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No.3




 No.3




 「以上がここ、『高殿(ウテナ)の搭』の説明よ。ここ以外の説明は申し訳ないけど、自分の目と耳で体験して」


 導き者・Dの案内が終わり。一番最初にシンが現れた『転移門』の出入口の前へと戻ってきた。


 「大変素晴らしい案内をありがとうございました」

 「よして、大した案内はしてない筈よ。……ふぅ、まったくあなたは本当に変な渡界者ね。最近じゃこうした案内なんか必要ないって言う渡界者ばかりなのに」


 導き者・Dの案内は、初めてグローリアに訪れる渡界者達へのチュートリアル(案内役)である。

 しかし事前情報を多く持つ渡界者達には無用の長物となり。彼女自身、その『導き者』と言う役目をもて余していたのだ。


 「あなたも知っているんじゃないの?」

 「知ってはいましたが、やはり現地の方の説明と言うのは、必要な部分ではありますね。第三者からの知識情報は時に、情報の食い違いや。こちらが必要としている情報が抜け落ちている場合もありますから」


 「そんなものがあるのかしら」と、疑問目いた表情を浮かべる。

 シンも変わらぬ微笑みを崩さぬまま存在してましたと言うように、『クエストボード』を指差す。


 「例えばあちらです。先程依頼の複数を受けることが可能だと言うことは存じませんでした」


 今度はフリースペースの方を指差し。


 「あちらでのカウンターで軽食などの注文を得られると言うのも、こちらに来て初めて知りました。Dさんが居られ、教えてくださったからこそ、知り得た情報になります」

 「そんなのはここに来ていれば、いずれは知り得たものになるでしょう?」

 「確かにそうでしょう。いつかは知ることになる。しかし私は()知ることが出来ました。『聞くは一時の恥。知らぬは一生の恥とも申します』。恥を掻いたのが今であれば笑い話程度になると言うものです」


 導き者・Dはシンの言葉にポカンと呆れた顔をして、くすりと笑い。


 「あなたのような人は後で知っても恥ともなんとも思わないでしょうに。でも、まあいいわ。あなたのその変なところを認め。その言葉を受け入れましょう」


 シンは「ありがとうございます」と、慇懃無礼にならない程度に礼の言葉を述べ。また頭を下げたのだった。


 「じゃあこれで本当に最後よ。私の案内はここまで。後はあなたの好きなように行動しなさい」

 「はい。どうも本日はありがとうございました」


 導き者・Dは別れの挨拶をし、その場を立ち去ろうとしたが、その足を止め。シンの方へ振り向き。


 「久しぶりに自分の役目の仕事が出来たお礼、と言う訳じゃないんだけど。『クエストボード』の下に張られている依頼書、受けてみるといいかもしれないわよ」


 シンはそんな彼女の言葉に無言で頭を下げた。

 そして上げた時には彼女の姿は何処にも見受けられなかった。

 まるで煙のようにその姿を消したかのように、何処にも。


 「……私も人のことは言えませんが、変わった方でいらっしゃいましたね」


 親しみがあると言えばそうであろうが、案内をするものが、あそこまで明け透けなしゃべり方をするのは希である。


 「現実(リアル)の時間で二時間。こちらだと約二日間。なにもしないで要ると言うのも暇をもて余しますしね。Dさんに言われたからと言うわけでもありませんが、クエストを行いましょうか」


 クランに加入してない。ソロの渡界者がグローリアに来て一番始めに行うことは金銭の確保である。

 他のゲームでは多少の金銭を持って始めることが出来るが、この『栄光を記録せし世界録(グローリア)』では、運営が「異世界に行って、始めっから至れり尽くせりの状態で始められるなんて普通あり得ないだろう? 服ぐらいは用意してやるから、無一文からやれ」と、公式ページに載せているくらいシビアなことを言っている。


 「『元気草の十株の採取』『ボアの肉。五十キロの調達』『穴モグラの討伐』『壁面改修工事の助っ人募集』『下水道清掃の募集依頼』『農場での牛馬(カウ)の世話』『コロコロ草の十株の採取』『家屋の修繕依頼』……なんと言うか。依頼書が乱雑に張られていますね」


