第百一話 少しだけ可愛いところ
翌日、学校に行くと既に全員が揃っていた。勿論、鳴川先生も一緒に。
「遅いよ間宮」
「ああ、少し寝坊してな」
「麻耶と一緒に居ましたよね」
「ああ、久々にゲームをな」
「数えるほどもらえたか?」
「まさか。お前らからなかったらゼロに決まってんだろうが」
少しカマをかけてみたが四人に反応はなし。
四人の中にはいないのかとも思ったがおもっくそ分かりやすい反応をしてくれた人がいたわ。
「なにが面白い」
「いやなに。可哀そうだなと思っただけだ」
「人の不幸は蜜の味だっけ?そうだよ、ゼロだが文句あるか。見知らぬ女子から貰ったものなんか食えるか」
「そうか。そうか。分かったからそんな怒るなって」
別に怒ってない。怒ってるとすれば噓をついたことに関してだ。
実際に起こったら気味が悪いって話だ。
「そんなに欲しかった?」
「あれ。人の話聞いてた?」
「『見知らぬ女子から貰ったもの』は食べられないと。では私達のなら食べられるのでは?」
「その場でゴミ箱に捨てられたいなら」
「丹精込めて作るのに!」
「その丹精は呪詛・怨念に代わると知れ。お前らが作るチョコの方が数億倍は恐ろしい」
「おれはまともなの作るぞ」
「私もまともなのを作りますね」
「見た目はの話は俺のいない所で俺以外の人に宛ててくれ」
加羅忍が作るのはどうせあの味覚破壊カップケーキの亜種だろうが。
見た目だけしっかりしてるのが余計腹立つ。
ある程度会話したが大きな変化は見られなかった。三人には。
いつもの癖に感謝しなければ。
「ほら、授業が始まるからとっとと教室に行け。ただし時雨は残れ」
「え」
席を立とうとする時雨を再び座らせ、俺も対面の椅子に座った。
横の養護教諭がうぜぇ。
「俺がなんで残したか分かるな」
「......分からない......です」
「ちょっとは耐えるようになったようだがまだまだだ。顔色悪いぞ」
「疲れてるだけです。昨日あまりよく寝れなかったので」
案外強情だな。すぐに緩むと思ったのに。
「これ、時雨が作ったものだろ」
そう言って俺はチョコが包装されていた箱と紙を見せた。
物を見た瞬間に時雨の顔が真っ青に染まった。相当メンタルが削られている証拠だ。
この差出人不明の手紙とチョコは時雨が置いたものだということが分かった。
「大方、俺が癖で言った『見知らぬ女子から貰ったものなんて食えるか』って言葉を不安に思ったんだろ。そしてその後の『その場でゴミ箱に捨てられたいなら』ということでより不安になった。なんで名乗らなかったのかは時雨の事情だから分からなかったがな」
時雨が俺のことをある程度知っているように。俺も時雨のことをある程度は知っている。
ただ知っていると言っても性格や欠点についてだ。
恥ずかしいのかメンタルがギリギリなの時雨は俯いたままで目が合わない。
「なんで皆の前で言わなかったんですか?」
「全員の前で言わなかったってことは隠しているのかなと。その辺は空気だ空気」
「あの......チョコは」
正直捨てたかった。そうすればなにもなかったことに出来る。
手紙は燃やすなりシュレッターにかけたかった。
ただ麻耶に脅されたから食べた。「純愛のエロがない同人誌を書いてるけどこのままエロ展開でもありなんだよ」なんて言われたら俺はもう啓介先輩と一緒にバイトは出来ない。
「食べた。美味かったぞ」
そう言った瞬間に時雨は顔をバッと上げ、俺と目があった。
「意外だったか」
「さっき捨てるって」
「美味かったからな。俺の好みを把握してるのは時雨くらいだ」
だから分かったんだ。
じゃなかったら情緒不安定四人の中から少しの反応の違いなんて分かるわけがない。
「なんでこんなことを?あんな恥ずかしい手紙まで」
「去年はなにも出来なかったので今年こそって思って......」
「ならなぜ加羅忍達と協力しなかった。してたら少なくとも俺一人くらいなら簡単に欺けてたぞ。主な活躍は加羅忍だろうが」
「差出人は単純に書き忘れただけで」
「そこ凡ミスなんだな」
「手紙書いたら恥ずかしさと満足さで......」
前はもう少し知的でしっかり者だったはずなんだがな......いつからドジ踏むようになったんだか。
これもあの騒音兎の弊害か。
「良かったな。俺が時雨のことを少し知ってて。メンタルが弱いっていう情報がなければ俺はきっと見つけるのを諦めてた」
「諸々含めて満足です。ありがとうございます」
そこでようやく時雨は笑った。青い瞳が少しばかり潤んで見える。
時雨はやることが可愛い。
親登場したり親に結婚を誓わせたりとかそんなバカやらないしな。
まともなのは時雨と夏鈴だけだ。ほか二人は頭がオカシイ。




