第5話 憧れ?
「もう、いい?俺、練習戻るよ?」
無愛想な弟が俺と神さまを置き去りに体育館へ戻って行く。
「ごめん、あいつ無愛想で・・・」とフォローする俺。
神さまは特に気を悪くした風でもなく、去っていく真の背中と俺を見比べて
「ところで、あなたは諒多くん?それとも真也くん?」サラッと言った。
もう何度と無く言われ慣れた言葉だけれど、今回は何だかショックだなぁ。
さすがの神さまでも、俺たちを見分けることは出来ないか。
今まで接点無かったし、当たり前だけれど・・・
「俺、矢野諒多。大体皆見分け付かないから、矢野って苗字で呼んでもらえれば。」
「あら、私見分けは付いていると思うわ。あなたが私を助けてくれた方でしょ?今朝はありがとう、諒多くん。それじゃあ、部活中邪魔してごめんなさいね。」
何でも無いことのようにサラッと言うだけ言って去って行った神さまの後姿を見送りながら
「結構、大したことなんだけれど・・・俺にとっては・・・」と俺は知らずニヤけていた。
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帰りの電車の中でも俺の顔は緩んでいたらしく、真に「気持ち悪い」と言われたが、湧き上がってくる喜びは如何ともし難い。
「今まで気付かなかったけど、神さまって格好良いよなぁ。綺麗だし。」
「そうか?俺はお嬢みたいなフェロモン溢れてる方がいいけどな。って、お前ユキ姫のことが好きだったんじゃなかったの?」
「ユキ姫は見ていて守ってあげたくなるけど、神さまは見てて惚れ惚れする。存在自体が綺麗って感じ。」
「憧れってやつか?お前見かけによらず晩熟だからな、間違えんなよ?憧れと恋愛感情とは別だと思うぞ。」
「わかってるよ!俺だってそのくらい・・・」
「本当にわかってんのかなぁ。」と弟に心配される情けない俺・・・
確かに恋愛経験は俺より真の方が多い。
告白されることも少なくは無いし、恋愛をする機会なら結構たくさんあったのだが、俺はあと一歩が踏み出せない。
真が言うには「お前が壁を作るからだろうが!」だそうだが、女の子と付き合ってしばらくすると「諒くんの気持ちがわからない」とか「冷たい」とか言われ、どうしたらいいのか分からず最終的には面倒になって別れるといったパターン。
精一杯優しくしているつもりなのに、何故なのだろう?
それに・・・
俺は別に神さまと付き合いたいとか思っているわけでは無い。
むしろそんなことを考えるのも恐れ多いと言うか・・・
ただ、今朝ユキ姫をかばって毅然と痴漢に立ち向かう神さまを見て、凄い人だなぁと思ったんだ。
「正しい」ことを口で言うのは簡単だけれど、それを行動に移せる人は少ない。
きっと神さまはその数少ない種類の人なのだ。
俺は、もっと神さまのことが知りたい と思った・・・