第2話 「清く・正しく・美しく」
俺の朝の楽しみ、それは通学電車の中でユキ姫を見ること。
ユキ姫というのは、俺の通う高校の生徒会で会計を担当している野々宮 結喜さん。
うちの学校は、歴史のある地元では割と有名な高校で、特色といえば代々生徒会が形骸的な組織ではなく、きちんとした発言力を持っており、余程のことが無い限り学校も生徒の自治に任せた自由な校風。
そして、現生徒会には名物「清く・正しく・美しく」の三役員がいる。
ユキ姫はその「清く」担当。
(もちろんこれは本人達の知らないところで、外野が言っているだけなのだけれども。)
小柄で華奢で抱きしめたら折れてしまうのではないかと思うような繊細な雰囲気。
透けるような白い肌に、伏目がちで睫毛の長い潤んだ瞳。
動物に例えたらリスってところかな。
俺が守ってあげなくちゃって気になる。
「俺、今朝ユキ姫とお茶してる夢みた。すごく幸せだったなぁ。」
ホームで電車を待ちながら言うと、真は少し驚いた顔で
「俺も!今朝お嬢とお茶してる夢みたよ!お嬢が近付いて来て、もう少しでキスってところで親父に起こされた!惜しかったなぁ・・・」
さすがに双子。同じようなタイミングで同じような夢を見るものだ。
でも、俺がお茶だけで満足しているって言うのに、真のやつはキス(未遂だが)まで進んでいるとは・・・負けているかも・・・ま、所詮夢だけれど。
真の夢に出てきたのは生徒会書記で「美しく」担当の一条 明日香。
通称、お嬢。
何とも華やかな人物で見目麗しく、帰国子女で英語と仏語も話せるらしい。男子生徒の憧れの的だ。
ただし、自由奔放で気位が高い彼女に、告白して玉砕した男子は数知れず・・・
「来たぞ、電車。」
真の言葉に俺は身を引き締めた。
お嬢やユキ姫に近付くには、かなりの競争率を勝ち抜かなければならない。
周りの男子生徒たちの目がギラギラしているのは、気のせいでは無い。
高嶺の花と分かってはいても、少しでも近付きたい・・・もしかしたらまかり間違って恋に発展したり・・・なんて妄想しているのは俺だけでは無いだろう。
ホームへ滑り込んできた電車に俺と真は素早く乗り込んだ。
俺も真も運動神経には自信がある。
そして今日もユキ姫の近くゲットー!心の中で小さくガッツポーズ。
近くで見るユキ姫はやっぱり可愛い!
背の低いユキ姫は人垣の中に埋もれてしまっているけれど、今日は隙間からバッチリ顔が見える。ラッキー!
顔、小さいなぁ・・・。髪の毛フワフワで柔らかそう・・・。
触りたい・・・。いや触っちゃ駄目だろ・・・。
あれ?
ユキ姫がやけにもぞもぞしている。
ん?何か泣きそうな顔してないか?
・・・
え?これってもしや痴漢?!
何とかユキ姫のところまで移動しようと俺がジタバタしていると、突然に2本の腕が上がった。
「あなた、結喜になにしているの?」
冷ややかな声が聞こえた。
生徒会副会長、「正しく」担当、神永 美央。
通称、神さま。
人垣を掻き分けて顔を上げた俺の目の前で、神さまがサラリーマンの腕を掴んでいた。
さすが神さま・・・強いこの人・・・