噂の真相
本編完結後の、付き合っている二人の話です。
シラン様の婚約者となり、ディアスキアで花嫁教育を受けている私はある日、ふと思いました。
(シラン様は、恋多き殿方と聞いたけど……実は昔からずっと、私を思っていたのよね? それなのに何で、そんな噂が流れたのかしら?)
シラン様の気持ちを、疑うつもりはありません。と言うか、それこそ溺れるくらいの愛情を示されているので、疑う余地がないというのが正しいでしょうか?
ですが、火のないところに煙は立たないと言いますし、何なら他国であるリアトリス皇国までシラン様の噂は広まっていました。更に、悪意の有無はともかく――ありがたいとは思えませんが、本当に親切心な方もいらっしゃるので――ディアスキアに来てからシラン様の武勇伝や何なら昨日、招かれたパーティーで一夜の相手という奥方と会いもしたのです。
(昨日は、いつの間にか現れたシラン様が「美しい過去をありがとうございます。彼女と素敵な未来を約束しましたので、今後は祝福して下さいね」って言って、場をまとめて……私の後ろに立ってたから、シラン様の顔は見えなかったけど。ご婦人とそのお友達方が真っ青になってたから、笑声だったけど顔はすっごい怖かったんだろうな)
しかしお相手がいるということは、やはり噂だけではなく事実で――訳が分からなくなった私は、夕食の時にシラン様に尋ねることにしました。
「シラン様? 小説の中で、貴族の奥方を妄想したことがありましたが……今後の参考に、シラン様の過去のお相手の話をお聞きしても良いですか?」
「……直接、聞いてくれたのは嬉しいけど。嫉妬とかは?」
食事を終え、お茶を飲み終えたところで切り出すと――苦笑したシラン様から、そう聞かれました。それに少し考えて、私は答えました。
「ないと言えば、嘘になりますが……私が最後の女になれるなら、まぁ良いかと」
「……最初も最後も、何ならその間もずっと、君だけだよ?」
重いことを言ったかと思ったが、シラン様はむしろドンと来いだったようです。すごく嬉しそうに笑っています。
けれどそれなら何故、女性との噂が流れたのか――その疑問に戻ったところで、シラン様は答え合わせをしてくれました。
「異母兄が亡くなるまでは、宮廷の花形の近衛騎士で。その後は、王族になって……どちらでも、女性からは好かれたけど。時には人気のないところに呼び出されて押し倒されたり、一服盛られたりもしてね」
「え」
「ああ。ユッカにお願いしてこの身に危険が起きたら相手を眠らせたり、媚薬などを無効化するアクセサリーを作って貰ってたから……あと、逆にお酒で酔い潰したり? ただ、女性の影があった方が他の女性からの告白や縁談を断りやすかったら。あえて誤解させてたんだよね」
「…………」
何と言うか、ロマンスと言うよりバトルだったんですね。
妄想と現実との違いにしみじみと思いながらも、私はシラン様に言いました。
「……私を待っていてくれて、ありがとうございます?」
「何故、疑問形? まあ、どう致しまして」
「これからは、一緒に未来を紡いでいきましょう」
下世話な話なので口にしませんが、私に操立てしていたと言うのなら――これだけ色気満々なのに、色々初めての可能性が出てきました。少なくとも、素人女性とのお付き合いは私が初めてだと思われます。
(恋愛初心者同士、頑張りましょう!)
心の中で拳を振り上げて気合いを入れた私に、シラン様は「ああ」と笑って頷いてくれました。




