続・この物語はフィクションです
とある宴で、数人の貴族の男性が「城下町にも『華』はある」とうそぶいていた。令嬢のように洗練された美しさではないが、淑女教育を受けていないからこその無邪気さが愛らしいのだと。
(亡き母も平民で、行儀見習いで王宮に勤めて……そんな母に、父は癒されたそうだが)
今までは話だけでしか知らない母の面影を求めて、美しいと評判の貴族夫人や令嬢と付き合ったが──本当に母に似た女性を求めるのなら、城下町に行ってみるのも良いかもしれない。
とは言え、王族としての格好のままで行ったら緊張を通り越して、萎縮して逃げられてしまうかもしれない。
だから彼は、悪友に相談して眼鏡をかけ、使用人に用意させた服を着た。平民、と言うには難しいかもしれないが、せめて商家か下級貴族の若君に見えるくらいの格好で赴いた。そして、活気のある街並みを何の気なしに眺めていると。
「あっ……」
「おっと」
娘が抱えた紙袋から、果物が一つ転げ落ちる。
彼はそれを拾い、目立った傷がついていないことを確認して、娘へと渡そうとし──琥珀色の瞳を、我知らず見開いた。
「ありがとうござ、い……失礼しました! ありがとうございましたっ」
まずお礼を言ってきたことに、好感が持てた。
けれど彼の顔に見惚れ、すぐに我に返って素直に謝る。そのくるくる変わる表情や、深々と頭を下げる様子を彼は微笑ましく、そして愛しく思った。
見た目は、話で聞く母との共通点はないが──父はこんな風に、母に癒されたのではないかと思った。
※
「あの、私には夢女子属性はないのですが……」
「夢女子?」
「好きな登場人物と、自分を投影した登場人物を恋愛させる女性のことです」
「そうなんだね……だけど主人公である私が、ミナに似た登場人物と恋愛したくてお願いしたんだから問題ないよね?」
「……いたたまれない」
こんにちは、ミナです。
ルナリア様達にリクエストされ、さて花嫁教育の合間に『グロリオーサ物語』の続きを書こうとしたら、シラン様から「平民の、ミナのような女性との恋愛話が読みたい」と言われました。
そんな訳で、書いてみたのですが──以前、お忍び姿のシラン様を拝見したこともあり、主人公は全く問題がないのですが、自分のような平民女性に対しては羞恥に悶えつつ書きました。
「うん、可愛い。本になるのを、楽しみにしているよ」
「え? いえ、シラン様に捧げたので本にするつもりは……」
「酷いわ、ミナ!」
「えっ!? ルナリア様!?」
「そうだよね、ルナリア嬢」
書き上げた話を、自室にいたシラン様の部屋に届けて読んで貰っていると、ノックせずルナリア様が登場しました。焦りましたが、シラン様は平然とルナリア様の言葉に頷いています。
「そもそも、シラン様にだけ読ませるなんて! 嫁いでくる時に『グロリオーサ物語』の続きを読ませてくれるって、私と約束したでしょう!?」
「それは、そうですけれど……あの、シラン様は今回の登場人物と添い遂げるように言われたのですが、それでは話が終わってしまうので……シラン様だけの番外編の扱いにしようかと」
「それは……いえ、大丈夫よ! 仮に二人が結ばれても、子供世代の話を書けば問題ないわ!」
「それは素晴らしいね。子供は……次の主人公は男と女、どちらがいいだろう?」
「ええ……?」
力説するルナリア様は新妻ですが可愛らしいし、シラン様が向けてくる笑顔も眩しいのですが──前世の有名作家の書く話のように、長期シリーズになることが勝手に決定したことに私は言葉を失い、遠い目になるのでした。
コミカライズ第9話を拝見しました…お忍びシラン様、またタイプの違うイケメンで良き( *´艸`)でも、最後登場したマロウ司教もイケオジで好き!
シラン様だけじゃなく、ルナリア様からもリクエストがくれば断れない…そして、勝手に子供世代の続編を書くことが決まりました(笑)




