第3話 ハプニング
俺の目の前で、神さまが男の腕を掴んで仁王立ちしている。
怯えるユキ姫を背中に庇い、ひどく凛々しい立ち姿に俺は一瞬見惚れてしまった。
痴漢の疑いをかけれらた男は、慌てて神さまの腕を振りほどいた。
「ななな何って、何も・・・」
「何もって・・・結喜の体を触っていたでしょ?」
しらを切り通せないと察したのか、男の態度が一変した。
「そんな気は全く無いが、混んでいて体があたってしまっただけだろう!勘違いして欲しくないな!言いがかりはやめてくれ!それとも何か?そうやって示談金でもむしりとるつもりか!」
おいおい、逆切れかよ! とぼけやがって、このエロリーマンが!
「大きな声を出せば、こちらが怯むとでも思っているの?甘いわね。あなたのしたことは、この目でしっかり見ていたから。明日香、あなたも見たわね?」
「見た見た。この変体親父!」
「出るところに出て、はっきりさせましょう。そして、たっぷり反省するがいいわ。」
神さまが明らかに侮蔑の表情で男を見据える。それは見ている俺が凍えそうなほど冷たい視線だった。
分が悪くなったと悟った男は、電車がホームに着きドアが開く瞬間を見計らって逃げようとした。
気付いた神さまが、男の腕を掴もうとして突き飛ばされる。
どこまでも往生際の悪いエロリーマンだ!
俺は持ち前の反射神経で神さまをキャッチ!・・・しきれず、神さまを腕に抱いたまま転倒・・・
目で男を探すと、まさに電車から降りようとしているところだった。まずい、このままではとり逃がす・・・
すると、ホームに下りた男の向こう側に真がたっているのが見えた。
「真!」
とっさに俺は叫んでいた。目が合うと真はニヤッと笑い、すぐに涼しい顔に戻ると慌てて歩き出したサラリーマンの傍に寄る。
サラリーマンの体がぐらっと傾ぐのが見えた。
どうやら真が足を掛けたらしい。
騒ぎを聞きつけた駅員が走って来るのが見えた。これで一安心だろう。
ああ、出来れば俺が捕まえたかったなぁ。折角ユキ姫に格好良いところを見せるチャンスだったのに、真にいいところを持っていかれてしまった・・・
そんなことを考えながら、いい匂いを胸いっぱいに吸い込む。
ん?いい匂い???
・・・・・
「ちょっと、あなた・・・」
気が付けば、俺は腕に抱いたままの神さまの髪に顔を埋めていた・・・やばい・・・
慌てて身を離す。
「ごごご・・・ごめんっ!大丈夫?」
俺は神さまに声を掛け、先に立ち上がって手を差し出す。
俺の手を取った神さまの指先がかすかに震えているような気がしたが、気のせいだろうか?
「ありがとう。おかげで助かったわ。」