表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

第10話 涙の魔法




「お前、また昼アンパンかよ!今日で4日目だぜ?」


真の鬱陶しそうな顔を横目で見ながら、俺はアンパンに噛り付いていた。

「放っといてくれ」と言ってふと外に視線をやると、旧校舎の屋上に人が立っているのが見える。

普段人気の無いところに、今日はまた随分たくさんいるな・・・


ガタッ! 俺が余りに勢いよく立ったので、椅子が派手に倒れた。


「どうした?諒?」

「何か、やばい気がする・・・ちょっと頼みがある、真・・・」


それから俺は、旧校舎屋上まで全力疾走した。




屋上に続く扉まで辿り着くと、俺は音をたてないようにそっと扉を開いた。

さっき教室から見えた場所は、ここからだとちょうど死角になる。

俺の見間違いで無ければ、神さまがあまり柄の良くない連中に囲まれていた・・・



「私たちの出し物が許可されないって、どういうことよ!」


パサついた茶色い髪を振り乱して、大柄の女が神さまを突き飛ばす。

神さまの体が打ち付けられて、フェンスが派手に軋んだ。

苦痛に顔が少し歪んだが、気丈に神さまは言い返した。


「あなたたちのクラスは既に出し物を申請し、受理されています。それにあなたがたの申請書を見せて頂きましたが、ホストクラブ・・・しかもトップレスって・・・生徒会では、許可出来ません。それに価格も30分5,000円って・・・」


「生徒会の神さまだか何だか知らないけどぉ、今どき普通だから、ホストクラブ。水泳の授業の時だってぇ、上半身裸になるでしょ?トップレス別にいいじゃん!それとも何?生徒会長の裸を見慣れてるお高い神さまはぁ、俺たちの裸なんて興味無いって言いたいの?つか、俺とやってみる?悪いけどぉ、生徒会長なんかより全然いいと思うよ。」


やっちゃえやっちゃえと周りから捲くし立てられ、金髪に近い髪をした背の高い男が神さまに近付く。


「下らない・・・悪いけど、修一以上にあんたの裸になんか興味無いわ。何を言われても、許可出来ないものは出来ない。無駄よ!」


俺は、この状況で大勢を前にしても、背筋を真っ直ぐ伸ばして綺麗に立っている神さまに惚れ直した。でもこの状況で喧嘩売るって無謀すぎ・・・


「下手に出てりゃあ、いい気になりやがって!押さえとけ!」


金髪野郎の命令に、男が3人ほど前に進み出て、イヤラシイ笑いを浮かべながら、じりじりと神さまとの距離を縮めていく・・・

これは、本気でやばい・・・


「ちょっと、待った!」


「あれぇ、双子ちゃんじゃない?お兄ちゃん?弟くん?紛らわしい〜!つか、どっちでもいいけどぉ、何?何か用?今、忙しいんだけどぉ〜」


俺はさりげなく神さまを背に庇うように男たちの前に立った。


「やっぱ、ホストクラブは普通にまずいでしょ。あ、ちなみに俺、文化祭の運営委員ね。この学校ってさ、結構自由にやらせてくれて、あんまり厳しいことも言わないけれど、それって生徒会がしっかりしているからって知ってる?でも、いくら自由だからって、こんなことしていると君たちその内退学になっちゃうよ?」


「つか、別に退学なんて怖くねぇしぃ〜。そしたら、ホストやるしぃ。その方が稼げるしぃ。」


しぃ〜しぃ〜五月蝿い!と心の中では思ったが、神さまを後ろに庇っている手前、なるべく冷静に話をして穏便に済ませたかった。


「ホストって楽そうに見えるけどさぁ、案外大変らしいよ。俺の知り合いの話だと、稼げるのなんてほんの一握りの人たちだけで、あとは本当辛いらしい。2LDKに4人で住んでたりするらしいよ。先輩とかもかなり厳しいしね。そもそも深夜労働だから、俺たちの年齢じゃ働けないね。俺だったら、断然ぬくぬくと学生生活を送ってる方がいいなぁ〜」


