恋とはどんなものかしら
シラン様の婚約者にジョブチェンジした後も、私は王宮で暮らしています。即位こそしていますが、エルダー様はまだ未成年で。成人するまではシラン様も王宮で暮らし、その後は王宮別邸に移動することになっていました。
「だから、四公爵家が五公爵家になる予定だったんだけど……義父の暴走に対して、ユニフローラ嬢が降爵、あと義父の『療養』を理由に父娘で領地に戻ることを求めてきたんだ。だからフォーム家は役職を『自己都合』で辞したことで、公爵から侯爵になる代わりに領地は継続。代わりに、私が公爵になることになったよ」
「そうなんですか」
「まあ、良い落とし所だよね。とは言え、エルダーも結婚するし。私も君っていう最高の伴侶が出来たから、別邸に早めに移動しないとって思ったんだけど……ルナリア姫が、もう少し君と一緒にいたいって言うからね」
「はぁ……」
肩を竦めるシラン様に、私はそうあいづちを打つしかありませんでした。まあ、そんな訳で当初の予定通り、エルダー様が成人するまではシラン様と私は王宮で暮らすことになっています。そして、エリカさんも私の侍女を続けてくれていますし、今もハーフアップにするようになった私の髪を梳いて結ってくれています。
「シラン様以外と、お付き合いしたことはありません」
それは現世だけではなく、前世でも同じです。ただ、エリカさんにはそこまでは言わずにいたら、呆れたように尋ねられました。
「それは、周りからの好意に気づいてなかっただけじゃない? シラン様にエスコートされてたから遠慮というか様子見はしていたけど、文官の方々とか騎士の方々とか、ドレスアップしたミナに興味津々だったわよ?」
「それは、カルーナ様のドレスとメイクのおかげです。あと子供の頃、周りに同年代の子供がいなかったのと、本の読み過ぎで眼鏡をかけるようになったので、本当に無縁だったんです」
そう、私の生まれ育った村の未成年は私より五歳以上上か、逆に五歳以上下しかいなかったのです。元々、その年の差では恋愛対象にはなりにくかったですし、今言ったように早いうちに今の『ほぼ眼鏡』の状態になりましたからね。
とは言え、話が逸れたので私は話題を替えるというか、戻すことにしました。
「私が言いたかったのは……恋愛経験がないので好きになったら嬉しいことばかりで、不安に思うって想定自体がなかったんですよね。ただ、シラン様に対しては……模擬戦だけでも不安で、ハラハラしてそれこそ吐きそうになりました」
「言い方……まあ、でも恋愛経験がないって言うけど、ある意味、核心を突いてるんじゃない?」
「えっ?」
エリカさんの言葉に戸惑い、背後の彼女を鏡越しに見上げると、エリカさんは笑って話の先を続けました。
「好き『だから』ちょっとしたことで不安になるのよ。結婚するくらい好きなのに、不安で最悪、婚約解消になることだってあるんだから……まぁ、なくならないものだからうまくつきあってくしかないわね」
「……先生っ」
「いや、ただの体験談だから……厳つい男性が好きって、言ったでしょう? 私の好きな人って、うちの商会が外国に行く時に護衛してくれる、筋肉隆々の私兵さんだから」
「え」
「片想いだけどね? 告白してるけど、子供扱いされていて……働きに出たのは、自立したかったからなのと万が一、彼が怪我でもした時に支えたかったからなの」
エリカさんの説得力のある発言に、ついそう言った私でしたが──思いがけないカミングアウトに、驚くことしか出来ませんでした。
コミカライズ第11話を拝見しました。こじらせミナが、自分の気持ちを自覚したところ…良かったー! 自分の萌えが妄想以上になったのを見られて、本当に良かった!(拳)
書いているうちに、エリカの好きな人の妄想が膨らみました。本編は完結していますし、この番外編更新もコミカライズ終了までの予定ですが…スピンオフで書くか? いや、でもそれならユニフローラ様とかあとほぼ出てこないユッカとかも(悩)




