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No.5




 No.5




 『高殿(ウテナ)の搭』の総合ギルドで集めたゴミの換金を済ませたシンは、外で待つ子供達との約束の為、バーテンダーの初老の男性に(ブツ)がここで手に入れられるかを話すと、初老の男性は可能だと言う。


 「こちらでも売っていて良かったですね。無ければ更に待たせることになりました」


 頼むとしばらく待って欲しいと言うので待つシン。

 しかしそれも一、二分しないで初老の男性は(ブツ)を手にして持ってくる。

 大きな紙袋が四つ。シンはそれを受けとると初老の男性に礼を言い、その場を後にして子供達の所へと向かう。

 子供達は『高殿(ウテナ)の搭』の入り口の隅でヤンキー座り(便所座り)をして、雑談をしながらシンを待っていた。

 どこのチンピラ予備軍だこの子供達は?


 「お待たせいたしました。約束の品物をお持ちいたしました」


 シンが現れると子供達は立ち上がりシンへと駆け寄る。

 そしてシンから紙袋を受けとると、報酬の数が全員分であることに気がつく。


 「おいどう言うことだ? 一袋のはずだろう?」

 「そちらは私の手違いで皆様を待たせてしまったお詫びと。また機会がありましたら、と言う意味合いの品です」

 「ふーん……つまりワイロってやつか」

 「そう言ったものではありませんよ。あくまでも互いに良好な関係を持って、次回も仕事をしたいと言う現れです」


 リーダー各の子供は少し考えてから改めて紙袋を受け取り。仲間の子供達に渡す。


 「受け取っておく。次もあるなら声をかけろ」


 斜に構えた物言いで告げると。


 「はい。よろしくお願い致します」


 そんな彼の対応にシンの常に笑っているような表情が、慈しむような顔になっているように思えた。


 「これよこれよこれよ!!」

 「キタキタキタキターーーー!!」

 「ハアハアハア、に、においだけでは足りない!!」


 他の子供達はシンから受け取った紙袋を開け。その中身を取り出していた。

 彼らの手に持っているのは、ホカホカとまだ温かな湯気を出している。

 雪のような白さの砂糖がまぶされた。油により黄金色に輝かされた大きなコッペパン。

 そう。彼らが仕事の報酬として望んでいた(ブツ)とは、揚げパンの事であったのだ。

 シンは金銭でなくて良いのかと問うも、彼らにとっては食べ物。特に甘味類が良いと望んだのである。

 シンは最初果物や駄菓子の様なものが思い付いたが、欲しいものを聞いたところ、揚げパンが良いと返答が返ってきたのだ。


 「ああこれよ。この甘くて美味しいものを私は待っていたのよ!」

 「この甘さが脳を刺激するううううう!」

 「バクバクバクバク!!」


 受け取った揚げパンを一心不乱に食べる子供達。その様子はまさに子供らしい…………らしいのか? 恍惚の笑みを浮かべて食べる子に、何かイケないモノでも入っているんじゃないかと言うくらいに頭をシェイクさせている子も要れば、なにも言葉入らぬと言うように食べた続ける子もいた。


 「もっと他の物でも良かったのですよ」

 「これなら少しは腹持ちもいい。一食くらい抜いてもな」


 リーダー各の子供は揚げパンを他の子達とは違い。ゆっくりと咀嚼して食べていった。

 そしてその物言いに、何処かしらの食事事情が在るように思えたシンである。

 口に出し聞こうとするよりも早く。リーダー各子達が口にした。


 「親がいなくてメシの事情が悪いだけだ。オレらより小さな子供もいる。そいつらに行き渡るようにしてるだけだ」

 「……孤児院ですか」

 「知ってるのか?」

 「こちらでの孤児院が、私がいた所と同じかは存じませんが、在りますね」

 「……そうか。おっさんがいたところは知らないけど。こっちの院はクソだ。院長は町から受け取った金で私腹を肥やし。本来養護するはずのオレたちを養おうともしない。オレたちは雨露しのげる場所に住めるってだけで、メシの確保だって自分たちで行わなければならない場所だ」