 導き者・Dが言った通りに下の方を見ながら依頼書を見ていたシンであったが、導き者・Dが意味在り気に言っていた依頼は見当たらなそうであった。


 「これでは自分が受けたい依頼を探すのに苦労しそうですね。……余計なお世話かもしれませんが、少し見やすいように並べかえましょうか」


 シンはボードに張られている依頼書を分類ごとに張り直していった。

 そしてその作業中依頼書の張られている更に裏に、別の依頼書が張られているのに気が付く。


 「これは……なるほど……Dさんはこの依頼書の事を言っていたわけですね」


 手に取った依頼書を読み。その内容を理解する。しかしゲーム内(現状)の自分には手に負えないものと判断した。が……。


 「……なんとか条件が揃えばしてあげたいと言うところですが……ん? おや、これは今の私でも受けられそうなものが。こちらにも。ああ、こちらにもありますね」


 シンは整理していた依頼書から良さそうなものをピックアップしていく。

 そして十枚を越えたところで。


 「土地勘がない以上、これ以上の依頼を受けるのは時間的に厳しいですね。仕方ありません。まだ期限はありますから、後日受けましょうか。しかしこれだけの依頼……本当に現実(リアル)でもないものなのでしょうか……」


 最後は少し世知辛い雰囲気を出して、導き者・Dが言っていた受付へと、依頼書を持っていくのだった。




 ☆★☆★☆




 シンが依頼書を片手に獣人族(ワイルド)兎人族(ラビィニア)と呼ばれる。兎の耳を生やしたような女性がいる、そのカウンターへと行く。

 女性はシンが依頼書を持ち。こちらに来ることに気がつくと、にこやかに挨拶をしてくる。


 「ようこそ。『高殿(ウテナ)の搭・総合ギルド』へ。ご依頼のお受けでよろしいでしょうか?」

 「ええ。こちらで依頼を受けられると聞きましたが」

 「はいもちろん出来ますよ。『クエストボード』より持ってきた依頼書と、ユニークカードのご提示をお願いできますか?」


 シンは言われた通りに依頼書とユニークカードを手渡す。

 ユニークカードを受け取った女性はユニークカードより少し大きめの箱の上に置く。置くとカードが淡く光出し、カードの上に仮想画面が出現した。但し画面の内容はこちらからは見えない。女性は画面内を目で追い何かを確認し終わると。今度は十枚以上ある依頼書一枚ずつ確認していく。


 「はいご確認しました。すべての依頼を受けられますか?」

 「はい。お願いします。時に、今しがたカードの確認は何をされていたのでしょうか?」

 「こちらのユニークカードのご確認は、犯罪歴のある方や依頼を達成されたのに、報告をまだされてない方がいた場合のご確認をさせていただきました。申し訳ありません。これらのご説明を省いてしまいました」

 「いえこちらこそ、物知らずのために申し訳ありませんでした」


 女性がカウンター内から頭を下げ謝罪してくる。


 「それでは改めまして『ギルド』の利用方法を等をご説明させていただきます。すべてのギルドには『クエストボード』と言う、依頼者からの依頼内容が書かれた張り紙があります。

 それらはすべて依頼書と呼ばれ。その依頼書からご自身が達成可能な依頼書をお選びいただき。受付にて受託の手続きを行います。依頼書には依頼期限が存在し。その期限内に達成できない場合は、依頼失敗となり。違約金を支払うことになります。

 そして専用ギルドに入会された場合は、そのギルドでの依頼失敗が十回連続で成されますと、専用ギルドから脱退と言う形になります。当総合ギルドの場合ですと、強制労働一週間と特別講習を受けてもらうことになります」

 「再度専用ギルドに入ることは可能なのですか?」

 「可能ですが、その場合はギルドからの試験を受けてもらい。その試験に受からなければ再入会は出来ません」

 「ランクなどは在りますでしょうか?」

 「ございます。ただし、よく皆さんがご想像されるようなランク制ではありません。あくまでもその入会されたギルドへの貢献度を表すものです。もちろん、貢献された度合いによって各ギルド専用のアイテムなどの購入が可能となります」

 「では簡単な依頼を受けていれば貢献度は上がり。高ランクになると言うことでしょうか?」

 「いえ、そうはなりません。ランクアップには各ギルドによって違いますが、ランクアップに必要条件をクリアしなければ、ランクアップはいたしません。ランクアップされる場合その方法などは、各ギルドの受付にてご確認ください」

 「ギルドは複数在ると聞きましたが、同時に複数入会するのは可能なのでしょうか?」

 「可能です。存在するすべてのギルドに加入することも可能です。しかし多くの渡界者の方はご自分の力の方向性から、その力に見合ったギルドへと入会される方が多いようですよ」


 その後も受付の女性の説明は続き。シンもその都度疑問があると質問した。女性の方もシンの質問に嫌な顔をせず。淀むこと無く。懇切丁寧に説明していった。


 「以上がギルドの利用方法となります。何か分からなかった点などございましたでしょうか?」

 「いえ、その都度質問をさせていただきましたから問題はありません。話を区切るような説明の仕方を取らせてしまい、こちらこそ申し訳ありませんでした」

 「ご理解できたのであれば、こちらも問題ありませんよ。では依頼のご確認の方に移ります。今回こちらの十一点の依頼でよろしいでしょうか?」


 そう言って女性がいつの間に書いたのか。一つにまとめて書かれた、一枚の依頼書をカウンターの上に置いた。




▼▼▼▼▼▼▼▼▼《依頼内容》▼▼▼▼▼▼▼▼▼


 〇町の地図作り。[期限:七日後まで]

 新たな建物が作られているために町の更新地図が作りたい。細かな区画状況が知りたいので、一区画でも構わない。ただし出来うる限り詳細な情報を持つ地図を描いてくれ。

 別途支給品:【自動書記型地図】(白紙)×一枚。[返却品]

 【地図作成員】証の腕章×一個。[返却品]


 〇町の清掃員募集。[期限:七日後まで]

 町の至る所でゴミが見受けられる為、清掃員を募集する。清掃員は指定された背負い籠にゴミが一杯になるまで集めて貰いたい。

 また期限以内であれば、例え分量を越えたとしてもゴミ収集を続けて欲しい。

 指定分量以上集めた者は一キロ辺り『100』リーエンを支払う。

 別途支給品:【背負い籠】(竹製)×一個。[返却品]

 【ゴミ取り用トング】(竹製)×一個。[返却品]

 【清掃員】証の腕章一個。[返却品]


 〇荷物の配達。[期限:本日中]

 町の住人への荷物の配達をお願いします。指定された場所に指定された荷物を届けてください。

 場所は地図を用意してありますので、その地図の場所に配達してください。

 ※【注意】

 配達される荷物は中身が分からないために壊れ物の場合もあります。扱いには十分注意して配達をしてください。破損等された場合は弁償金を支払っていただきます。

 別途支給品:【配達用荷物】×九個。

 特別支給品:【収納バック】(肩掛け用)×一個[返却品]

 【配達員】証の腕章一個。[返却品]


▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲




 シンは依頼内容をもう一度読み。間違いがないことを確認すると。


 「はい。こちらでお願いします」

 「ではこちらの依頼をユニークカードに登録いたします。ご依頼が達成されましたら、ギルドに報告してください。期限を過ぎての報告は失敗扱いとなりますので注意してください」

 「わかりました」

 「こちらが荷物となります。『お気を付けて。あなたの無事の帰還をお祈り致しております』」

 「ありがとうございます。それでは行って参ります」


 シンは女性からカードと支給品を受けとると、『高殿(ウテナ)の搭』の出入り口へと向かっていく。


 「こちら(ゲーム内で)のお仕事。これをお遊びとは思わず。いつも通りのお仕事と思い。ーーーお仕事を始めましょうか」


 手渡されたアイテム(支給品)を装備して、いざ、シンが真の意味でグローリアの大地へと降り立つ。

 あっ言っとくけどシャレじゃないぞ。たまたまだからな。












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