新事実が渋滞しています
「シラン様……も?」
自分と同じ地球の、そして日本からの転生者なのでしょうか?
そう思って尋ねましたが、意外にも私の視線の先で首が横に振られました。
「私じゃない……私の母が、異世界の記憶持ちだったんだ」
「えっ?」
そして意外なことを告げると、シラン様は手を離す――のではなく、逆に握る手に力を込めてお母様のことを話してくれました。
シラン様が生まれてすぐ、お母様は亡くなられたそうなので直接、聞いた訳ではなく。
「日記……という体で、自分の前世の記憶を書き記して残してくれたんだ。もっとも、最初は子供心に『病気で心も病んでいたのか』と思ったけどね」
「…………」
何というか、返答に困ります。
けれどそもそもここには異世界という存在自体がないからこその、本心だと思いました。そう考えると同じ条件なのに、あれだけ異世界転生や異世界転移の物語を生み出せた前世の世界は、やりたい放題――だと酷いので、発想が柔軟としておきましょうか。
「ただ、物語として読むと自由で、とても面白かった……高い識字率と、教育制度。身分制度がほとんどなく、魔法のような物や乗り物が普通の生活に息づいている」
「……ええ」
「そう、良く出来た物語だと思っていたんだ……君が現れて、母の手記に書かれていた香草の使い方をするまでは」
「っ!?」
話題が自分へと繋がったことに、驚いて息を呑む。
そんな私から琥珀色の瞳を逸らさず、シラン様は言葉を続けました。
「知らなければ、単に発想力の素晴らしさに感心しただろう。だが、私は母の手記を読んでいた……母は、この国を出たことがない。そんな母だけが持つ筈の知識を、別の国で生まれ育った君が広めていた」
「それは……」
「そこで、母の手記が現実味を帯びた……ある意味、同郷出身だと思えば納得出来る。そう、君が亡き母と同じ異世界出身なら。そう思って、君のことを調べたんだ」
思っていたよりも前から、しかも予想外の理由で目をつけられていたことに驚きました。
そして母親と同じ境遇だからか、と思ったところで――私はふと、あることに引っかかりました。
(……待って? 私、自分の話で何て書いてた?)
シラン様に萌えて書いた主人公は、母親の面影を求めていた、と。
……そうなると『同じ異世界の記憶持ち』も、もしかしてお母様との共通点に入るのではないでしょうか?
あと、仮にマザコ(以下自主規制)ではないにしろ、前世の記憶を利用しようとしていたら?
「まっ……」
「ああ、誤解しないでくれ。きっかけではあるが、別に君の話のように母親との共通点に惹かれたり、君の知識を悪用しようとはしていないよ」
「…………」
慌てて制止しようとしたところ、心を読まれたのかと思うくらい、ピンポイントで反論されました。それに言葉を詰まらせると、私を見る琥珀色の瞳が三日月のように細められました。
「むしろ、母との相違点に惹かれたしね」
「えっ……」
「亡き母は、容姿だけではなく前世の知識を活かして王宮に入り、父の目を惹いた。それはそれで興味深いが、君は真逆だよね?」
確かに私には、ノリノリで富裕層の愛人になるバイタリティはありません。
……と言うか、勝手に儚げなイメージ(多分、光源氏の母親・桐壺更衣から)でしたがシラン様のお母様、なかなかに逞しい方だったんですね。