 「だけど私たちは子供だから雇ってくれるところがない」

 「だから僕らは渡界者の人たちがたまに請け負っているごみ集めの篭をかっぱらって。あとはごみを集めて売って日銭を稼いでいた」

 「篭を持って行けば渡界者本人じゃなくても交換してくれるから」


 リーダー各の子供に続くように他の子供達も自分達の事情を話していく。


 「こちらでは衛兵、でしょうか? そちらの方達への通報は?」

 「何度も言ったさ。だけど子供と言うだけで信用がない。聞き届けた奴もいたけど、いつの間にかそいつは居なくなってた」


 シンは子供達の話を聞き考える素振りをする。

 何やら陰謀めいた臭いがプンプンと漂ってくる。


 「もう食べられないのですか?」


 リーダー各の子供は最初の一つだけ食べると。残りの紙袋に入っている揚げパンは食べずに仕舞ったのだった。


 「オレたちだけが食べるわけにもいかないからな」


 それは他の子供達も同じようで一つだけ食べると、皆紙袋を仕舞ったのだった。

 シンは他の子供達の分を買ってきて施そうとは思わなかった。

 余分な報酬はこちらの不手際で受け取ったが、それ以上の行為は、彼らのプライドを傷つけるものであると思えたからだ。

 だからこそシンは何も言わず。ただ考えている素振りをし続けた。


 「じゃあな」


 そう言って立ち去ろうとした子供達に待ったを掛けるシン。


 「ああ、明日もまたお願い致しますね。報酬も皆さんが望むなら金銭でも食べ物でも構いません」

 「……さっきの話を聞いてか?」


 自分達を憐れんでの行為なら侮辱だと言うように、シンを睨み付ける子供達。

 それに対してシンは首を横に振る。


 「いいえ。私の方でもゴミ集めは確かになんとかなりますが、貴方達にお任せした方が効率が良いのです」

 「自分でやった方が報酬が良いだろう」

 「そこを差し引きしても貴方達にお任せした方が私に利益が出る。と言う話しです」


 シンは丁寧に子供達に説明していき、最後に「どうですか? やって頂けませんか?」と、子供達に問う。

 子供達の方もシンの言葉に訝しんでいたが、最終的に自分達に利があるならばと、シンの依頼を受けるのであった。


 「明日の朝、そうですね。こちらでは第六の鐘の音(午前六時)が鳴ったら『高殿(ウテナ)の搭』の入り口。丁度先程皆さんが居た場所に集合と言うことで」

 「構わない。終わりは?」

 「皆さんのご都合が着けば幾らでも、と言いたいですが、流石に皆さんの体力やゴミの回収も考慮しなければなりません。そうですね。仕事を初めてから第九の鐘(午前九時)が鳴る頃には、一旦ここへ集合すると言うのでどうでしょうか? そこで終わりにするかを判断いたします」

 「……いいだろう。それで請け負う」

 「ではまた明日もよろしくお願い致します」


 深々と頭を下げ子供達に願う。

 終始自分達にそんな態度を取り続けるシンを不思議なものを見るような表情をする子供達。

 しかし彼らは何か言うことはせず。その場を立ち去って行くのだった。

 シンは彼らが立ち去るとその頭を上げる。

 しかし上げた後も何かを思案し続けているような表情をしていたのだった。


 「……腐敗、ですか。なんとも世知辛いですね」




 ☆★☆★☆




 子供達と別れたシン。最後の配達先へと向かいその荷物を届けようとしたのだが。


 「お留守ですか。行き先が書いておるのは幸いなのですが、そこへ届けに行った方が良いですかね」


 届け先の玄関には張り紙が一枚。そこには。


 『大工屋アスカロン。ただいま出張仕事中。ご用のある方は『東外壁』工事現場まで』


 「東外壁ですか。ああすみませんそこの方、ちょっとよろしいでしょうか」

 「はい。なんですか?」


 シンは張り紙を読み終えてから、通りすがりの人に道を尋ねることにした。


 「東外壁ですか? でしたらここの路地を真っ直ぐ行って、三本目の通路を右に。そのあと青い屋根の家を曲がってもらって、百メートルほど進んでから左に。左に曲がってからまたすぐに左と曲がって、二件先の角を右に曲がって、五叉路の道を右から二本目の斜めの道を進み。川の橋を渡ってから雑貨屋さんの手前で右に曲がって、三歩進んですぐ右に細路地があるのでそこを通って行けば南外壁まですぐそこですよ」


 はあ!? なんだって!? 真っ直ぐ行って三本目で右で青い屋根のところで左? 地元民でもないのに分かるか! そんな説明!


