元でも躓いたぞ」

「公式さえ覚えれば簡単だろ。入試はいろんな公式が必要になるけど学校の定期テストなら直近の公式さえ覚えれば簡単だぜ」

「それが出来たらもっといい点数取るだろうよ」

「ならこの公式なら......」


夏鈴が俺の横に座り、公式の解説をしてくれた。

人に教えるほど理解してるっていうのか。サボってばっかで十六夜と授業の出席数は変わらないはずなのに。

人に教えるということはそれなりの近さになるわけだ。

夏鈴の制服からミント系の柔軟剤がふわりと香り、近さを思い知らされる。


「んで、これがこうなって......おい、聞いてんのか?」

「ああ。聞いてるよ」

「あ~今おれに見惚れただろ~」

「はぁ。俺は問題文しか見てなかったが」

「見てなくても五感でなんとかなるだろ。いい匂いだなーとか柔らかそうだなーとかよ」

「いい匂いだなーとは思ったけど柔らかそうは思ってない」


悪化するまえに認めた方がいい。この数か月で学んだことだ。


「間宮さんの目は「この女はいつか抱けるな」って目をしていましたよ」

「ぶっ殺すぞ。俺たちの会話盗み聞きしてないでとっととやれよ」

「おれは、狼斗にならいいぜ?」

「ないから。公式もだいたいは分かった。ありがとな」


夏鈴に教えてもらった公式を使ってプリントに書き込んだ。

やはりと言うべきか、夏鈴の教え方はものすごく上手い。横に置かれたメモ書きを見ながら解けばすんなり解くことが出来た。


「数学おしまい。めっちゃ助かった」

「おう」


まだ熱が冷めないのか。それとも熱が冷めないように誰かが茶々を入れたのか。

入れるとしたら一人しかいないが。


「次はなにするの?」

「現社かな。用語が多いし繋がりが結構曖昧だ。選挙のことなんて全く分からん」

「それなら私にお任せを。国の情勢ところか世界の情勢もある程度なら把握しています」


確かに加羅忍以外に国の情勢を知っている高校生はいないだろうな。本当なら適任だし教えてもらいたい。

ただ、代償が怖い。

夏鈴はまだ善意でなしでいいと言ってくれてはいるが、加羅忍の場合はしっかり徴収される。

それも後だしで。

なにが要求されるのか分からないから容易に頼めない。



「教えて真尋ちゃん!」

「いいですよ。まず選挙の形式についてですが......」


始まった。始まってしまった。どこからともなくホワイトボードが引っ張り出され図と一緒に選挙形式について書かれていく。

加羅忍も任せろというだけあって説明は上手い。ただ知れば知るほど俺の心が曇っていく。

この後のことを考えると書くのを止めてしまいたくなる。

一つ安心事として、誰も俺の傍には寄ってこなかったことだ。加羅忍はホワイトボードの前だし、十六夜たち三人は生徒として加羅忍先生の授業に聞き入っている。


多分俺がいない教室じゃこいつらはこんな風に大人しいんだろうな。


「以上で選挙の仕組みと国会についての説明を終わります」

「分かりやすい!私先生の話聞いてもさっぱりなのに!」

「それは毎回授業に出てないからだろうが」

「てへ☆」

「うわ」


思わず素の反応が出てしまった。

「てへ☆」が許されるのは昭和のアイドルまでだ。


「狼斗さん?まだなにか分からない箇所はありますか?」

「特にはないな。現国は当日にならないと分からないし生物は得意だし英語は......捨てるし」

「英語も勉強しましょ!」

「教えられても分からないからいい。スペル覚えられないいし文法もめちゃくちゃだしな」

「英語なら得意なので!」

「時雨は苦手教科とかないだろ」

「それは......そうですけど」

「間宮さん?そこは察してあげないと可哀そうですよ?」

「......分かった。時雨なら変なことはしないだろうしな。教えてくれ」


人に教えるなんて苦痛でしかないと思うがな。俺が教えたことがあるのはバイト先で時雨に一回だけ。

本当に一回だ。

一回言えば時雨は覚えて二度と俺に聞くことはなかった。当時はメンバーが少なかったしとてもありがたかった。

その記憶力の良さはどの分野でも使えるだろうよ。ただ記憶したものってのは教えづらい。

特に自然と覚えたものなんかはな。


「時雨。一ついいか?」

「はい」

「めっちゃ分かりづらい」

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