甘いお話
本編完結後の、付き合っている二人の話です。
「改めて……ミナは、食べ物は何が好きだい?」
「あの」
「好きな色は? 花は? 君が、少しでも我が国を好きになってくれると嬉しいな」
二人での(勿論、給仕はいますけど)朝食の席で、シラン様がそう切り出されました。
同じことを以前、馬車に乗っていた時に今のようにシラン様から聞かれたことがあります。
あの時は、シラン様が私を女性からの虫よけとしようとしていると思っていましたが――真相が解り、両想いとなった今だと何と言うかこう、こちらの気持ちが違います。
(シラン様は、演技ではなく本当に知りたがっている)
そうなると私としては、恋人であり推しでもあるシラン様に出来る限り答えたいと思う訳で。
「好きな色は白で、好きな花は菫です」
「へぇ。婚姻の時のドレスは元々、白にしようと思っていたけど菫の刺繍を施して貰おうか」
「カルーナ様の、ご負担にならないでしょうか?」
ルナリア様のウェディングドレスは、仮縫いまでは終わっています。とは言え、私のドレスは既製品ではなくオーダーメイドなのでまた一から作るのです。それなのに、更にオプションをつけて良いのでしょうか?
「じゃあ、紫色の宝石をドレスに縫い付けるようにしようか?」
「……すみません。無理にとは言いませんが、刺繍でお願いします」
「ああ」
オーダーメイドのドレスだけでも高額なのに、更に値を吊り上げることをされるなんて心臓に悪すぎます。内心でカルーナ様に謝りつつ、私は話題を替えることにしました。
「食べ物は、まず嫌いなものがありません。前世が孤児で、現世は平民なので食べられるだけでありがたいと思っております」
そこで一旦、言葉を切って私はですが、と言葉を続けた。
「リアトリス皇国で、初めてチョコレート……カカオを使ったケーキを食べて。前世でも食べたことはありますが、この異世界で食べられると思っていなくて。流石、皇族は違うと感動しました」
「……王族だって、負けないよ」
「えっ?」
「カカオを使ったケーキだよね? 君が知っているのは、リアトリスで食べたそのケーキだけ? 他に、食べてみたいものはない?」
にこにこ、にこにこ。
笑っていますが、シラン様からすごい圧を感じます。流石にまさか、とは思いません。シラン様は、リアトリスのチョコレートケーキに嫉妬しています。
(いや、でも平民の甘味は、焼き菓子までで……それはそれで美味しいけど、まさかチョコレートが食べられるなんて思ってなかったから……あ)
そこであることを思い出して、でも、それを口にして良いかどうか迷って、私はおずおずとシラン様を見上げました。
それに「ん?」と優しく微笑むシラン様に、私は観念して前世の知識を――リアトリスで食べたのは『ガトーショコラ』で、他に『ザッハトルテ』というチョコレートのスポンジの上にアプリコットジャムを塗り、表面全体をチョコレートの糖衣でコーティングしたケーキがあることを教えました。
……そのザッハトルテが、ディアスキアを代表するお菓子の一つになったのは、また別のお話です。