 「なるほど。ここの路地を真っ直ぐ行って、三本目の通路を右に。そのあと青い屋根の家を曲がり。百メートルほど進んでから左に。左に曲がってからすぐに左と曲がって、二件先の角を右に曲がって、五叉路の道を右から二本目の斜めの道を進み。川の橋を渡ってから雑貨屋さんの手前で右に曲がって、三歩進んですぐの右側にある細路地を通って行けば、東外壁へと行けるのですね」


 ばかな!? あの説明を一発で理解した、だと……!?


 「はいそうです」

 「どうもご親切にありがとうございました」


 シンは丁寧にお辞儀をするとその場をあとにする。

 そして訪ねて聞いた道順を間違うこと無く進んでいくのだが。最後の細路地を抜けるところで、トラブルが発生した。


 「へへへっ……」

 「……(クチャクチャ)」

 「…………」

 「申し訳ありませんが通していただきたいのですか?」


 なんか世界観を微妙に間違えて登場してないかと、ツッコミたい格好をした三人組が、細路地で通せん棒するように立っている。

 シンは三人組に通して欲しいと願うが、三人組にはニヤニヤ、ニタニタと気色悪い笑みを浮かべるだけで通す気はないように思えた。

 もうすぐ外壁と言うことで別の道を行けば良いのだろうが。教えてもらった道順を最後まで行かなければならないと言う、よくわからない使命感を持ってしまったシンであった。


 「幾ら脇道とは言え、この場で道を塞いでいるのは常識外だと思うのですがーーー」


 三人組は一向に動こうと言う気配はなかった。


 「致し方ありませんね」


 シンはしたくないと言うようにため息を吐く。その行動にシンが武力に訴えるような行為に及べば、応戦する覚悟さえ見せる三人組である。

 しかしシンはその場でくるりと向きを変えた。

 三人組は諦めて帰るのだろうと思ったその瞬間。

 シンは真っ直ぐに壁に走って行き、ぶつかる瞬間に壁を蹴る。蹴った反動で高く体を上げ。そのまま細路地の壁に向かうシン。

 そして細路地の壁をまた蹴り。反対側の壁へと飛ぶ

 そうして壁を蹴り飛びながら細路地を進んでいくのである。

 それを呆然と見る三人組。

 細路地の出口にたどり着き。地面に着するシンは三人組の方に振り返り。


 「どうもお騒がせしました。それとご忠告を。人様のご迷惑となる行為なので、不用意な道の塞ぎは止めた方が宜しいですよ」


 「……では」と、お辞儀をして立ち去るシン。

 暫く呆然としていた三人組だが、自分達がコケにされたと思うと憤慨し。怒り狂った。要はキレやすい若者と化したのである。

 三人組はシンを追いかけ走っていく。しかしシンの姿は何処にも見受けられなかった。


 「さがせ! この近くにいるはずだ!」


 三人組は散り散りになりシンを探しに向かったのであった。

 そんな彼らの一場面を自分以外にも見ていたものが、ここにもまたいたのであった。


 「……あれがキツネさんか。すげぇ……路地裏の怖いお兄さん達を、あんな三角飛びなやり方で抜けてったよ。なにあれスキル?」


 残念。あれは彼の純然たる身体能力(プレイヤースキル)だ。

 ホント現実(リアル)じゃ万屋やってると言う話だが、ジェ〇ムス・ボンド(秘密情報工作員)の間違いじゃないかと言いたくなるなぁ。

 それともあれか。昨今の万屋はあれくらいの動きが出来ないとやっていけないのだろうか?
















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