相反する心
明るくてお人好しな男と、そんな彼を健気に支える女と。
その二人は、この国──ディアスキアの王太子と、その婚約者である侯爵令嬢だった。貴族の令嬢令息が通う学園でディサ・フォームは二人と出会い、親友となって卒業して王太子が国王になってからも、宰相となって二人を支えた。
「ディサは、本当に頼りになるな!」
「あなたってば……気持ちは、解るけれど。あまり、甘えてばかりでは駄目よ?」
「いいんだ。私は、お前達の為に働けるのが嬉しいんだ」
それは彼の本心であり、偽りでもあった。
……国王夫妻の為に働き、代わりに正々堂々と国を動かす力を持つ。そのことが、楽しくて仕方がなかったからだ。
そんな彼の心には気づかないまま、王妃は子供を産んで国王はディサにその赤ん坊を抱かせた。男の子だった。
「俺の息子だ。可愛がってくれよ!」
自分の指を掴んでくる小さくて可愛い、けれど次期国王となる赤ん坊を、彼は大切に守ろうと誓った。国王夫妻が、エルダーの成人前に急逝したから尚更である。二人が目指した明るく優しい世界を、エルダーと共に叶えようと思った。
しかしここで、彼の前に邪魔者が現れてしまう。
(シラン……『あの』国王の弟とは、とても思えん)
母親の身分が低く、早くに近衛騎士団長の家に預けられたが──子供とは思えない静かな目で、シランは周囲を、そして国王夫妻やディサを観察していた。それでも、騎士の一人なら良かったが国王夫妻が亡くなり、王族がエルダー一人だけではという声が上がったことで王宮へと招かれた。
(素直なエルダーと違って、まるで私の思い通りにならん)
妻を娶らせようとしても笑って逃げられるし、何とエルダーの婚姻話までディサを通さず、勝手に決めてしまった。先に話を通してしまい、エルダーがルナリア姫を気に入ってしまったので止めることが出来なかったのだ。
(まさかエルダーが、自分の字を恥じて練習するなんて……今までは、気にせずのびのびと書いていたのに。このまま、皇女の影響を受けて食や服などの好みも変わるのか?)
考えるだけで、腹が立った。皇女も、そんな皇女を紹介したシランも許せなかった──だから、彼は婚姻の為にディアスキアに来ることになったルナリア姫を、シランと共に亡き者にしようと思った。
……結果として、シランに仕える魔導士に捕まって果たせなかったけれど。
「ああ、支えようと思ったのは嘘ではない。だが……エルダーは、成長してはいけないんだ。ずっと素直に、私のいうことを聞いていればいいものを……いきなり、他国の皇女と結婚だなんて……」
彼の相反する心に気づきながらも、彼のことを優しいと言った平民の娘。
不思議と、思い通りにはならないがシランや皇女と違って腹は立たず、初めて本音すらこぼすことが出来て──そんな彼女を優しく見つめるシランを見て、今更ながらにディサは気づいた。
……皇女はともかく、ディサがシランを憎んだのは『同族嫌悪』だったのだと。
彼に騙されて親友だと、もう一人の父だと笑った国王夫妻やエルダーとも、彼の歪みに気づいて微笑みながらも警戒していたシランとも違い。
こちらを闇雲に否定せず、静かに受け留めようとした娘の眼差しを、おそらく今の彼のようにシランも心地好く感じたのだろうと。
小説ではさらりと終わった部分が、今回のコミカライズ第五話では台詞が増え、ディサ・フォーム様のアップとなり…萌えて、書いちゃいましたよ!(拳)