「そっか〜じゃあ、ホストは諦めるわ。そこ退いてくれる?俺たち、まだ神さまに用事あんだわ。」


「まいったなぁ。俺も神永さんに用事あるんだよね。譲ってくれない?」


「つか、マジ後にして。俺らも頼まれたことあるからさぁ、悪ぃけど、また後で来てよ。」


「頼まれたこと?」


「何なら、あんたも一緒にやる?これからさぁ、神さまのヤラシイ写真撮らなきゃなんなくてさぁ・・・」



なるべく冷静に話をしようと思っていた俺の中で、ブチっと何かが切れる音がした・・・



「・・・誰に頼まれた?」


突然低くなった俺の声に金髪野郎が、一歩退いた。


「・・・つか、それ言う訳無いっしょ・・・」


こんなヘナチョコ男が何人束になったって、負ける気はしなかった。

俺は、金髪野郎の胸ぐらを掴んで睨みながら、耳元へ囁いた。



「もし、神さまに何かあれば、黙っちゃいない。お前の将来なんて握り潰してやる。俺、手段とか選ばないタイプだから。」



俺が手を離すと金髪野郎はフラフラっと後ずさった。



そこへ、絶妙なタイミングで真の声。教室のベランダからこっちに向かって手を振っている。


「お〜い!諒!今岡先生がお前のこと探してたから、屋上だって言っておいたぞ〜!そろそろそっちに行くと思うから、そこで待っとけよ〜!」



不良たちは「まずい!先生来るって!」とそそくさ屋上を去って行った。

ナイスタイミング!真くん!俺はベランダの真に投げキッスをオーバーアクションで送った。



さて、屋上に取り残された俺と神さま。真が叫んだせいで、あちこちの教室からこちらを見ている生徒がいる。


「注目の的だな・・・とりあえず、向こう側に周れる?」




教室から死角になっている方へ周ると、神さまが突然座り込んでしまった。


「ごめんなさい・・・腰が・・・抜けちゃった・・・」


恥ずかしそうに俯く神さま・・・見ると少し涙ぐんでいた。


俺は、ほとんど無意識に神さまを抱きしめて、背中をポンポンと叩いて「もう大丈夫」と囁いた。それを合図に堰を切ったように泣き始める神さま・・・

まだ震えている肩は、思っていた以上に華奢で、俺の両手にすっぽり納まる。

俺は、どうすることも出来ずにずっとポンポンを繰り返した・・・




「ありがとう・・・ごめんなさい・・・今岡先生来ちゃうわね・・・」


少し落ち着いたらしい神さまが、俺から体を離して呟く。表情はもういつもの神さまだ。


「ああ、あれね。大丈夫、たぶん嘘だから。」


「嘘・・・?なんだそうだったの・・・すっかり皆騙されたわね。」


「これぞ双子の見事な連携プレイってやつね!」


神さまは笑って立ち上がり、スカートの埃をパンパンとはらった。


「私、人前でこんなに泣いたの初めて・・・何か魔法でも使った?」


「ん〜・・・実は俺、昔泣けない子供でね。親父が抱きしめて背中をポンポンってして『泣いてもいいんだぞ〜』って言って、初めて泣く子だったのね。恥ずかしいんだけど・・・」


「素敵なお父様ね。」


「愛情だけは満腹にもらってるね・・・もうご馳走様って言いたいくらい・・・」


「フフ・・・本当にありがとう。私、もう大丈夫だから。そうだ、お願いがあるのだけれど。今日のことは、生徒会の皆には黙っていてくれる?忙しい時期だから、心配掛けたく無いし。」


「・・・うん。でも、大丈夫?」


「平気。あ、私が泣いたことも内緒にしてね。諒多くんに泣きついたなんてこと知ったら、結喜が悲しむかもしれないし・・・私の勘だと、結喜は諒多くんのことが気になってると思うのよ。」



神さまはクスッと笑って悪戯っぽい目で俺を見た。

ああ!そんな表情も可愛いなぁ・・・なんて呑気に思った俺に「頑張って!」と言い残して神さまは去って行った・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングにご協力下さい。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