噂の君
さて、女家庭教師とくれば『先生』と敬われる一方で、雇われの身でもあります。
そんな訳で、部屋は個室(期間限定ですからね)昼食とお茶の時間は授業の合い間なので、ルナリア様と過ごしますが――朝晩の食事は、侍女の皆さんと一緒になります。
「今日も、セダム様は麗しかったわ」
「わたしは、レイシ様ね。あの爽やかな笑顔……素敵っ」
「あら、殿方はリオン様みたいに逞しくないと!」
妙齢の女性が集まれば、当然のようにイケメンの話題が上がります。しかも、ここは皇宮ですからね。イケメンランキングの常連であるお三方は、それぞれ宰相補佐に書記官、あと近衛隊長となかなかにハイスペックです。
あ、ルナリア様の兄君であるイベリス帝の名前が上がらないのは、既婚者で子持ちだからですよ? ルナリア様と同じ銀髪と緑瞳の持ち主で、独身の時はさぞ騒がれたと思います。
……話が逸れてしまいましたが、この話題はいつもこう締め括られるんです。
「「「でも、やっぱり一番は『シラン様』よね!」」」
シラン様、と言うのはそもそもこの国の方ではありません。
ディアスキアの前国王の弟で、二年前に事故で亡くなった兄夫婦の代わりに、残された甥であり現国王であるエルダー様の後見人を務めています。
そんな彼は、エルダー様の名代として婚姻の申し出を伝える為、このリアトリスを訪れたのですが――その圧倒的な美丈夫ぶりで、皇宮中の女性のハートを鷲掴みにしたそうです。
あ、他人事みたいな言い方になるのは、私が本人を見ていないからです。私が雇われたのは、婚姻が決まってシラン様が帰国した後ですからね。
ただし、事あるごとにその名前と容姿、あと恋多き殿方だと聞かされました。流石にリアトリスでは『お手つき』はなかったそうですが、ディアスキアでは何かと浮名を流されているそうです。
(TVもネットもないのに、他国までスキャンダルが伝わるとか、何それ怖い)
なんて最初は引いたりもしましたが、自慢げに見せられた絵姿(確かにイケメンでした)やその恋愛遍歴を聞くうちに、次第に興味が湧いてきたのです。
……恋ではない、と思います。
前世も現世も、彼氏いない歴=年齢な私ですから、断言は出来ませんが――恋する乙女なら、その相手の物語を書き出す時にヒロインは自分にすると思うんですよね。