第百話 差し出し人不明の四角い物体
正月が終われば進級まではすぐそこ。と思っていたのにそう簡単には事は進まないらしい。
二月十四日。この日がなにを意味するのは大半の人は分かると思う。
縁がない俺にだってわかる。
朝、まだ暖房がついていない寒い保健室の机の上には『間宮様へ』という差出人不明の手紙と共に四角く包装されたチョコが置かれていた。
「で、それを麻耶に自慢しに来たと」
「この顔見ても自慢に見えるか」
「ない。明日世界が終わるレベルの顔してるよ」
「助けろ腐女子。散々、Twitterで俺と先輩の同人誌上げてただろ」
「どう」
「消せ」
「やだ」
「なら知恵寄越せ」
「よし」
どうやらネット廃人は自分が書いた作品を消されるよりも知恵を奪われた方がいいらしい。
「この手紙の内容は......まあ、端的に言えば好きってことね。おっけい」
「まともに読んでないだろ」
「普通の恋愛を見ると尊過ぎて軽くイキそうになる」
「下の話はネットでしてくれ。まったく萌えん」
「男子の狼に出すってことは男でしょ?」
「急に腐るな。俺には男友達すらいない」
「もっと男と絡め。そして麻耶にネタを提供するのだ」
「男子校に進学すればよかったと二年目にして後悔してるよ」
そうすればバレンタインなんぞで手紙とチョコを貰うことなんてなかったのに。
「四人はこのこと?」
「知らないはずだ。誰かが来る前に隠したからな」
「ふーむ。麻耶的にはその四人が怪しいけど」
「四人とも俺より後に登校してる。仲良くな」
「中身は食べた?」
「一口な」
「どう」
「俺好みでめちゃ美味い」
普段色んなアニメ、漫画、小説、映画を漁るネット廃人なら俺よりこういうハプニングに対する知識は持ち合わせていると思ったがそうでもないらしい。
「現実で起こるんだなって」
「俺もびっくりだ」
「去年は一緒に市販の板チョコ食べながら過ごしたのに!」
「泣きながら電話かけて来たのはお前だし板チョコ食ってたのは俺だけだろうが」
「麻耶は時雨からガチ恋チョコ貰ったから。嬉し過ぎて報告の電話をかけてしまった」
颯太と遊んでいる最中に電話かけて来やがって。
次かけてきたら無言で着拒してやる。
「これって送り主探す必要ある?」
「あるだろ。お礼参りしなきゃだし」
「来月の今頃は逮捕だろうなー。麻耶からすればあの四人の中にいると思うけど」
「だから」
「後から来るなんて余裕だよ。この時期、外に置いておいてもチョコはそう簡単にはとけないし前日に置かれたら四人全員該当するし」
「昨日も俺が最後鍵を閉めた。その後職員室で鍵を返してる。その後に鍵を取りに来た生徒はいない」
前日も今日も最初と最後は俺だ。先回りは出来ないし置くタイミングは俺が来る前しかない。
「条件をまとめると。狼のことを知っていて、狼より保健室に早く来れて、狼のことが好きな女子で、料理出来る人ってな感じだ」
「それで間違いないだろうな」
保健室の入室問題を除けばあの四人に全てが当てはまる。
一番にネックなのがどうやって置いたかだ。それさえ分かれば崩しようがあるが。
「鍵を使わずに部屋に入る方法。誰かが噓を付いている可能性。全て自作自演の可能性」
「お前のありとあらゆるデータを消してやろうか」
「バックアップは万全」
「記憶という機密データをだよ」
「乱暴するの......?」
「本性バレてんのによくその声が出る。キモイ」
「乙女に対してキモイはないだろ!謝れ!さもなくば脱げ」
「こいつに助力を求めたのは間違いだったか」
ただそれ以外に助力先がない。そもそもこんな相談は普通の人には出来ない。
現実に絶望して現実逃避を現在進行形でしている人が一番好ましい。
そんなのは俺の周りには麻耶しかいない。
「うそつきを探す必要があるでしょ」
「うそつきだったら一人しかいない」
鳴川養護教諭。人の混乱や不安を面白がるのはこの人しかいない。
加羅忍もやりそうだが加羅忍なら既にアクションを仕掛けてくる。今日一日様子を伺ってみても特におかしな所は見当たらなかった。
「明日。また、探りを入れてみるか」
それで解決すればもうそれでいい。どんな結末になろうと結末は一つだ。




