離れることを決めました
今まで気づかなかったと言いますか、無意識に目を背けていたシラン様への恋心を自覚させられた日。
邪魔をしたくなかったので、二人の試合が終わるまでは頑張りましたが――その後は、体調不良を理由に部屋へ戻らせて頂きました。申し訳ない限りです。
(とは言え……下手にシラン様と話したら、馬鹿なこと口走りそうだったし)
そう、たとえば「危ない」とか「無茶はしないで」とか。
シラン様から言い出したのに、何様としか言えないですし。百歩譲って、好意的に捉えられたとしても――いや、それはそれで困るので、やはり余計なことを言わずに退場したので正解です。
(ディアスキアに来る前に襲われた時は、ルナリア様を守るので必死だったから……シラン様を見ていなかったのは、良かったのか悪かったのか)
あの段階で解っていれば、そもそもディアスキアに来ていなかったと思います。
とは言え、そうなると歓迎の宴や、実の叔父に会うこともなかったので悪いとも言い切れず。
(……ちょっと、頭冷やすか)
まとまらず、むしろ迷走する思考を振り払うようにため息をついて、私は寝台から起き上がりました。
横になるのに髪を下ろし、夜着に着替えています。寝ている間は眼鏡を外していましたが、窓まで行くのにも裸眼だと心許ないので枕元に置いていた眼鏡を再びかけました。
ちなみに食欲がないと言った私の為に、エリカさんはじゃがいもの冷製スープとパンを用意してくれました。最初は体調が良くなりお腹が空いた時は、呼び鈴を鳴らすよう言われましたが――私が断ると、同じ平民として遠慮する気持ちを汲み取ってくれたのでしょう。妥協案として、軽食を用意してくれたのです。
(ありがたい……王宮を去る時は、きちんとお礼を言わないと)
元々、シラン様にお断りを入れてディアスキアを後にするつもりでした。
それは、気持ちを自覚した後も変わらず――むしろ下手に気づかれる前に、離れる気満々です。
(今日は日が暮れたから無理だけど明日、朝にエリカさんとルナリア様にお礼と挨拶して……シラン様にお断りしたら、早くて昼過ぎには王宮を出られるかな?)
王宮から平民街まで、二キロから三キロくらいでしょうか? 私一人なので歩いても良いのですが、日が暮れるまでに平民街から馬車に乗らないと門が閉まり、ディアスキアを出られないので――商人の方などの馬車に乗せて貰えるか、明日エリカさんに聞こうと思います。
(だとしたら……夜風に当たって頭冷やしたら、少しでも食べて寝ないとね)
そう決意して、私は窓を開ける為にまずカーテンを開けたのですが。
「やあ」
「…………ごきげんよう。夜の、お散歩でしょうか?」
私の部屋は、二階です。
けれど窓の向こうで、私に笑顔で手を振ってきたのは――初めてお会いした時のように、宙に浮いていた魔導士・ユッカ様でした。




