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#2 動き始める二人の時間

私の名前は(ゆい)。来年、高校進学を控える中学生だ。


昨日掛かってきた電話のことを、幼なじみである佐藤 (かなえ)に話す。


「あんたたち、まだ喧嘩してんの?」

彼女は呆れ顔だ。しかし、私にとって簡単に解決する問題ではない。

「だって!」

「はいはい…羨ましいんでしょ?それは自分が結果出すしかないってことくらいわかってるでしょ?」

言葉を続けようとすると遮られた。

「で、でも、元はといえばお兄ちゃんがひとりで神坂高校行くって言い出したのが原因だもん!」

「でも、あいつは何も悪くないよね?可哀想だよ」

彼女は的確に反駁(はんばく)する。言い争いに勝てた例がない。

「う、うん…」


「そろそろ、仲直りしたらどう?あいつも困ってるみたいだし…」

「でも、今更…言いにくいよ」

「はぁ~、分かった分かった。私が掛けてあげるわよ…」

いつもこの流れになる。


「ありがとう…」

少し申し訳ない気持ちを抱きながらも、お礼を言う。

「じゃ、放課後ね。言っておくけど、きっかけ作りしかしないからね!あとはあんたたちでどうぞ」

「分かってるよ。ありがと」


そんな会話をしながら、一学期最後となる体育の授業の準備をした。

「先生が休まなきゃ、こんな日にすることなかったのに…」

「仕方ないよ。先生だって休む時あるよ。あんたの好きな陸上なんだから、いいじゃない?」

「まぁね♪」

今日は走り高跳びと走り幅跳びをする。やる気満々である。


真夏の照りつける太陽が肌を焼く。日焼け止めを塗るものの、汗で早くも流れ落ちる。


走り高跳びは順々に飛んでいく、最後まで残ったのは男子二人と私。陸上部のメンバーである。


男子には負けたくないと思い、跳び続ける。

ひとりが脱落し、一騎打ちになる。


女子全員と、相手を負かしてほしいと願う一部の男子からエールを送られる。

助走を付けてバーの手前で踏み込んだ瞬間、バランスを崩した。


わっ!

跳ぶことはできず、バーをなぎ倒してマットへ倒れた。

「だ、大丈夫!?」

みんなが駆け寄ってくる。

「大丈夫、大丈夫。ちょっと目測を誤っちゃった」

みんなに無事を報告する。

「大丈夫か?」

「大丈夫です。すみません」

先生にも無事を報告し、みんなの元へ行く。


こんなことは珍しい。私にとって難しい高さではないし、調子が悪いわけでもない。

そのまま授業は終わり、あっという間に放課後になった。


徐々に陰が迫る、学校の中庭のベンチに二人が座る。

叶に電話を掛けてもらう。

「あっ、もしもし、わたし、叶だけど。今大丈夫?……うん……結がなんか話がしたいって…うん、分かった。代わるね」

「もしもし……私だけど……」

「なんだよ…わざわざ叶を通さなくてもいいだろ、何事かと思っただろ」

「あのさ…ごめん……なんか、今までいろいろと怒ったり……とにかくごめん…」

「べ、別にいいよ。気にしてないし…」

「お兄ちゃんが、私の行きたい高校に入学して、寮に入っちゃって、ちょっとうらやましかったんだ……本当にごめん」

「そうか……まぁ、理由が分かって良かった。約束のことかと思ってたけど、違うんだな」

「それは怒ってるんだからね!」

「マジか、それは本当にすまん」

「まぁ、お互い様ってことで、そろそろ返してね」

叶が私の持つ携帯を奪う。

「じゃあねー」

電話を一方的に切る。


「あっ、待ってよ」

止めようとしたが駄目だった。

「後はふたりで話しなよ。ほら、きっかけ作りはしてあげたよ」

彼女は役目を終えたと言わんばかりに立ち上がり帰ろうとする。

「ちょ、ちょっと待ってよ~」


いつもこんな感じで人に頼りきりなのだ。これではいけないと思いつつも、優しい友人の手助けを借りてしまう。


自分が作ってしまった兄との溝を埋めることはできた。

完璧に私が悪いため、兄と顔を合わせにくいことはないが、少しだけ後ろめたい気持ちを抱えていた。

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