第4話 神さまの微笑み
どうしちゃったんだ、俺? 今朝からどうもおかしい!
授業中、休み時間、部活中もフラッシュバックの様に1つの画像が脳裏に浮かぶ・・・
今朝、電車の中であった痴漢騒動。
痴漢に突き飛ばされた神さまを庇って、助け起こした俺は・・・
至近距離で見てしまった・・・
神さまの微笑み・・・
神さまは俺にすごく綺麗な笑顔で「ありがとう」と一言。
その後すぐに駅員に呼ばれて行ってしまったけれど、それから頭にずっとあの時の微笑が消えない。
これはもしや一目惚れってやつか?
いやいや、まさか。
神さまは確かに綺麗だけれど、あまり女性的なイメージが無い。
男らしいと言った方があっている気さえする。
どう考えても俺とでは不釣合いだろう・・・
俺は身長だけは178cmと割と高いが、童顔で女子たちからも可愛い!と言われる始末・・・
基本的には親父に似て端正な顔立ちだと言われるが、そこに微妙に真子さんの甘さが加わっている。
俺と神さまでは、どっちが姫でどっちがナイトか・・・
しかし、この胸のドキドキはどうしたものか。
神さまの微笑みは所詮人間の俺には、心臓に悪いのかもしれない・・・
「先輩・・・諒先輩!今日調子悪そうですね?」
どうやらかなりぼんやりしていたらしい。部活中だというのに人の気配に気付く余裕も無い程考え事に没頭してしまった・・・
バスケ部のマネージャー、相川 桜が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
相川はいい子だと思うけれど、人との距離のとり方が少し近い。
俺は若干後ずさって距離を取り直し「大丈夫、大丈夫!」とガッツポーズをした。
「先輩、今ちょっと離れたでしょ!桜ショックですぅ。」
相川は鼻にかかった声でちょっとオーバーなくらい悲しそうな表情をした。
「いやぁ、相川ファンに恨まれるかなぁと思って。」
実際、相川はモテる。このわざとらしいくらいのブリッ子キャラに騙される男は、いつの時代も少なくない。それに基本的にはいい子なのだ。
俺は昔から他人との距離が極端に近くなることをあまり好まない。
近くに来ても気にならないのは、親父と真と従姉妹の智香と数人の親友たち。
こんなひねくれた俺の内面に気付いているのは真くらいかな。
おそらく皆には真の方がひねくれて見えている。
真はあまのじゃくだから、本当は素直で負けず嫌いで分かりやすい性格をしているのだけれど、それをストレートに表に出すことをしない。
逆に俺は人当りよく、誰にでも心を開いた風を装ってはいるが、本当に大切に思うもの意外には案外冷たかったりする。
さて、部活を真面目にやるかー!と気合を入れなおしていると「おーい!諒、真!」と先輩に呼ばれた。
先輩を見た俺は・・・数秒固まった・・・
・・・・・
汗臭い体育館に、神さま登場!
・・・・・
「今朝はありがとう。おかげで犯人を捕り逃がすことなく済みました。」
俺の心臓はもはや爆発寸前!
やっぱり綺麗に笑う人だなぁなどと考えながら、ぼぉっと神さまを見ている俺の横で「別に大したことしていないし。」とか可愛げの無いことを言う真。
おいおい、真くん!そんな態度じゃ印象が良くないだろう!
「ユキ姫・・・じゃなくて、野々宮さんは大丈夫?」
ユキ姫のことは本当に心配だった。今朝のことでショックを受けていなければいいけれど・・・
そんなことを考えていた俺を真っ直ぐに見て神さまがクスっと笑った。
「あなた、いつも結喜のこと見ているものね。大丈夫、結喜はあれで結構芯はしっかりとしているから。結喜も後で改めてお礼に伺うと言っていたわ。今日は念のためご家族がお迎えにみえられたから、もう帰ってしまったのだけれど。」
そうか。神さまは俺がユキ姫に想いを寄せていることに気付いていたのだな・・・
胸の奥がキュッと音を立てた気がした。