母の想い
前世の記憶『も』ありますが、私には現世の――前世の記憶に目覚める前の、亡くなった母との記憶もあります。
母も早くに両親を亡くし、学校などには通っていませんでしたがお針子として、近隣の村人達からの依頼だけではなく、教会を飾るマットやタペストリーの刺繍も請け負っていました。
そんな母・テラが、父についてよく言っていたことがあります。
「ミナ? お父さんは顔も綺麗で、頭も良くて、ご飯作りもまずまずだけど……完璧だって、思っちゃダメよ?」
「……どうして?」
ミナと同年代の女の子達(母が生きていた頃なので五歳くらい)は、幼いながらも女性というべきか、美形な父親のことを絶賛していました。
それを母に話すと「あなたにも、そろそろ教えておかないとね」と言って、事あるごとに父は完璧ではないと言うのでした。
とは言え、初めてそう言われた私は何故、母がそう言うのか解らなくて尋ねました。そんな私に、針仕事をしていた母はこう答えました。
「お父さんは、針仕事がミナよりも苦手でしょう?」
「うん。すごくじかんをかけてもガタガタだし、たくさんはりでゆびをさしちゃう」
けれど、周りの友達は「男の人は普通、針仕事をしないから欠点じゃない」と言いましたし、それはそうだと私も思いました。だから、と私が母に言うと「子供なのに、すごく正論を言うのねぇ」と感心されました。そして髪と同じ栗色の瞳で真っ直ぐに私を見返すと、唇に指を当てて内緒話を始めたのです。
「お父さんには、内緒ね……お父さん、完璧って言われたり思われたりするのが、苦手なのよ」
「え?」
「人並み以上に色々出来るんだけど、完璧って言い換えれば「欠点がない」ってことでしょう? でも、そうじゃないから悩んじゃうし、あんまり言われると逃げ出したくなるの」
「にげ……? ど、どうしよう、おかあさん!?」
母の言葉に、まだ前世の記憶がなかった私は真っ青になりました。いえ、仮に前世の記憶があったとしても、大人の噂話(ドロップアウトして逃げてきた)を聞いていたので、それはそれで慌てふためいたと思います。
そんな私の頬を安心させるように撫でて、母は優しく話の先を続けました。
「お父さんのことは『頼りない』くらいに思ってあげて? わたしやミナがそう思ってたら、お父さんはここにいてくれるから」
「……うんっ!」
「ありがとう。お母さんとの約束ね」
「うん、やくそく!」
そう答えると、幼い私は誓うように母の手に自分の手を重ねて言いました。異世界では指切りがないので、言葉で誓うのもですが手を重ねたり、握手をしたりして約束するのです。
「あ、この糸くずを捨ててきてくれる?」
「うんっ」
そして幼い私にも出来る仕事を与えられ、ごみ箱へと向かった私には母の呟きは聞こえませんでした。
「……ミナはミナで、人の為に頑張る子だから。これでお互い、うまくいくわね」
コミカライズは、一話が三~四分割されていて。明日日曜の更新で、アプリへのログインポイントを使って第二話が最後まで読めます。
私の小説が、小説以上に面白い漫画になっているのですが…その漫画で、ミナが父を「頼りない」と言っていたのに妄想した話です。と言うか、漫画のお父さんとっても美人さん( *´艸`)




