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飛んで火にいる夏の虫  作者: 道端道草
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第一章 冬(3)

「どうする?」航が訊く。


俺は点灯式に間に合わなかった事を歩実と航にかなり怒られた。


夢は罵声を浴びせる航に「まぁまぁ、大地は皆の為に飲み物買ってきたんだからいいじゃない」となだめた。


ツリーの点灯式が終わった後の予定は特にして無かったので、この後どうするか四人で話し合っていた。


夢が俺の服を引っ張り、俺が振り向くと「歩実にプレゼント渡してないでしょ?」と耳元で囁いた。


俺は小さく頷くと夢が航の手を取り「私達これから行く所あるから! そっちはそっちで楽しんで!」と言いながら去って行く。


夢は俺に気を利かせて二人にしてくれた事を分かったのはこの場で俺だけだろう。


「行っちゃったね」歩実はポカーンとした顔で眺めている。


「どうする? まだ時間あるし中見て回る?」


「外のイルミネーション見に行ってもいい?」


「いいよ。じゃあ行こうか」


俺達は外に飾られたイルミネーションを見に、同じ歩幅で同じスピードで歩いた。


いつもどちらかが前を歩いたりする事が多い俺達にとって、一緒に横並びで歩くのは新鮮だった。


近くの公園で休憩する事になり、人通りの少ない小さな公園のベンチに座った。


「今日寒いねぇ」歩実は手を擦り合わせながら白い息を吐いた。


「なんか冬って喋る度、白い息がでて言葉が動いて見えるな」


ふふふ、と歩実は笑い「そうだねぇ」と息を吐いた。


「大ちゃん、あの点灯式の言い伝えって知ってる?」


「そんなのあるの? ただ電気点けるだけじゃないの?」


「相変わらず全くロマンがないね。あれってね、一緒に見た人と末永く幸せになるって意味も込められてるんだよ」


「そうなんだ。だからカップルが多いのか」


「カップルが多いのはクリスマスだからでしょ。私点灯した時航と二人で見ちゃったよ」


歩実はそう言うと微笑みながら俺の顔を覗き込んだ。


「でも言い伝えでしょ? 別にそれが本当な訳じゃないし」


「女心が分かってないなぁ。全くもう」


歩実はため息を吐くと元の姿勢に戻り、ポケットに手を入れた。


しばらく沈黙が続き、俺はプレゼントを渡すタイミングを計っていた。


話の入り方、プレゼントを渡す時の言葉、細かい事を考えてる内に時間だけが過ぎて行く。


俺が躊躇っていると歩実は「そろそろ帰ろうか。終バス来ちゃうし」と立ち上がり駅の方へ向かう。


「あのさ」俺は歩実の手を取り、呼び止めるように言った。


鞄の中にあるプレゼントを無造作に取り「これ、クリスマスプレゼント」と歩実に渡した。


歩実は予想もしてなかったようで、みるみる目に涙が溜まり今のも零れ落ちそうだった。


どんどん赤くなる目を擦り「ありがとう。本当に嬉しい」と喜んでくれた。


考えてた言葉もシチュエーションも違うが、ぶっつけ本番にしては上手くいった方ではないだろうか。


歩実は「開けてもいい?」と訊ね俺は「いいよ」と返事をすると早速、中身を開けニット帽子を取り出した。


「可愛い。すごい可愛いこれ。大ちゃんが一人で買ったの?」


「いや、元喜と二人で買いに行ったんだ」


幸い今日の歩実は頭に何も被っていなかったので「私これ被って帰る」と言いポンポンの付いた帽子を被った。


歩実の頭の上でポンポンが大きく揺れ、俺はそんな歩実を見て笑っていた。


ここまで喜んでもらえると歩実の為にやってよかったと、自分が善人に思える程気持ち良かった。


更に俺は追い打ちを掛けるように「あとさ、これなんだけど」ともう一つの袋を取り出した。


「え? なに?」歩実は不思議そうに俺の取り出す袋に目をやった。


「この前誕生日プレゼント貰ったから、お返しに誕生日プレゼント」


「うそ……」歩実はそれだけ言うと我慢していたのだろうか、目から大量の涙が零れ落ちた。


俺は袋を開け、ケースから蝶の形をしたネックレスを取り、歩実の首に手を回し、首の後ろでホックを止めた。


「うん。やっぱり似合うね」俺の勘は間違っていなかった。


そのネックレスは歩実の鎖骨辺りまで垂れ下がり、今日の服装に偶然にもマッチしている。


歩実は泣きながら何かを言っているようだが、何を言っているかさっぱりわからなかった。


俺は終始笑い歩実は泣き続けた。こんな何気ない時間を大切に感じれるのはやっぱり歩実がいたからなのだろう。


「ありがとう」歩実が必死の思いで出した声はどの言葉より嬉しかった。



終バスにギリギリ間に合い、揺られること二十分。俺達は二人で暗い帰り道を歩いていた。


「今日は本当にありがとね」歩実は何度も何度も俺にお礼を言った。


「いいよ。俺がしたくてしてるだけだから」俺は少し格好付けて足元の石ころを蹴飛ばした。


蹴った石は三、四回跳ね繁みへ消えて行った。


俺はその石を目で追っていると手になにやら温もりを感じた。


振り返ると歩実の手が俺の手を握り、それぞれの指の間に歩実の指が入ってきた。


俺の心臓は生まれて初めての出来事にすごい音を立て騒ぎだす。


それと同時に冷えた体の内側から熱くなるようなものを感じた。


「大ちゃん私ね、今日夢が大ちゃんに告白する事知ってたの」シーンとした夜道に歩実の声だけが聞こえた。


「え? 誰から訊いたの?」


「夢本人だよ。最初訊いた時はね、仕方ないって思った。夢は可愛いし悪い所何もないし。私なんか一度振った上にまだ先輩の事考えて最低な女だなって。大ちゃんは夢との方が幸せなんだって決めつけてた」


俺は歩実の話に真剣に耳を傾け、相槌を打った。


「でも、大ちゃんが夢と二人で楽しそうにしてるのを見てなんか寂しい気持ちになって、考えれば考える程苦しくなって、気付いたら先輩より大ちゃんの事考えてた。だからだよ? 文化祭の日、先輩の告白されたけど断ったの。散々傷つけてこんな事言う資格ないかもしれないけど、私は大ちゃんが好きです」


鼓動が歩実に聞こえそうな程、早く大きく鳴る。俺は高校入学し歩実と出会って恋した。


春の合宿で先輩が好きと聞いて落ち込んだり、夏の花火大会の日に告白し振られまた落ち込んで、秋には大喧嘩をし、振り返ると全然上手くいって無かった。


それがようやく実を結び、こんな俺にやっと振り向いてくれた事がなによりも嬉しかった。


俺は返事よりも先に歩実を抱きしめていた。


「心臓すごい鳴ってる」歩実は俺の胸に耳を当て、俺の心臓の音を聞いた。


「歩実。俺も大好き。俺達付き合おう」そう俺が言うと歩実は強く抱き返し「好きー!」と俺の胸に顔を押し当て大きな声で叫んだ。


はははと高い声で笑いながら、俺達は手を繋ぎ帰った事は言うまでもない。


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